
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
企業活動において、顧客や取引先との契約締結は重要なものとして位置づけられます。企業活動にあたっては、様々な場面で多種多様な契約書の作成が必要となります。
この記事では、契約書をつくる目的から具体的な書き方、作成時の留意点等を説明します。

1.契約書の意義・役割
法律上、当事者間に債権債務を発生させる原因となるのが「契約」であり、「契約」とは、当事者の「合意」です。
例えば、売買契約では、売主には商品を買主に引き渡す債務と代金を請求する債権があり、買主には代金を支払う債務と商品の引渡を要求する債権がありますが、これらの権利義務が発生するのは、売主と買主が、互いの権利義務の発生に合意したからです。
実は、この合意をするにあたり、必ずしも書面の作成を要するわけではありません。口頭の約束でも、契約は有効に成立することが原則です。
しかし、口約束では、通常、その証拠が残らないため、「言った言わない」の争いが生じる危険性があります。
契約書は、この危険を避けるために作成するものです。
契約書は、契約当事者が合意をしたという事実と、その合意内容の証拠となります。
契約書を作成することには、①当事者双方が、互いの権利義務の内容を明確に確認し、紛争を予防することができる、②万一、紛争が生じ、裁判となった場合でも、自社の有する権利と取引先の負担する義務の内容を立証することができる、というメリットがあります。
逆に、契約書がなければ、互いの権利義務について当事者の認識が一致せず、紛争が生じやすくなります。さらに紛争が起きて裁判となった場合に、自社の権利や相手の義務を裏付ける証拠がなく、権利を守ることができない事態となりかねません。
2.契約書の効力
売買契約の法的効力は、口約束でも発生することからもわかるように、契約書の作成それ自体が、法的な効力を発生させる原因となるものではありません。
ただし、例外として、一定の契約については、法律によって特別な要求がなされている場合もあります。
例えば、保証人が他人の債務を保証するために債権者と合意する保証契約では、安易軽率な合意を防止するとともに、保証人の意思を明確化するために、書面(保証契約書)を作成しないと法的効力は生じないとされています(民法446条2項)。
他にも、定期借地権(期間50年以上で契約更新や期間延長等がない借地契約)の特約は、紛争防止の要請から公正証書等の書面によることが要求されています(借地借家法22条1項)。
3.契約方法の種類(口頭、書面、電子、公正証書)
契約、つまり当事者が合意する方法にはいくつかの種類があります。
3-1. 口頭の契約
契約は口頭でも成立することが原則です。
もっとも、契約書を作成していないと、口頭で合意したことの証拠がないので、相手から合意の事実を否定されてしまい、契約上の権利を主張できない事態となりかねません。
もちろん、合意の証拠があれば良いのですから、契約書でなくとも、例えば口頭での合意の録音・録画で代替することも不可能ではありません。ただ、契約内容を明確にしておくという観点からは、やはり契約書を作成しておくのが無難です。
3-2. 書面による契約
物理的な「紙」を利用した契約の方法は、契約書の作成によるのが典型的かつ原則的なものですが、契約書という形式であることは必須ではありません。
例えば、「注文書(発注書)」とこれに対応する「注文請書(発注請書)」を双方が発行してやりとりをする方法であれば、「注文請書(発注請書)」を発注側が受け取った段階で合意が成立し、「注文書(発注書)」、「注文請書(発注請書)」が、その証拠となります(民法522条1項、97条1項)。
3-3. 電子契約
電子契約は、インターネットを利用して、契約を締結する方法です。
電子契約では、通常、電子文書に当事者が作成したデータであることを証明するための電子署名をします。物理的な紙を用いる方法よりも、迅速なやりとりが可能で、郵送料や印紙税といったコストがかからないというメリットもあります。
3-4. 公正証書
公正証書は、公証役場の公証人によって作成される文書であり、契約の当事者は、契約書を公正証書として作成することを、公証人に嘱託することが可能です(公証人法1条1号)。
公証人は法務大臣の監督下にあり(同法74条)、公正証書は事実上、証拠として強い証明力を持っています。
また、金銭消費貸借契約等の金銭の支払いを目的とする契約の公正証書に、①一定額の金銭の支払についての合意に加え、②債務者が金銭の支払をしないときは、直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合には、金銭債務の不履行があったときは、裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行をすることができます。この強制執行をすることができる公正証書のことを「執行証書」といい、債権者の権利の実現のために大きなメリットがあります。
4.契約書の作り方・書き方
契約書の内容は千差万別ですが、典型的な契約書によく記載する内容について、いくつか説明します。
4-1. 表題
表題がなければ契約書とならないわけではありません。
しかし、契約書は、合意したことの証拠とするために作成するものです。「売買契約書」、「不動産賃貸借契約書」、「業務委託契約書」といった、合意内容を正確に表現する表題が付されている書面であれば、その表題のとおりにたしかに合意したのであろうと評価されやすいと言えます。
4-2. 前文
前文とは、表題の後に記載する「誰と誰が、何に関して合意したのか」という説明書の部分です。特に必須というわけではありませんが、冒頭に合意の概要を記載することで、何のための契約書か、当事者の目的を明確にし、読み手の理解を容易にする効果があるため、記載するのが一般的です。
【記載例】
A株式会社(以下、甲という)とB株式会社(以下、乙という)は、後記「物品一覧表」記載の各物品の売買に関し、以下のとおり合意した。
4-3. 目的
契約の目的が達成できない場合に解除が認められるような場合には、何が契約の目的なのかが重要な意味を持つことがあります。 そのため、目的を明確に定めることが重要です。
4-4. 権利義務の内容
合意した内容、すなわち各当事者の権利義務を記載するものです。書き方に決まったものがあるわけではありませんが、契約書は合意の証拠とするために作成するのですから、読み手によって理解が異なってしまうような、奇をてらった記載の仕方は好ましくありません。誰が読んでも同様に理解できるよう、一般に慣用されている形式と表現で記載するべきです。
【記載例】
第1条(売買契約)
甲は、乙に対し、後記「物品一覧表」記載の各物品を、売買代金100万円で売り渡し、乙はこれを買い受けた。
第2条(引渡時期・代金支払時期)
(1)甲は、後記「物品一覧表」記載の各物品を、令和6年10月末日限り、乙に引き渡す。(2)乙は、甲に対し、前条の売買代金100万円を、令和6年11月15日限り、甲指定の金融機関口座に振り込む方法で支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
4-5. 解除
契約においては、相手にその義務を履行させ、自社の権利を実現することが重要ですが、契約の拘束から逃れて、自社の義務を免れる方途を確保しておくことも同様に重要です。このために必要なのが契約の解除に関する条項です。
相手方に契約違反がある場合、他方が解除権を行使できるのは、特に契約条項を定めなくとも、民法の規定上当然です。しかし、この場合は、相手に契約履行の催告をする必要があります(民法541条)。
そこで、実務上は、一定の事由が生じた場合に無催告での解除を可能とする無催告解除条項を記載することが重要です(下記例の26条参照)。
【記載例】
第25条(契約違反による解除)
甲及び乙は、相手方が本契約の各条項に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず是正しないときは、本契約を解除することができる。
第26条(その他の解除事由)
甲及び乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、何らの催告をすることなく、直ちに、本契約を解除することができる。
(1)営業許可の取消し、停止等の行政処分を受けたとき
(2)支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(3)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(4)第三者より差押え、仮差押え、仮処分、又は競売の申立てを受けたとき
(5)公租公課の滞納処分を受けたとき
(6)その他、前各号に準ずる事態が生じたとき
4-6. 損害賠償
相手に契約違反があった場合、損害賠償を請求できることは、契約条項に定めがなくとも、民法の規定上当然です(民法415条、416条)。
そこで実務上は、予め当事者間で賠償額を定める(賠償額の予定)条項を設けることが重要です。賠償額の予定がなされることにより、債権者にとっては損害の発生やその額の立証負担の軽減につながりますし、債務者にとっても債務不履行時の賠償額を予測することができるようになります。
【記載例】
第31条(賠償額の特約)
甲又は乙が、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合は、その損害を賠償する責任を負う。ただし、賠償する金額は、本契約書第1条記載の売買代金額を上限とし、これを超える金額を賠償する責任は負わない。
4-7. 契約の存続期間
賃貸借契約、雇用契約、業務委託契約等のように、一定期間の継続的関係を発生させる契約では、当該契約の有効期間を明らかにする必要があります。
【記載例】
第40条(契約期間と更新)
(1)本契約の有効期間は、本契約締結の日から1年間とする。
(2)本契約は前項の期間満了の翌日から自動的に更新され、更新された契約の期間は更新時から1年間とし、以後も同様とする。
(3)甲又は乙が、期間満了の3カ月前までに、更新しない旨を相手方に通知したときは、前項の更新は行わない。
4-8. 合意管轄
紛争が生じた場合に、どの裁判所で解決するかを合意しておく条項です。自社より遠方の裁判所に事件が係属した場合、弁護士の日当、交通費や担当従業員の交通費等経費もかかり、時間的なコストもかさんでしまいますから、できるだけ自社に近い裁判所を利用したいところです。このため、特定の裁判所にしか提訴できないようにする「専属的合意管轄」を記載することが重要です。
【記載例】
第41条
甲と乙は、本契約に関する一切の紛争(裁判所の調停手続きを含む)は、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
4-9. 協議事項
契約書には、「本契約に定めのない事項、本契約書の条項中、疑義の生じた事項については、両当事者が別途協議のうえ、信義誠実の原則に従い、これを決定する」というように、「問題が発生したら、協議して解決しましょう」という内容の条項が盛り込まれることが慣習となっています。
4-10. 後文
契約書(原本)を何通作成したか、原本を誰が保管するかを記載するのが一般的です。紛争になった場合に、原本が何通作成され、誰が所持しているのかが意味をもつ場合があるため、記載されます。
【記載例】
本契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲および乙が記名押印のうえ、各1通を各自が保有する。
4-11. 契約書作成日
日付は、契約書を作成した日を記載することが原則です。いつ契約をしたかが重要な意味を持つ場合があるため、記入する必要があります。
5.契約書作成の注意点
5-1. 契約書はどちらが作成するものか?
契約書は、法令に定めがある場合を除き、当事者のどちらが作成するか決まっているわけではありません。
もっとも、重要な契約書を作成する場合等、契約書にどのような内容を記載するかの主導権を握りたい場合には、自社で契約書の案文を作成することが考えられます。
また、相手方が案文を作成する場合でも、その案文に自社にとって不利益になっていないかの検討が必須となります。
5-2. 押印や署名は必要か?
契約書を作成する場合、「署名」と「押印」、又は「記名」と「押印」は不可欠と心得てください。「署名」は当事者本人の自署(手書き)であり、「記名」は自署以外の方法(あらかじめ印刷したり、スタンプを押したりする等)で当事者名を表記する方法です。
昨今、国・地方公共団体では、押印を求めることに合理性がないものに関して、押印を廃止する方向で見直しがなされています。
一方、民間の契約文書をこの動きに合わせる必要はありません。契約書は、たしかに合意したということの証拠となるものであり、合意の証拠として押印をしてきたという歴史があるのですから、証拠としての価値を万全にするためには押印を省くべきではありません。
5-3. 収入印紙は必要か?
契約書が印紙税法の課税文書である場合には、作成される契約書の原本の通数に応じて、収入印紙の貼付が義務付けられています。
印紙税額は、国税庁のサイトで知ることができます(※)。
※国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
※国税庁「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」
5-4. 法律に違反した契約は有効なのか?
契約自由の原則とその例外
契約は当事者の合意であり、法律が合意を尊重して、権利義務の発生という法的な効果を与えるものです。合意の内容は原則として当事者の自由です(契約自由の原則)。
しかし、そのような合意が、法的に無効になる場合があります。
例えば、麻薬の売買契約は「麻薬及び向精神薬取締法」という刑事法に違反する違法行為であり、公序良俗に違反するものとして無効となります(民法90条)。
任意規定と異なる契約は有効
ただ、違法、すなわち法律違反の契約といっても、すべてが無効となるわけではありません。法律の定めには、「任意規定」と「強行規定」があります。
「任意規定」とは、契約当事者が合意していなかったり、合意内容が不明確な事項について、法律の定めを適用して契約内容を補充するものですから、当事者が任意規定に反する合意をすることは自由であり、その合意は有効です。
例えば、民法では土地の賃貸借契約の賃料は毎年末に支払わなくてはならないと規定されていますが(民法614条本文)、これは貸主と借主が賃料の支払時期を定めておかなかったり、決めた時期が不明確だったりしたときに適用される任意規定であって、これと異なり、毎月支払うとする合意は有効です。
強行規定と異なる契約は無効
他方、強行規定とは、公の秩序に関する規定であり、これに違反する内容の契約は無効となります。
強行規定には、例えば、労働基準法の定める最低基準に達しない労働契約の労働条件を無効とする規定(労基法13条)や、金銭消費貸借契約において一定の利率を超えた部分の利息を無効とする規定(利息制限法1条)があります。
取締規定に違反する契約
また、法律の中には、行政上の目的のために、国民の行為を取り締まることを目的とする規定があり、これを「取締規定」と呼びます。取締規定に違反する契約の効力については、取締の目的達成の実効性、社会的倫理違反の程度、取引の安全、当事者間の信義公平といった諸要素を考慮して決するというのが伝統的な考え方です。
【判例】最高裁昭和35年3月18日判決(※)
食品衛生法上、行政の許可が必要な食肉販売業を無許可で営んでいたAから食肉を買入れた買主Bは、Aの食肉販売は違法だから、売買契約も無効だと主張して、代金支払を拒みました。しかし、裁判所は、食品衛生法の規定は、単なる取締規定であり、肉の売買契約それ自体が無効となることはないと判断しました。
5-5. その他の注意点
契約書は、合意の証拠であり、最終的には、紛争が生じたときに裁判官に読んでもらい証拠として認めてもらうためのものです。したがって、次のような契約書はNGです。
- 当事者にだけ理解できる隠語や略語を用いること
- 間違った法律用語を使うこと
- ある条項とある条項の内容が矛盾する内容を記載すること
- 「別紙記載のとおり」等としながら、その別紙がどれなのか特定が困難な場合のように、内容が不明確な記載をすること
- 感熱紙のように、長期間の保存が困難な用紙を使うこと
- 鉛筆のように書き換えが容易な筆記具を使うこと
- 複数枚にわたる契約書なのに、ホチキス等で留めただけで契印をせず、容易に文書の頁を差し替えられてしまう危険を放置すること
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