予防法務は企業に必須~紛争を回避し有利な解決を導く予防法務とは?

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

法律と無縁の企業活動はあり得ません。日々の対外的な取引はもとより、会社内部の業務執行から労務管理まで、すべてが法律の規制を受けています。

いかに会社の事業が順調でも、ひとたび法的紛争が発生すれば、企業の存亡にかかわる事態を招く場合もあります。

このような事態を防止するのが「予防法務」といわれる取組です。
この記事では、予防法務とは何か、その重要性、その具体例等について解説します。

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1.予防法務とは

「予防法務」とは、将来の法的紛争を予防し、万一紛争が発生しても被害を最小限にとどめ、速やかに処理できるよう、事前に法的な対策を講じることを指します。

対外的には、取引契約書の整備、債権債務の管理、個人情報保護の徹底等、対内的には、労務管理や就業規則等の規程類の整備、コンプライアンス体制の確立・点検、情報管理等、様々な取組が含まれます。

1-1.戦略法務との違い

予防法務と対比される用語に「戦略法務」「臨床法務」があります。

戦略法務とは、経営戦略の遂行にあたって必要とされる法務です。
例えば、企業が新規分野の事業に進出する計画を持つ場合、その分野に関連する法規制、行政手続等を調査し、漏れなく対応する必要があります。自社で新規事業を一から立ち上げるのでなければ、他企業とのM&A(合併・買収)や業務提携を検討し、実現する法的手続を着実に進める必要があります。

1-2.臨床法務との違い

「臨床法務」とは、既に起きてしまった法的紛争に対応する法務を指します。
取引先からの損害賠償請求や労働者からの残業代支払請求への対応がこれにあたります。

2.予防法務の重要性

会社の日常的な事業活動においては予防法務が重要となります。対外的な契約交渉や社内における労務管理等、日常的な事業活動における予防法務を適切に遂行することで、紛争リスクやそれに伴うコストを回避することができるからです。

2-1.予防法務で紛争対応に要するコストを回避する

予防法務を軽視すると、これを適切に行っていれば回避することができたはずの法的紛争に巻き込まれる危険が生じます。

いったん法的紛争が起きてしまうと、紛争相手とのやりとり等のため、それを担当する部署の労働者の業務が増えることとなります。

法的紛争の交渉や訴訟対応を弁護士に依頼したとしても、弁護士との相談・打ち合わせ、証拠資料の収集・整理、証人候補となる従業員の選定等、会社の負担は大きくなります。そして、交渉が決裂し訴訟となれば、このような負担が数年間続くことも珍しくはありません。

また、弁護士に法的紛争への対応を依頼すれば、弁護士費用もかかります。

このように法的紛争が生じれば、人材・時間・費用という、本来は事業に投入するための貴重な経営原資を紛争解決のために利用せざるを得なくなり、会社の企業活動は大きく阻害されることとなります。

余計なコスト負担を回避し、会社が本来の事業に注力するためには、予防法務への取組が必須です。

2-2.予防法務が紛争局面でも有利に作用する

契約交渉段階で予防法務を尽くしたとしても、紛争が生じることを避けられない場合もあります。そのような場合であっても、取引の過程で生じうる紛争類型を想定して契約上の手当てを講じていれば、それが紛争局面でも有利に作用します。

たとえば、提供する役務の内容によっては、軽度の過失(軽過失)により損害賠償義務を負担することは適切でないことがあります。そのような場合には、損害賠償義務の発生要件を「故意又は過失」ではなく、「故意又は重過失」と限定することが考えられます。また、責任を限定するために、実務上、損害賠償に上限額(たとえば、受領した対価の額とする)を設定するということもあります。

3.予防法務の具体例

それでは、予防法務の具体例をいくつか挙げてみましょう。

3-1.契約分野

対外的な契約、取引分野での予防法務には、次のような具体例があります。

■契約書のひな形整備・契約管理

  • 販売する商品、提供するサービスに関する契約書のひな形を整備する
  • 契約締結時には、自社ひな形からの変更点や相手方ひな形の条項について不利益が無いかを検討し、応諾できない点は相手方と適切に交渉する
  • 締結済みの契約を管理し、変更の必要性や更新時期を把握する

■債権の管理

  • 債権の消滅時効を管理し債務承認を取得する
  • 定期的に取引先の信用状態をチェックし、信用不安の兆候を見逃さない

3-2.労務分野

労務関係をめぐる法的紛争の多くは、自社の貴重な戦力である労働者との争いです。
いったん紛争が生じれば、職場の雰囲気が悪化し、他の労働者の労働意欲も削がれる等、生産性の低下を招きかねません。

一人の労働者との問題がきっかけとなり、事業所全体に紛争が波及し、労使の対立という構図になってしまえば、円滑な企業運営は困難です。

労務管理における予防法務の一例として下記の事項が挙げられます。

  • 職場のルールを定める就業規則を整備し、労働者への周知を徹底する
  • 社会情勢に応じて改正されていく労働法制に適時適切に対応する
  • セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントといった各ハラスメントを防止するよう努め、万一、ハラスメントが発生した場合には迅速かつ適正に対処できるよう、相談窓口の設置等の措置を講じる
  • 服務規律違反等の問題行動がある労働者については、懲戒処分を行った場合にその有効性が否定されることを回避するため、ひとつひとつの問題行動を黙認、放置することなく、その都度、指摘・注意し、その記録を残す

3-3.知的財産分野

商標権や意匠権、特許権、著作権等知的財産権の分野でも予防法務が重要です。

■自社の知的財産権が侵害されないよう予防する

まずは、自社が保有する知的財産権を、他人から侵害されないよう予防することが大切です。

例えば、自社の商品・サービスを他社のものと区別するロゴやマーク等の商標は、商標登録を行うことで独占的・排他的に使用できる専用権等の権利が与えられます。ところが、商標は、原則として、先に商標登録を出願した者が優先的に保護される先願主義が採用されています(商標法8条)。したがって、漫然と登録手続を怠っていれば、他社に権利を取られてしまうリスクがあります。このような先願主義は特許も同じです。やはり先に特許を出願した者に権利が与えられます(特許法39条)。

他方、著作権は著作物を創作した者に自動的に与えられる権利であり、権利自体は何らの手続を要さずに認められます(著作権法17条)。しかし、他社の権利を譲り受けたことを第三者に主張するには、著作権譲渡の登録をしなくてはなりません(同法77条)。

このように、自社の知的財産権を守るためには、速やかに登録手続を行う必要があります。

■他社の知的財産権を侵害しないよう予防する

商標や著作物等、知的財産権の対象となるものを利用する際には、それが他者の権利を侵害しないか否かを十分に調査する必要があります。知的財産権の侵害に関する紛争は実例も多いですし、予期せぬ損害賠償債務を負担するリスクは避ける必要があります。この点、知的財産権の侵害については、法令上、侵害者の過失の推定規定(商標法39条、特許法103条)や損害額の推定規定(商標法38条、特許法102条、著作権法114条2項)が置かれており、侵害を受けたと主張する者の立証責任が一部緩和されている点にも留意が必要です。

故意による知的財産権の侵害には刑事罰もあり、例えば、故意に他社の登録商標を使用した場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金刑が科されます。懲役刑と罰金刑の両方が科されるときもあります(商標法78条)。また、侵害行為を行った者とは別に、その行為者を使用している法人にも刑罰が科されます(商標法82条1項)。法人の場合、最大で3億円の罰金刑が課される可能性があります。

このような事態を招けば、会社の存在が危うくなりますから、他社の知的財産権を侵害することのないよう、予防法務を徹底することが重要です。

4.お気軽にご相談ください

予防法務は契約分野、労務分野、知的財産分野等、業種に応じて多様な分野のリスクに配慮して取り組む必要があり、適切な対応をするためには、法的知識が不可欠です。
そこで、予防法務への取組にあたっては、顧問弁護士に相談しながら進めることが有効です。

上原総合法律事務所では、各種予防法務に詳しい弁護士が、顧問弁護士として会社の予防法務に取り組んでいます。当事務所は、小さなトラブルが大きなトラブルとなって会社の損失が拡大することがないよう、日常的にリスク軽減に努めます。

予防法務の取組をお考えであれば、お気軽にご相談ください。

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