
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
条例によるカスタマーハラスメント対策が話題となるほど、企業に対する顧客等からのクレームは増加しており、適切な対応が急務です。
ただ、クレームの中には従業員による解決が困難なケースも多く、現場任せのままでは、未処理のクレーム案件の滞留、従業員の業務パフォーマンスの低下やストレス増大、職場環境の悪化等を招き、企業に大きな損害をもたらすおそれがあります。
企業内での処理が困難なクレームに関しては、弁護士に対応を依頼するのも一つの方法です。通常業務への影響を回避しつつ、迅速な解決を期待できることが多いためです。
この記事では、クレーム対応を弁護士に依頼するメリットやその場合の解決までの流れ等、クレーム対応に役立つ情報を説明します。

1.クレーム対応とは
そもそも、顧客からのクレームに対し、どのような対応をする必要があるのでしょうか。
1-1. クレーム対応の一般的なプロセス
4つのプロセス
クレーム対応は、一般的には、次のプロセスを踏むべきです。
- 顧客の主張の聞き取り
- 事実の調査・回答の検討
- 顧客への回答提示
- 再発防止策の検討
顧客の主張の聞き取り
顧客から最初にクレームを受けた際、その内容が正当なものなのかすぐには分かりません。初動を誤ることにより顧客のクレームが過当なものに変容していくこともありえますので、まずは、内容について丁寧に聞き取りを行う必要があります。真摯に聞き取りを行うことによって、顧客の不満が解消されるケースもあるでしょう。
他方、顧客のクレーム内容は常に筋が通っているとは限りません。顧客に非があるケース、顧客が思い違いをしているケース、感情的に過ぎるケース、相手への攻撃自体を目的としているケース等があります。そのような場合でも、相手が顧客である以上は、従業員は相手の主張を頭から否定したり、強く反論したりできません。理不尽な言い分だとしても、一通り聴取する忍耐が必要となります。
事実の調査・回答の検討
顧客の言い分を聴取したら、それが事実か否かを確認するために社内における調査が必要となります。調査結果を踏まえて、顧客のクレームに合理的な理由があるのであれば、会社として顧客に提示できる回答を検討することになるでしょう。反対に、顧客のクレームに合理的な理由がないのであれば、顧客から何らかの要求があったとしても、原則、それに応えることはできないでしょう。
顧客への回答
事実を調査し回答の準備ができたら、顧客に対してその内容を伝えることになります。提示した回答に顧客の理解が得られる場合もあれば、どうしても納得してもらえない場合もあるでしょう。また、会社からの回答に対して、顧客から何らかの交渉がなされる可能性もあります。現場の判断だけで処理できない場合には、無理な約束をせず、持ち帰って検討する旨を伝えることが大切です。
再発防止を徹底
顧客のクレームに合理的な理由がある場合には、直ちに再発防止策を検討のうえ実施しなくては、また新たなクレームを招く可能性があります。レピュテーションの観点からも、法的紛争を防止するという観点からも、クレームの原因を探求し、再発防止策を講じることが重要です。
1-2. クレーム対応の困難さ
近年は顧客等からのカスタマーハラスメントが社会的な問題になっており、丁寧にクレームに対応しても、解決が困難なケースは珍しくありません。
解決困難なクレームとは、例えば次のようなケースです。
- 顧客が怒鳴るなどの高圧的な姿勢を取り、話し合うことができない
- 法律的に通らない要求を押しつけ、「法律の問題ではない」と言い放つ
- 会社に法的な義務がないことを説明しても、その説明が間違いだと反論する
- 一度は納得したにもかかわらず、その後も、同じクレームを繰り返す
- 執拗な要求の反復、長時間の面談等で、従業員の他の業務を阻害する
- 担当従業員に過大なストレスを与え、職場環境を悪化させる
これらクレームはカスタマーハラスメントに該当する可能性もあります。
このようなクレーム問題に関しては、弁護士に対応を依頼することが有益です。
2.クレーム対応を弁護士に依頼するメリット
では、クレーム対応を弁護士に依頼すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
2-1. 冷静なコミュニケーションが期待できる
購入した商品・サービスに不満を持つ顧客は感情的な言動をとることも珍しくありません。従業員が顧客からのクレームに対応する場合、たとえ感情的な言動を受けたとしても、その顧客を「お客様」として扱う態度をとらざるを得ません。コミュニケーションを通じて、顧客の感情的な言動がより過剰になっていくケースもあるでしょう。また、クレームに対応する従業員も、顧客の感情をぶつけられていくうちに、冷静さを失うことがあるかもしれません。
しかし、弁護士にクレーム対応を委任することにより、顧客サイド・会社サイド双方の冷静なコミュニケーションの実現を期待することができます。
まず、顧客サイドにおいて、クレームの交渉窓口が弁護士になることで理不尽な対応を控えるケースが見られます。弁護士は顧客が購入した商品・サービスの直接の当事者ではありませんし、一般的には国家資格を有する法律の専門家として、一定の社会的な信頼があるからだと思われます。
会社サイドにおいても、弁護士に交渉を依頼すれば、顧客の言動に呼応して冷静さを欠いた対応をしてしまうリスクを回避できます。弁護士は職業上交渉の経験が豊富ですし、顧客の主張を冷静に聞いたうえで、伝えるべきことは伝えるという対応が可能です。
2-2. 法的検討に基づいた説明ができる
クレームをつける顧客から、損害賠償の請求など法的主張がなされることもあるでしょう。たとえそのような主張に理由が無い場合であっても、会社がそれを判断することは難しいですし、仮に会社が反論をしても、顧客の納得を得られないことが多いと思われます。
一方、弁護士は、顧客からクレームのあった事案について、具体的な事情のもとで会社の法的責任の有無について検討することができますし、仮に会社に法的責任が無い場合には、その理由を提示して顧客に説得力のある説明をすることができます。
弁護士の示した法的な結論に対し、顧客が納得するとは限りませんが、弁護士は顧客から様々な要求を受けても、繰り返し理由を説明したうえで、そのような要求には応えることができない旨を回答するはずです。この過程で、顧客においてもそれ以上の要求を行わなくなるか、あるいは、合理的な範囲への要求にシフトしていくことが期待できますし、万が一法的紛争に発展した場合には弁護士がスムーズに対応することもできます。
2-3. 紛争の蒸し返しを予防することができる
クレーム対応の最終局面として、顧客との関係で「紛争を蒸し返せない状態」をつくることが必要です。
残念なことに、解決策として金銭の支払い等の負担をしても、顧客の中には、同じ問題を口実として、何度も金銭的要求をする悪質な者もいます。
これを防止するため、問題解決にあたって、顧客との間で合意書を作成しておくことが有益です。
実務上は、合意書において、①誰と誰の間の、②いかなる問題について、③どのような解決策が合意され、④その解決策が実施済であり(又は何時までに実施するか)、⑤他には何らの債権債務が相互に残っていないこと等を記載します。
もっとも、合意書に記載すべき事項は実際のケースを踏まえて検討する必要がありますし、合意書の規定は明確でないと紛争が蒸し返されてしまうリスクもありますので、弁護士に対応を依頼するのが確実な方法です。
2-4. 従業員は本来の業務に集中できる
従業員が、クレーム対応に多くの時間を割くことになれば、本業がおろそかになります。新たなミスを誘発し、さらにクレームが重なる悪循環に陥る危険もあります。
クレーム対応を弁護士に依頼した場合、以後、当該クレームに関しては、弁護士を一切の窓口とすることができます。顧客との交渉は弁護士が担当し、自社従業員が顧客とやりとりをする必要はありません。これによって、クレーム対応に追われていた従業員は本業に集中することが可能となります。
2-5. 従業員はストレスから解放され、職場環境を改善できる
ほとんどのクレームが正当なものであるとしても、一つでも悪質・不当なクレームがあれば、従業員にとって多大な精神的負担となります。
「この仕事が好きで就職したのに…」、「お客様の笑顔が見たいのに…」
クレーム対応の負担が重くなれば、従業員に大きなストレスを与えてしまい、労働意欲も阻害されてしまいます。
クレーム対応を弁護士に依頼すれば、従業員をストレスから解放することができ、職場環境を大きく改善することができるのです。
3.弁護士に依頼してクレームを解決するまでの流れ
実際に、クレーム処理を弁護士に依頼した場合、どのような流れを経て解決に至るのでしょうか。クレームの態様等を踏まえて適切な方法を検討する必要はありますが、以下に対応例を紹介します。
3-1. 弁護士が受任通知書を送付する
まず弁護士から顧客に対して、「受任通知書」を送付します。その内容は、通常、次のような内容です。
【受任通知書の文例】
謹啓 当職は、A販売株式会社と貴殿との間における、商品××の不具合をめぐる問題につき、同社から委任を受けましたので、ご通知します。今後、本件問題については、当職が同社の窓口となりますので、今後、同社及び同社従業員へのご連絡はお控えください。なお、当職は貴殿との話合いを希望しますので、当職宛てにご連絡をくださるようお願い申し上げます。 弁護士 甲山乙太郎
受任通知によって、従業員は当該顧客からのクレーム対応に悩まされることはなくなります。もしも、通知後も当該顧客から会社や従業員に連絡があった場合は、「申し訳ありませんが、担当の弁護士にご連絡ください。」と対応を断ることができます。
3-2. 事実関係を確認するため、証拠資料を収集する
弁護士のクレーム処理は法律に則って行うことが原則ですから、まずは、法律適用の前提となる事実関係の確認が重要です。保有する証拠資料を会社に準備してもらうのは当然ですが、顧客にも、その言い分を裏付ける証拠の提出を求めることになります。
なお、会社は、自社に有利な資料だけでなく、不利な資料も、弁護士に提出する必要があります。その証拠が法的に有利に作用するか不利に作用するかを正確に判断できるのは弁護士ですし、不利な内容も含めて、一切の事実を知らされていないと弁護士が判断を誤る危険があるからです。
あらかじめ、不利な事実と証拠を明らかにしてもらえれば、弁護士としても防御の対策を講じることができます。自社で依頼した弁護士は、あくまでも自社の味方ですから、不利な事実も隠してはいけません。
3-3. 弁護士と会社が証拠資料をもとに解決策を検討する
弁護士が顧客側とやり取りをしてその主張を聴取したうえで、把握できた主張・証拠を前提として、会社に法的責任があるのか、あるとして顧客にどのような損害が発生したのかを検討し、顧客に提示する回答を用意します。
もちろん、把握できる証拠や検討のための時間は限られていますし、仮に裁判所の判断を仰いだとしても判断が分かれうるケースもあるので、法的責任の有無や損害の評価については明確に判断することができないこともあります。また、仮に法的責任はないとしても、会社に一定の「落ち度」があればレピュテーションの観点からゼロ回答はしにくいということもあるでしょう。そのようなケースにおいては、損害賠償であることを明示せずに、見舞金や解決金を支払うという解決方法も考えられます。
このように、何をもってベストの解決策とするかは、法的観点だけでなく、企業経営への影響という観点からの検討も必要ですので、会社と弁護士の協議が大切になります。
3-4. クレーム客に解決策を提示する
提示する解決案が決まったら、弁護士から顧客に解決策を提示します。顧客がそれに応じる場合は、これを盛り込んだ合意書(示談書、和解書)を作成し、顧客と弁護士(または会社代表者)が調印します。返金や賠償金の支払時期が調印後に設定されている場合は、その支払を済ませた時点で問題は終結します。
例えば、損害賠償金額の増額を求める等、顧客が解決案に応じない場合は、増額の余地があるかどうかを会社と協議し、可能であれば増額して再提案します。このようなやりとりが何回か続くことは珍しくありません。
会社と顧客が解決策につき合意できない場合には、交渉でのやりとりを打ち切るしかありません。
4.お気軽にご相談ください
顧客からのクレームに対して不適切な対応をとってしまうと、問題が余計にこじれ、解決が遠のいてしまうおそれがあります。また、会社だけでクレームに対応しようとしたがために、従業員が疲弊して離職してしまう、精神疾患を発症してしまう等の危険性もあります。そのため、クレーム対応は、弁護士に依頼しながら進めることが有益です。
上原総合法律事務所では、労働問題に詳しい弁護士が、会社からのご相談をお受けしています。
また、顧客からのクレームは、刑法や軽犯罪法に抵触するおそれもあるため、対応にあたっては、必要に応じ、当事務所所属の元検察官の弁護士とともに対応します。
顧客からのクレーム対応にお困りの方は、お気軽にご相談ください。