
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
目次
第1 強制捜査の基本概念
1 強制捜査とは何か
強制捜査とは、警察や検察等の捜査機関が、犯罪の捜査をするにあたり、被疑者や関係者の意思に反して身体・住居・所持品等を捜索したり、物を差し押さえたりするなど一定の強制力を伴って行う捜査手続のことを指します。
例えば、被疑者や関係者から任意で協力を得ることが困難な場合や、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合等に実施されます。
強制捜査は、個人のプライバシーや財産権等に重大な影響を及ぼすため法律で厳格に手続が定められており、原則として裁判所の発する令状に基づいて行われます。
2 強制捜査の法的根拠
強制捜査の法的根拠は、日本国憲法や刑事訴訟法にあります。
憲法第35条では、住居の不可侵や捜索・押収は令状によってのみ許されるという、いわゆる令状主義が定められています。刑事訴訟法では、具体的な捜査手続や令状の種類、執行方法等が詳細に定められています。
これらの定めは、裁判官による令状審査など、あくまで法の支配の下で強制捜査を行わせることにより、恣意的な捜査を防止することを目的としています。
3 強制捜査の種類
強制捜査に分類される捜査には、以下のようなものがあります。
捜索差押え
いわゆる「ガサ入れ」や「家宅捜索」などであり、自宅や会社などに捜査機関が立入って証拠を探し、押収していくことになります。基本的には捜索差押許可状という令状が必要とされていますが、逮捕に伴って一定の捜索等が認められる場合もあります。
逮捕・勾留
身体を拘束する逮捕・勾留も強制捜査の一種です。これらも基本的には逮捕状、勾留状が必要ですが、現行犯逮捕など、例外的に令状なしで逮捕できる場合もあります。
検証
いわゆる物ではない犯罪に関係するもの(犯行現場の様子など)の状態を明らかにするための強制捜査として、検証があります。検証もまた、検証令状という令状で行うことが必要となっていますが、実際には任意の実況見分等が行われることが多いと思われます。
身体検査
刑事訴訟法218条1項は「身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」と定めており、人の身体を対象とする場合には、そのプライバシーの高さなどから特に進呈検査令状が必要とされています。例外として、逮捕されている場合には一定の身体検査が認められており(同条3項)、捜索差押えの一環としてある程度の身体の捜索が認められる場合もあります。
強制採尿
覚せい剤や大麻、MDMA等の麻薬、違法薬物の使用等が疑われる場合、強制採尿等が行われることがあります。強制採尿については、身体検査のような側面もありつつ、他方で尿という証拠を得るためという側面もあるところ、いわゆる強制採尿令状という特殊な捜索差押許可状が必要とされています。
第3 強制捜査の手続と実施方法
1 強制捜査の流れ
強制捜査は通常、以下のような流れで行われます。
- 捜査機関による犯罪の端緒の覚知(情報提供・内部告発等)
- 証拠収集に向けた準備・調査
- 捜索差押許可状等の令状の申請(裁判所への申立)
- 裁判所による令状の発布
- 捜査機関による令状に基づく捜索・押収等の実施
令状の取得と執行は特に厳格に行われなければなりません。
無令状で強制捜査を行うことは法律上認められている例外的な場合を除き違法であり、そのような違法な強制捜査によって収集された証拠は「違法収集証拠」に当たり証拠能力(刑事裁判において証拠となしうる能力)が否定されることもあります。
もし、令状なしに強制捜査を受けた、あるいは手続に違法があったと思われる場合には、そのことを捜査機関や裁判所に適切に主張していく必要があります。
2 令状の取得とその重要性
強制捜査を行うためには、捜査機関が裁判所に対して捜索差押許可状等の令状の発付を申し立てる必要があります。
この際、裁判所は、捜査機関が提出する資料をもとに、令状発布の必要性や相当性を審査し、要件を満たすと判断した場合に令状を発布します。
この令状は、捜査の適法性を保障する極めて重要な文書であり、令状に記載された場所や対象物以外への捜査は原則として許されません。万が一手続きに瑕疵がある場合には押収した証拠が前述の「違法収集証拠」として排除される(証拠能力が否定される)可能性もあるため、慎重な運用が求められます。
第4 強制捜査に関連する法律と規制
1 令状主義とその例外
令状主義とは、個人の権利を保護する観点から、捜査機関が捜査において捜索・差押え等の強制的な手段を用いるためには、裁判所が発布する令状が必要であるという原則です。
ただし、いくつかの例外も認められています。
例えば、現行犯逮捕に伴う捜索等がこれに当たります。もっとも、これらの例外は限定的であり、濫用されることがないよう法律で厳しく制限されています。
2 強制捜査に対する法的制約
強制捜査は、捜査機関による違法・過剰な行為を防ぐため、さまざまな法的制約を受けます。主な制約には次のようなものがあります。
- 令状に基づく範囲の厳守(記載場所以外の捜索禁止等)
- 夜間の捜査制限
- 職業的機密保持義務への配慮(弁護士や医師の事務所等)
これらの制約は、適正手続(デュープロセス)と権利保障を両立させるために不可欠なものです。
第5 強制捜査の影響と注意点
1 個人の権利と強制捜査
強制捜査は、個人や法人のプライバシーや名誉等に重大な影響を及ぼします。
例えば、自宅に突然捜査員が押し入ることにより精神的ショックを受けたり、会社で強制捜査が行われることによって社会的信用が損なわれたりする可能性があります。このため、捜査機関が強制捜査をするに際しては、権利保障の観点から慎重に対応することが求められています。
また、押収物の中に無関係な私物や個人情報等が含まれていることもあるため、強制捜査を実施するにあたっては必要最小限の範囲で行うべきとされています。
2 強制捜査における弁護人の役割
強制捜査に直面した被疑者や関係者にとって、弁護人の存在が非常に重要となります。
弁護人は、捜査が適法に行われているか否かを監視したり、不当な押収や権利侵害がないかをチェックしたりする役割を担います。
また、弁護人をつけることによって、押収物の返還請求や違法な捜査に対する抗議、違法に収集された証拠を排除すべきである旨の主張等、被疑者の権利を擁護するための様々な法的措置を講じることが可能となります。
強制捜査に巻き込まれた場合、速やかに弁護士に相談することがご自身の権利を守る第一歩となります。
第6 お気軽にご相談ください
これまで述べてきたとおり、強制捜査は、犯罪捜査における重要な手段であるものの、個人の権利を大きく制約する性質も有しています。このため、憲法や刑事訴訟法に基づいた厳格な手続に則って適正に運用されることが不可欠です。しかし、時として強制捜査が行き過ぎてしまい、上記の手続に則らない不適切な運用がされてしまうこともありえます。
もし自分や身近な人が強制捜査を受けた場合には、まず落ち着いて対応し、速やかに弁護士に相談することで、前述のような不適切な対処を回避することが可能になります。法的知識を持って臨むことで、過度な不利益を被ることを避け、冷静に対応する力となるでしょう。
上原総合法律事務所は、元検事8名(令和6年10月31日現在)を中心とする弁護士集団です。多くの弁護士が、検事として実際に捜査に携わってきた経験に基づき適切かつ迅速にご相談にのれる体制を整えています。
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