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会社を経営していれば,会社のお金や物を人に任せる局面が出てきます。
そうすると,中には会社のためではなく自分のためにお金や物を使ってしまう人が出てきます。
その行為は多くの場合「業務上横領」という形で刑罰の対象になります。
この記事では,業務上横領の成立要件や被害にあった場合の対応方法等について説明します。
また、「会社が横領被害に遭ったら」について動画を作成いたしました。
是非ご覧いただき、記事の理解にお役立ていただけたらと思います。
業務上横領罪は,業務上,他人の物を横領した時に成立する犯罪です。
横領とは,他人の物を自分の物のようにして使ってしまったり処分してしまったりすることです。
業務上横領罪は
①業務上
②自己の占有する他人の物を
③横領した時
に成立します(刑法第253条)。
業務上横領罪は,他人からの信頼を裏切って物を横領してしまうという裏切り行為を罰するものです。
そのため,刑法で明文で書かれていませんが,業務上横領罪が成立するためには占有が委託信任関係に基づくことが必要であると考えられています。
順に説明します。
「社会生活上の地位に基づいて,反復継続して行われる事務」のことを言います。
例えば,飲食店の店長がお店のレジのお金をとった時に,業務上横領罪となることがあります。
これは,飲食店の雇われ店長という社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う経理事務が 「業務」と言えるためです。
これに対して,友人から預かっておいてくれと言われたお金を勝手に使ってしまった時に,業務上横領罪にはならず横領罪になることがあり得ます。
これは,友人からお金を預かるという行為が反復継続するものではなく,業務上横領罪における「業務」に当たらないと評価されたものと言い得ます。
ものに対する支配のことを意味します。
「占有」という概念は多義的で,窃盗罪における占有とは「物に対する事実上の支配」のことをいうとされています。
他方,横領罪においては,事実上の支配だけでなく物に対する法律上の支配も含む,とされています。
そのため,例えば
・ 登記を通じた不動産の支配
・ 銀行預金に対する支配
などといった占有が認められます。
現金を手で持っている場合,手で持っている人が現金を占有していると考えられますし,小売店のお店の中の商品はお店の人が占有していると言えます。
飲食店の雇われ店長が運営会社からお店の売上の管理を任されているとすれば, お店の売上は店長の占有下にあると言えます。
この場合,会社は店長の事を信頼して売上の管理を任せているわけですから,「占有が委託信任関係に基づく」という要件を満たしていると言えます。
上にも書いたように,他人の物を自分の物のようにして使ってしまったり処分してしまったりすることです。
専門用語では「不法領得の意思の発現」などとも言われます。
他人の物を預かってる人は,その物が他人の物なのですから,本来であれば大切に保管し,自分のために使ってしまったり処分してしまったりしてはいけません。
それにも関わらず自分のために使ってしまったり処分してしまったりすることが,横領を違法な行為にします。
例えば, 飲食店の店長がお店の売上の現金を使って自分の借金を返してしまったら, それは横領になり得ます。
対して,飲食店の店長がお店の売上の現金を使ってお店の仕入れ費用を支払ったとしても,それが社内の手続きとして問題ない限り横領にはなりません。
この二つの例は,お店の売上の現金を使ったという点では同じです。
違いは,お金を預かっている目的にそっているかどうかという点にあります。
経理担当者が会社名義の銀行口座から引き出しや振り込みをする権限がある場合があります。
経理担当者が会社のためではなく自分のために引き出しや振り込みをする,という業務上横領がしばしば行われます。
このような犯行は,すぐに犯行が発覚するような環境下においては行われづらいです。
経理担当が1名しかいないとか,銀行口座の取引履歴を原本で確認している人がいないなど,犯行が行われやすい土壌がある場合が多いです。
また,犯行が発覚しないように経理担当者が帳簿を改ざんしていることもあり,このような場合,犯行の全容を明らかにするのに手間がかかります。
在庫を持つ商売においては,従業員に在庫管理を任せる必要があります。
この在庫管理担当者が自分の利益のために在庫を横流しする,という業務上横領があります。
在庫管理は簡単ではなく,どうしても在庫が帳簿と一致しないということもあり得ます。
また,棚卸をしないと在庫がどれだけあるかわからないということも少なくありません。
そのため,在庫管理担当者による業務上横領は,そもそも業務の特性上横領が発生しやすいと言えます。
横領しやすい体制になってしまってることは,見方によっては,従業員の出来心が起きやすくしてしまっているとも言えます。
事前の対処による横領の予防が,会社のためにも従業員のためにも特に大切になると言えます。
業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役です。
具体的な事件がどの程度の刑罰(量刑)になるかは
などにより個別具体的に判断されます。
被害額が数百万円を超えてくると,示談や自首がなければ実刑(執行猶予がつかずに刑務所行きになること)の可能性が高くなってきます。
業務上横領の被害にあった会社は,事実を調査した上で対応を決める必要があります。
この対応には,観点別に
① 犯人を罰するという観点の刑事事件
② お金を返してもらうという観点の民事事件
③ 犯人に会社から去ってもらうという観点の解雇
の3つあります。
以下順に説明します。
なお,事実調査については3で説明します。
横領被害にあった会社は,犯人を刑事告訴することができます。
刑事告訴とは,自身が受けた犯罪被害について,警察などの捜査機関に申告し,加害者の処罰を求めることを言います。
刑事告訴がなされると,捜査機関による捜査が行われ,犯人が刑事処罰を受ける可能性があります。
ただ,捜査機関に対する告訴が受理されるためにはさまざまなハードルがあります。
そもそも告訴受理してもらえない場合や,受理されたとしても長い期間を要する場合があります。
また,捜査機関は,証拠により確実に認められる部分しか認定しないため,横領被害を受けたとして申告した額よりも,捜査機関が認定した被害額が低額になることがほとんどで,犯人からの被害弁償もその金額に限定されてしまうというリスクもあります。
刑事告訴を行うか否かは,告訴が受理される可能性や受理されたとして,どの程度の金額を捜査機関が認定してくれるかという点を十分に吟味して決定する必要があります。
横領被害にあった会社は,犯人である従業員に対して,横領によって生じた損害について民事上の損害賠償請求を行うことができます。
ただ,横領被害の金額が高額で,犯人が一括でそのすべてを返済することができず,一部を分割支払いで賠償することもあり,会社としては,ちゃんと損害を受けた金額について回収できるのか不安になるものと思われます。
犯人からの分割支払いが滞った場合,民事訴訟を提起すれば損害賠償請求が認められるとしても,訴訟に費やす時間的経済的コストは計り知れません。
そこで,犯人からの返済が分割支払いになる場合には,事前に執行認諾文言付公正証書を作成しておくことが有効です。
執行認諾文言付公正証書とは,公証役場において作成する公的な文書であり,民事訴訟を提起して勝訴判決を得なくても,すぐに強制執行の手続きに入ることができるという性質を持っています。
公正証書を作成するには,公証役場に行き書面を作成する必要があるという点で,労力をかける必要があります。
将来的に民事訴訟を提起することになった場合の労力に比べればとても小さいものです。
従業員による横領が発覚した場合,一般的には,当該従業員を雇用し続けることはできないと考えることでしょう。
では,どのような手続きで当該従業員を解雇することができるのでしょうか。
従業員との雇用契約を解消する方法は
・懲戒解雇
・普通解雇
・自主退職を求める
など複数存在します。
しかし,横領を行った従業員であっても,会社側がなんらの制限もなく自由に処分を決めることができるわけではありません。
例えば,懲戒解雇を行おうとしても,そもそも就業規則に懲戒解雇ができる旨の規定がなければ懲戒解雇はできません。
また,就業規則上,懲戒解雇を行う場合には懲戒委員会による弁明の機会の付与が義務付けられている場合などもあります。
さらに,懲戒解雇ができる場合でも,解雇予告が必要であるということもあり得ます。
結局,どのような処分が可能か,また各処分においてどのようなメリットやデメリットがあるかという点は個別具体的な事案と会社の就業規則がどのように定められているかによるということになります。
そして,犯人である従業員を解雇することを決めたとしても,横領発覚から解雇までは少なからず時間的な隔たりがあります。
その期間については,雇用契約が解消されていない以上,雇用契約は継続し,給与の支払義務が存在するため,会社としては犯人に給与の支払いをする必要があります。
横領の犯人だからといって,根拠なく解雇したり,横領発覚後の給与の支払いを拒んだりすれば,逆に解雇自体の有効性を争われたり,未払い賃金の支払いを求めて訴訟を起こされるというリスクも存在します。
逆に言えば,就業規則を策定する段階で,会社が従業員による横領被害にあった場合,従業員に対する処分を滞りなく行えるような内容を作成するということが重要であるということです。
横領被害が発覚した初期段階においては,「ある従業員が横領を行っているようだが,確たる証拠がない」場合や,「横領されていることは間違いないが,その方法や金額などの詳細がわからない」場合がほとんどです。
そこで,横領被害が発覚した際に一番初めにやらなければならないことは
・誰が
・どのような方法で
・どれくらいの金額の横領を行ったか
を明らかにするための証拠収集とその分析です。
横領被害を受けた被害会社が,横領を行った従業員に対して取り得る手段については様々ですが,いずれの手段を取る場合であっても,しっかりと証拠を集め,その証拠を精査し,横領の方法や被害金額を特定しなければ,具体的な請求をすることができません。
そして,どのような証拠が必要かを検討し証拠収集することや,収集した証拠から横領被害がどの程度立証できるのかを十分に吟味する必要があります。
一口に横領被害と言っても,その態様は様々であり,売上金をレジから盗んだ場合(法的には横領ではなく窃盗の場合もある。)と在庫商品を転売した場合では,必要な証拠は変わってきますので,一概に言うことはできません。
しかし,時間経過とともに証拠は散逸していくことが一般的であり,どのような事案であっても素早い証拠収集が必要であることは変わりません。
横領被害が発覚したら可能な限り早く調査を開始すべきです。
なお,デジタル化の進んだ昨今においては,犯人の使っていた PC などから正確に情報を抽出し,証拠にできるようにする,ということが大切になります。
このための技術をデジタルフォレンジックと言います。
上原総合法律事務所では,独自のネットワークにより信頼できるデジタルフォレンジック業者と提携しています。
調査をご依頼いただければ,ワンストップで対応させていただけます。
横領被害に関する証拠収集及び分析が進んだら,関係者に対してのヒアリングを行う必要があります。
ここで言う関係者とは,横領をしたと疑われている従業員のみではなく,当該従業員の上司や部下,同僚等,その周辺の事情を知っている可能性がある従業員を含みます。
ここで注意が必要なのが,ヒアリングのタイミングと順番です。
犯人が横領をしたことを立証する十分な証拠がない状態でヒアリングを実施した場合,犯人が犯行を認めず,打つ手がなくなってしまったり,現存している証拠を隠滅されてしまうということも考えられます。
また,各関係者が共犯関係にあれば,両者が口裏合わせをしてしまうこともあり得ます。
これに対し,証拠の収集と分析が十分なタイミングでヒアリングを行えば,仮に,犯人が犯行を認めなかったとしても,証拠を提示し,追及することで,犯行を認めさせることができる可能性があります。
もちろん,犯人に対するヒアリング自体,専門的な技術が必要な分野であり,決して容易なものではありません。
犯人に対する発問はなるべく誘導がない形で行い,ヒアリング内容を正確に証拠化するなど,気を付けるべき点が多々あります。
証拠の収集や分析に不安があったり,犯人が犯行を認めない可能性がある場合は,専門家である弁護士に事前に相談された方がよいでしょう。
業務上横領被害に遭った会社においてはもちろんのこと,まだ被害にあっていない会社も,横領の防止策は講じておくべきです。
多くの業務上横領は,犯行が容易に可能であった時に発生します。
会社の業務内容や体制ごとに,横領されやすいポイントがあります。
そのようなポイントに対してあらかじめ予防策を講じておくことで,会社は被害を防げますし,従業員に出来心を起こさせずに済みます。
また,業務上横領に限らず,社内不正があった時に,犯人に調査に協力させたり犯人を懲戒処分にしたりするためには,事前に社内規定が整備されていることが必要になります。
社内不正を見越したしっかりとした就業規則を作成し,社内に周知しておくことで緊急事態に 適切に対応できるようになります。
上原総合法律事務所では,横領被害にあわれた会社向けにサービス提供を行っています。
その内容は,横領被害発覚初期段階における
すべてを包含します。
従業員による横領等の不正を調査するには,証拠収集能力や証拠の分析能力,そして犯人に対するヒアリングの能力など,専門的な能力が必要であり,すべての弁護士が有しているものではありません。
特に,犯人に対するヒアリングについては,刑事事件の専門家であり,多数の犯人に対する取調べを行ってきた元検事の弁護士がもっとも得意とする分野です。
また、以下の構築等にも注力しております。
上原総合法律事務所の弁護士は,元検事の弁護士が多数在籍しております。
横領被害に関する調査等の不正調査の場合には,元検事の弁護士が複数で担当して対応に当たったり,担当以外の弁護士とも相談や議論を交わし,事案の解決に努めます。
上原総合法律事務所では,迅速にご相談に対応できる体制を整えています。
横領被害にあったので被害金を回収したい,株主への説明のために客観的な調査結果が欲しいなどお考えの経営者の皆様,ぜひ一度弊所にご相談ください。
業務上横領対応については,タイムチャージ制によりお受けしています。
例 飲食店の店長による業務上横領事件の調査・交渉・懲戒処分
(被害額1000万円・犯人が認めている事例)
社内不正予防体制の構築や,社内不正があった場合に調査や懲戒処分をできるようにするための社内規定構築は顧問契約において承っています。
上原総合法律事務所の 顧問契約弁護士費用は以下の通りです。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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