
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
東京オリンピックを巡る贈収賄事件の報道は皆さんの記憶にも新しいと思います。今日においても贈収賄事件の報道は後を絶ちませんが、これらの多くは企業活動の過程で発生しています。コンプライアンス意識の高まりによって多くの企業においては賄賂の授受等が発生することのないように内部管理体制の強化を図っているものと思われます。しかし、報道される事件からは、ビジネス上の利益を得ようと贈賄に及んでしまうケースが依然としてあることがうかがえます。
贈賄は重い犯罪です。行為者が刑事罰を受けるだけではなく、場合によっては会社の存続も危うくなってしまいかねません。
この記事では、贈賄とはどのような犯罪か、処罰される場合、されない場合、公務員以外の者への贈賄罪など、贈賄についての基本的な知識から、その予防法、対処法までを解説します。
目次
1.贈賄罪とは、どのような罪か?刑罰の程度は?
贈賄罪(刑法198条)とは、公務員に賄賂(ワイロ)を供与し、又はその申込み若しくは約束をする罪です。
賄賂の「供与」とは、賄賂を受け取らせること、「申込み」とは賄賂の受け取りを促すこと、「約束」とは、公務員との間で、賄賂の供与・収受について合意することです。
これらに違反した場合の法定刑は、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金刑です。
2.贈賄罪の保護法益
賄賂を贈った者は贈賄罪、賄賂をもらった公務員は収賄罪で処罰されます。両者を総称して贈収賄罪あるいは賄賂罪とも呼ばれます。
贈収賄というと、何らかの金品を受け取った公務員が、その見返りとして、実際に職務上の不正行為を行うことがイメージされるかもしれません。
もっとも、日本の刑法において、賄賂の見返りとして職務上の不正行為が行われなくとも、賄賂罪は成立します。さらに収賄罪については、現実に不正行為が行われた場合には罪が加重されます。
具体的には、公務員が職務に関し、賄賂を収受(受け取ること)・要求・約束をしたときは「単純収賄罪」が成立し、5年以下の拘禁刑に処せられるのに対し(刑法第197条1項前段)、これに加えて不正な行為をしたときは「加重収賄罪」が成立し、1年以上20年以下の拘禁刑に処せられます(197条の3第1項)。
このように、収賄を受けた公務員が何らの不正行為を行っていなくても、賄賂を受け取るなどしただけで処罰の対象とされるのは、賄賂罪が「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」を保護法益としているためと説明されます。
公務員の職務の公正、すなわち公務が公正に行われることを保護法益とするならば、実際に不正行為が行われた場合だけを処罰すれば足ります。
しかし、実際に不正行為が行われていなくとも、公務員が職務に関連して金品等を受け取れば、一般国民は公務が公正に行われていないのではないかと疑い、公務の公正性に対する信頼が損なわれます。
これを避けるため、実際の不正行為の有無にかかわらず処罰することで、公務の公正に対する国民の信頼を保持しようとしているわけです。
【判例】最高裁平成7年2月22日判決(ロッキード事件)
「賄賂罪は、公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるから、賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足り、公務員が具体的事情の下においてその行為を適法に行うことができたかどうかは、問うところではない。けだし、公務員が右のような行為の対価として金品を収受することは、それ自体、職務の公正に対する社会一般の信頼を害するからである。」
3.贈賄罪と収賄罪との違い
刑法は、賄賂を贈る側については、刑法198条の贈賄罪ひとつを定め、一律に、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金刑としています。
これに対して、賄賂をもらう公務員側については、前述の単純収賄罪を基本として、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪、加重収賄罪、事後収賄罪、あっせん収賄罪という犯罪類型が定められ、それぞれ法定刑が異なります。これは公務に対する国民の信頼を害する度合いに応じたものと説明されています。
収賄罪の種類と内容を表にまとめておきます。
罪名(条文) | 態様 | 法定刑 | |
1 | 単純収賄罪 (197条1項前段) | 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受・要求・約束したとき | 5年以下の拘禁刑 |
2 | 受託収賄罪 (197条1項後段) | 単純収賄罪が成立する場合で、請託(一定の職務行為の依頼)を受けて、これを承諾していたとき | 7年以下の拘禁刑 |
3 | 事前収賄罪 (197条2項) | これから公務員となろうとする者(例:市長選挙の立候補者)が、公務員となった後に担当することになる職務に関し、請託を受けて、これを承諾したうえ、賄賂を収受・要求・約束し、その後、現実に公務員となったとき | 5年以下の拘禁刑 |
4 | 第三者供賄罪 (197条の2) | 公務員が、その職務に関し、請託を受けて、これを承諾したうえ、自分以外の第三者に賄賂を供与させ、又はその要求・約束をしたとき | 5年以下の拘禁刑 |
5 | 加重収賄罪 (197条の3第1項、第2項) | (ⅰ)公務員が単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪を犯し、実際に不正行為を行ったり、相当な行為をしなかったりしたとき (ⅱ)公務員が、職務上不正な行為を行ったり、相当な行為をしなかったことに関し、①賄賂を収受・要求・約束したとき、または、②自分以外の第三者への賄賂を供与させ、又はその要求・約束をしたとき | 1年以上の有期拘禁刑(なお、有期拘禁刑の最長は20年以下:刑法12条1項) |
6 | 事後収賄罪(197条の3第3項) | 公務員であった者が、在職中に請託を受けて、職務上不正な行為を行ったり、相当な行為をしなかったりしたことにつき、退職した後に、賄賂を収受・要求・約束したとき | 5年以下の拘禁刑 |
7 | あっせん収賄罪 (197条の4) | 公務員が請託を受けて、他の公務員に職務上不正な行為をさせることや、相当な行為をさせないことを斡旋すること、又は、斡旋したことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束したとき | 5年以下の拘禁刑 |
4. 贈賄罪が成立する条件その1:どのようなものを贈ると贈賄罪となるのか?
4-1.賄賂の意義
賄賂とは、公務員の職務行為の対価として授受等される不正の「利益」です。
賄賂の目的物は、典型的には金銭や物品などの財物ですが、有形・無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる利益の一切を含みます(大審院明治43年12月19日判決・大審院刑事判決録16輯2239頁)。
裁判例で賄賂と認められたものは以下のとおりです。
- 金銭、物品、不動産などの財物(有体物)
- 金融の利益
- 債務の弁済
- 飲食店などでの饗応接待
- ゴルフクラブ会員権
- 値上がり確実な未公開株式の公開価格による取得
- 就職のあっせん
- 異性間の情交
4-2. 社交儀礼として贈与がなされた場合に賄賂罪は成立するか?
公務員に対して、社交儀礼として贈与(例えば、お中元、お歳暮、お年賀、お祝い、お餞別、手土産)がなされた場合に、賄賂罪が成立するかが問題となります。
判例は、上記のような贈与について、職務行為との対価関係が認められる限り、賄賂罪が成立する旨を判示しています。
この点、近年の企業及び公務員のコンプライアンス遵守に対する社会的要請の高まりを踏まえると、職務行為との対価性については司法からも厳しい目を向けられると思われますので、公務員に対する社交儀礼としての贈与には相当に慎重にならざるを得ないといえます。
【判例】最高裁昭和50年4月24日判決・判時774号119頁
国立大学付属中学校の教諭Xが、生徒の保護者Aらから、贈答用小切手を受け取ったとして収賄罪に問われた事件です。
最高裁は、「前記二件の供与をもって、被告人の教諭としての公的職務に関し、これに対してなされたものであると断定するには、なお合理的な疑いの存することを払拭することができず、右二件の供与は、被告人の職務行為を離れた、むしろ私的な学習上生活上の指導に対する感謝の趣旨と、被告人に対する敬慕の念に発する儀礼の趣旨に出たものではないかと思われる余地があると言わなくてはならない。」と指摘し、Xを有罪とした原判決を破棄して原審に差し戻しました。
5.贈賄罪が成立する条件その2:どのように贈ると贈賄罪となるのか?
5-1. 口頭で申し込んだだけで贈賄罪となる
申込み行為は、贈る側の一方的な行為だけで犯罪となり、公務員が応じるか否かは無関係です。このため、公務員が賄賂を拒否した場合であっても、申込みをした以上は贈賄罪として処罰されます(大審院昭和3年10月29日判決・大審院刑事判例集7巻709頁)。
また、申込み行為があった以上、公務員が賄賂とは認識していなかった場合でも、贈賄罪となります。
【判例】最高裁昭和37年4月13日判決
「賄賂供与申込罪の成立には、相手方に賄賂たることを認識し得べき事情の下に金銭その他の利益の収受を促す意思表示をなせば足りるのであって、相手方において実際上その意思表示を又はその利益が賄賂たる性質を具有することを認識すると否とは、同罪の成立に影響を及ぼすものではない。」
「約束」行為は、公務員との合意が必要ですが、合意した以上は、その後、実際に賄賂が授受されたか否かを問いません。合意だけに終わっても贈賄罪で処罰されます。
5-2. 職務関連性が必要
公務員が、他人から金品等の利益を受ける場合のすべてを処罰の対象とするならば、公務員は恋人からプレゼントを受け取ることも許されなくなってしまいます。
公務員が何らかの利益を受け取っても、それが公務と無関係なら、職務の公正とこれに対する社会一般の信頼は害されず、処罰の必要はありません。賄賂罪が成立するためには、賄賂を職務の対価として受けとっていると評価されることが必要なのです。
贈賄罪となるには、賄賂が「その職務に関し」と言えるものであることが必要です。これを「職務関連性」と呼びます。具体的には、公務員の職務行為と賄賂が対価関係に立つことが必要です。
では、どのような場合に、「その職務に関し」と言えるのでしょうか。
まず、その公務員が、実際に担当している職務への対価であれば、職務関連性が認められるのは当然です。
もっとも、判例では、賄賂と対価関係に立つ職務行為と言えるためには、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であればよく、公務員が具体的に事情の下でその行為を適法に行うことができたことまでは求められていません。
【判例】最高裁昭和27年4月17日判決・刑集6巻4号665頁
税務署の職員が、自身の担当区域外の者から所得税の調査につき手心を加えてくれるように依頼され収賄したという事案について、裁判所は、職員は「同税務署管内の納税義務者ならその何人たるを問わず義務者に対する所得税の賦課、減免に関する事務に従う法令上の職務権限を有するものと認めうるのである。」、「この分担事務の内容も係主管者において必要と認めるときはいつでも変更されうるものであることが認められる。」として、職務権限があると認めました。
また、公務員の本来の職務行為でなくとも、職務と密接に関連する行為であれば、職務関連性は満たします。密接な関係性があれば、公務の公正に対する信頼は害されるからです。
【裁判例】東京地裁昭和60年4月8日判決(芸大バイオリン事件)判例時報1171号16頁
東京芸術大学音楽学部の教授A(バイオリン演奏家)は、バイオリン専攻の学生に教育指導をするだけでなく、学生が購入する楽器の選定についても助言指導する職務に従事していました。Aは、学生に楽器業者Bからの楽器購入を斡旋し、Bからその対価として現金100万円を受け取ったとして収賄罪で起訴され、楽器業者Bも贈賄罪で起訴されました。
本件の大きな争点は、Aの職務権限、すなわち、東京芸術大学音楽学部教授として、同部のバイオリン専攻学生が使用するバイオリンの選定(買替え)について助言指導すること、さらにその助言指導に際して学生に対して、特定の楽器商の保有する特定の楽器の購入を勧告ないし斡旋することが、その職務内容であるかどうかということでした。
弁護人らは、学生に助言指導する行為は、被告人が教授としての立場を離れ、私人としての私的行為であり、被告人には何の職務権限もないと主張しました。
しかし、最高裁は「指導中の学生生徒らの使用するバイオリンに関し助言指導することは、その選定に関するものを含め演奏技術の指導に伴う教師の教授内容の一部である」とし、「被告人は、東京芸大音楽学部教授としてバイオリン専攻の学生に対し、演奏技術の指導に伴い、バイオリンの選定に関しても助言指導する職務を有していた。また国立大学音楽学部の教授が右助言指導に際し、学生に対し、特定の楽器商の保有する特定の楽器の購入を勧告ないし斡旋することは、教授としての職務の域を越えるものであるが、右勧告ないし斡旋も使用する楽器の選定についての助言指導ひいては演奏技術の指導と相関連し、これら職務行為に密接な関係を有する行為である」と判断しました。
6.贈賄罪が成立する条件その3:相手が公的機関でなければ贈賄罪とはならない?
賄賂を贈る相手が、日本の国家公務員・地方公務員以外の場合には、贈賄罪にならないのでしょうか。
6-1.みなし公務員の場合
贈賄罪の相手は「公務員」です。ただし、刑法における「公務員」とは、「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう」(刑法7条1項)とされています。
つまり、国家公務員や地方公務員ではなくとも、「法令により公務に従事する職員」であれば、贈賄罪の相手となるのです。このように、個別の法令によって公務員に準じた扱いを受ける者を「みなし公務員」と呼称しています。
例えば、今日では国立大学の職員はこのようなみなし公務員に該当します。
また、東京オリンピックの組織委員会理事に関する贈収賄事件が報道されたことが記憶に新しいと思いますが、組織委員会の役職員も「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」という法律によってみなし公務員とされています。
6-2. 外国公務員等の場合
■外国の公務員等への賄賂を禁止する不正競争防止法
不正競争防止法は、外国の公務員等に対する賄賂の供与等を禁止しています。国際的な取引において、公正であるべき競争条件が歪められることを防止するためです。
具体的には、国際的な商取引に関し、営業上の不正の利益を得るために、外国公務員等に対し、次の各目的で、金銭などの利益の(ⅰ)供与、(ⅱ)供与の申し込み、(ⅲ)供与の約束をすることを禁じています(不正競争防止法18条1項)。
次の目的とは、例えば、①外国公務員Aに、Aの職務に関する行為をさせる又はさせない目的、②外国公務員Aに、Aの地位を利用して、他の外国公務員Bに、Bの職務に関する行為をさせる又はさせないように斡旋をさせる目的です。
■外国公務員等の範囲
外国公務員等とは、例えば、外国政府の職員、外国の地方公共団体の職員、公的な国際機関(国連やWHOなど)の職員などです(不正競争防止法18条2項)。
■違反者が属する法人には罰金10億円の場合も
当該違反行為をした者は、10年以下の拘禁刑または3000万円以下の罰金刑のいずれかに処せられ、この拘禁刑と罰金刑の両方を科される場合もあります(不正競争防止法21条4項4号)。
また、法人の代表者や従業員が法人の業務に関して違反行為を行った場合は、違反行為者とは別に、その法人に10億円以下の罰金刑が科されます。当該違反行為をした者が、個人の代理人や従業者である場合(個人事業主が雇用している従業員が贈賄した場合など)は、違反行為者(従業員等)とは別に、その個人(個人事業主)にも、3000万円以下の罰金刑が科されます(不正競争防止法22条1項1号)。
■国外での贈賄も処罰されうる
日本国外での違反行為でも、日本人の違反行為であれば適用されます(不正競争防止法21条10項、刑法3条)。
【裁判例】東京地裁令和4年11月4日判決
被告人Y1株式会社(以下「被告会社」という。)は、合成樹脂製品の製造及び売買等を目的とする株式会社ですが、被告会社代表者のY2、同執行役員のY3、同総務部付次長Y4の被告人3名は、ほか数名と共謀の上、ベトナムに所在する被告会社の子会社に対してベトナムの税関局から追徴課税金等が課されようとした際、これを免れようとして賄賂をベトナムの外国公務員に供与するなどした不正競争防止法違反で起訴されました。
裁判所は、被告会社が得た不正な利益は高額で、被告人らから主体的に賄賂供与を申し出たと評価できるなど動機や経緯に酌むべき点はないなどとし、他方、被告人3名はいずれも会社での地位を追われることになったことなどの事情を考慮し、被告会社を罰金2500万円、Y2を懲役1年、Y3を懲役1年6月、Y4を懲役1年6月に処し、Y2、Y3、Y4の刑を3年間猶予しました。
また、不正競争防止法18条1項違反の罪は、日本国内に主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者であって、その法人の業務に関し、日本国外において同号の罪を犯した日本国民以外の者にも適用されるとされており(不正競争防止法21条11項、同条4項4号、18条1項)、日本の会社の日本人以外の従業員が日本国外で犯行に及んだ場合も処罰対象です。
6-3. 民間企業の場合
賄賂を贈る相手が公務員ではなくとも、一定の場合には会社法上の刑罰を科される場合があります。
■取締役などの贈収賄罪
株式会社の発起人、取締役、監査役、会計監査人、執行役などが、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受・要求・約束をしたときは、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金刑に処せられます(会社法967条1項)。
このとき、贈る側として、財産上の利益を供与・申込み・約束した者は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑に処せられます(会社法967条2項)。
■株主などの権利行使に関する贈収賄罪
株主総会などにおける発言や議決権の行使などに関して、不正の請託を受けて財産上の利益を収受・要求・約束をしたときは、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金刑に処せられます(会社法968条1項)。
このとき、贈る側として、財産上の利益を供与・申込み・約束した者も、同じく5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金刑に処せられます(会社法968条2項)。
7. 贈賄の予防方法
- 基本方針の宣言
贈賄は犯罪です。発覚すれば企業にとっての致命傷になりかねません。また、仮に発覚を免れ、短期的には何らかの利益を得たとしても、企業努力による結果ではないため、ノウハウの獲得・蓄積にはつながらず、同じ利益を得るために贈賄を繰り返すおそれもあり、いずれは発覚する可能性も大です。
企業として、決して賄賂事件に関わらないポリシーであると明確に宣言し、これを自社サイトなどに掲載し、内外に知らしめておくことが必要です。 - 内部ルールの制定
公務員(みなし公務員を含む)と業務上接触が生じることは避けられない企業もあるでしょう。そこで、社内ルールとして、接待や贈答を明示的に禁止とするほか、地方公共団体等を相手に契約を締結する場合や業務上協同する場合における社内の意思決定手続や業務上のルールを定めておくことが考えられます。 - 内部体制の整備
企業内に(ⅰ)公務員との交流の必要が必要となったときに、事前にその適否を判断する機関、(ⅱ)賄賂の要求に対する対応を検討する機関、(ⅲ)贈賄を犯してしまったときに事後対応をする機関、(ⅳ)内部通報機関、これらの相談担当機関・部署を設置し、法務部員など専門知識を有する従業員を配置して、迅速な対応が可能な体制を整えるべきです。外部の法律事務所を相談機関と定めることも一考に値します。 - 社内教育
贈賄を許さない会社のポリシー、どのような行為が贈賄罪となるのかという法的な知識、贈収賄が問題となった場合の相談・行動マニュアル、社内ルールなどを、研修の機会を設けて社員に教育することが必要です。
8. 贈賄と疑われる事象が発生したらどうする?
8-1. 賄賂を要求された
公務員から賄賂を要求された場合、拒否する以外の選択肢はありません。ただし、拒否しただけでは、今後、その公務員から不利な取扱いを受けるなど、企業活動に支障を生じる恐れがあるため、その公務員を排除する必要があります。
公務員が賄賂を要求しただけで収賄罪が成立しますから、刑事告発することも検討に値します。そのためには、賄賂を要求されたことの証拠が必要ですから、必要に応じて証拠収集をすることが考えられます。
8-2. 贈賄と疑われる事実が発覚した際、どのように対処すべきか?
■捜査機関に発覚する前に判明したとき
既に贈賄を行ってしまったことが判明し、それを行為者が争っていない場合、捜査機関に発覚する前であれば、行為者を自首させることも検討に値します。自首した場合、起訴されても、刑の減軽が期待できます(刑法42条1項)。
また、行為者が自認しているかにかかわらず、贈賄が行われたことが強くうかがわれるのであれば、会社から捜査機関に相談したり、告発を行うことも選択肢になりえます。
この場合、会社内部に調査チームを組織したり、弁護士などによる第三者委員会を設置するなどして、予め事実関係を調査して報告するなどし、捜査に協力する姿勢を示すことも有益です。刑事事件として起訴されてしまった場合であっても、事後的な対応を適正に行い、再発防止に注力する姿勢は、裁判所に有利な事情として斟酌される可能性があります。
■捜査機関によって発覚したとき
警察・検察の捜査によって贈賄と疑われる事実が発覚したときは、捜査には協力すべきことはもちろんですが、それに限らず、上記のような社内調査によって会社として事実確認をすることも必要です。事実関係の把握は、捜査機関への対応を検討する前提として必要ですし、再発防止策の策定等にも必要不可欠です。もし、調査等の結果把握できた事実と捜査機関の事実認定に齟齬があると思われる場合には、会社としての事実認識をはっきりと伝えるべきです。こうした場合、捜査機関への対応については早めに弁護士へ相談することが会社及び職員の安全のために有益です。
贈収賄事件では、金品の流れははっきりしているものの、それがいかなる趣旨で交付されたものか、職務の対価か否かを裏付ける客観的な証拠は乏しい場合があり、捜査機関が、捜査機関内部で描いたストーリーを強引に押しつけてくるケースもあります。このため、捜査機関に安易に迎合・妥協をすると、事実と異なる責任を問われるリスクがあります。
このような場合は、刑事弁護に強い弁護士に十分相談して、慎重に対応することが必要です。
9.お気軽にご相談ください
弁護士法人上原総合法律事務所では、贈収賄事件に詳しい弁護士が、事業主様からのご相談をお受けしています。
お気軽にご相談ください。
※令和7年6月施行の刑法改正により、懲役刑・禁錮刑は拘禁刑に一本化されました。作成日により、当サイトの記事中の記載がなお懲役・禁錮となっている場合がありますのでご留意ください。