上原総合法律事務所では、顧問先企業などから、解雇についてのご相談をいただきます。
経営陣の抱える悩みのうち、解雇に関するものの中には、いわゆる整理解雇ができるかどうか、できるとしたらどのようにすれば良いか、というものがあります。
業績を好転させるために人件費の負担を軽くしたい、不採算部門を閉じたい、などという場合に整理解雇が視野に入ります。
どのような会社でも起こり得る問題ですが、余剰人員の整理解雇は、いかなる場合においても認められるわけではなく、適切な手順と検討を経なければ紛争や賠償問題につながり、かえって企業に悪影響を与えてしまいます。
本記事では、有効な整理解雇を行う上で重要な4つの要素と、整理解雇の実際の手順を説明します。
Contents
「整理解雇」とは、企業経営の必要上、とくに企業採算の悪化を理由とする解雇です。
解雇は、使用者側による労働契約の解約の意思表示であり、その是非は、労働で日々の生活の糧を得る労働者にとって、生存を脅かす重大問題です。
このため、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、使用者の権利を濫用したものとして、無効とされます(労働契約法第16条)。
整理解雇にも同じく、この合理性と相当性が要求されます。
しかも、整理解雇の合理性と相当性は、通常の解雇よりも、非常に厳しく判定されます。
整理解雇は、(ⅰ)解雇の原因が労働者側になく、(ⅱ)不況下であることが多いことから転職が難しく、(ⅲ)終身雇用が多い我が国では、再就職による同等の労働条件確保も困難であるため、より労働者保護の要請が強いとされるからです。
整理解雇の有効性判断のためには、次の4つの要素が検討されます。
企業の合理的運営上、やむを得ない事由により人員整理の必要性があることです。裁判所に「合理的な判断をする経営者であれば、その経営状況下で人員削減措置をとることが十分に考えられる」と認められれば、この要素において解雇は有効である方向に傾きます。
それ以上に、「整理解雇をしないと、企業の維持・存続が危機に瀕する」という程の切迫した必要性、つまり「倒産必至の状況」までは不要です。使用者にも営業の自由(憲法22条)があるからです。
裁判例でも、「資本主義経済社会においては、一般に、私企業は、採算を無視して事業活動及び雇用を継続すべき義務を負うものではない」としたものがあります。
しかし、整理解雇から間もないにもかかわらず、多数の新規採用を行ったり、大きな賃上げを行ったりといった、人員削減とは矛盾した行動がとられたケースでは、そもそも人員削減の必要性がなかったと評価され、整理解雇が無効とされる場合があります。
財務状況が悪化した学校が、人件費削減を理由に教員7名を整理解雇した事案で、その後、多数の新規採用をおこなったこと等から、人員整理の必要性を認めるべきではないとしました。
労働契約の中心的な権利義務は、労務の提供と賃金の支払いです。これに加え、継続的な法律関係である労働契約では、両当事者の信頼関係、すなわち相互に誠実に配慮し合う関係が重視され、付随的な義務も認められます。
そのひとつとして、解雇を回避するため、他のあらゆる手段を尽くすべきという、解雇回避努力義務が認められています。
具体的には、配転・出向・一時帰休・希望退職者の募集・新規採用の中止など、余剰労働力の削減措置をとることです。
裁判例
園児が減少した保育園が、保母の人員整理にあたり、事前に労働者らに事情を説明して協力を求めることもなく、希望退職者募集の措置もとらなかった等の事実から、解雇権濫用として整理解雇を無効としました。
人員削減の必要性があっても、解雇される者を使用者が恣意的に選ぶことは許されません。被解雇者の選定は、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用する必要があります。
一般的に合理的とされる基準には、次のような例があります。
航空会社が「53歳以上の幹部職員」という基準で整理解雇を行った事案で、裁判所は、①定年まで7年間の賃金への期待は高く、再就職は事実上困難な年齢であるから、代償となる経済的利益や再就職支援もなく53歳以上とするのは、労働者と家族への配慮を欠いている、②幹部職員の業務内容が、高齢によって業績が低下する証拠はないなどとして、この基準を合理的ではないとしました。
整理解雇の必要性・時期・規模・基準等につき、組合及び労働者と協議し、説明を尽くしたことが必要です。
労働協約や就業規則に、解雇にあたっての協議条項や同意条項がある場合、これを怠れば、協約違反であり、当然に整理解雇は無効です(労組法16条、労働契約法12条)。
しかし、そのような条項が労働協約になくとも、当事者の信頼関係が重視される労働契約では、信義則上、説明・協議を尽くす義務が認められています。
数百店舗もの居酒屋チェーン店を経営していた会社が、コロナ禍で経営が悪化し、大規模な店舗閉鎖に伴い、閉鎖店舗の従業員を整理解雇した事案です。
この事案では、解雇される労働者に対しては、近日中に重要な書類が届くから確認せよとの趣旨の連絡をしただけで、なんらの説明もなく、協議が行われることもありませんでした。
裁判所は、整理解雇の4要素のうち、3要素を充たしているものの、説明も協議もない解雇手続は著しく妥当性を欠くとして、整理解雇を無効としました。
整理解雇を実施するならば、解雇後に4要素の欠如を指摘されることのないよう、事前に十分な準備をする必要があります。
債務超過や累積赤字があれば、裁判所は、経営者の判断を尊重し、人員削減の必要性を比較的緩やかに認める傾向にあります。
しかし、その前提となる企業の経営状態は厳しく精査されますから、財務状況の悪化を証明できる十分な資料を準備しておくべきです。
トラックやクレーン車などを運転手付きでリースする会社が、運転手ら15名を整理解雇した事案です。会社側は、経営悪化について、整理解雇が行われた時期のものではない財務諸表類や、客観的な裏付のない資料しか提出しませんでした。裁判所は、人員削減の必要性を明らかにできていないとして整理解雇を無効としました。
裁判所は、整理解雇の有効性を判断するにあたり、会社が解雇を回避する真摯な努力をしたか否かを詳細に検討しますから、他の方策を真剣に模索し、現実に実行しておく必要があります。
様々な方策があり、業種や規模によって、一概には言えませんが、おおよそ以下の事項などを行いながら、整理解雇の実施を検討するのが穏当と思われます。
解雇回避義務を尽くしても人員整理がやむを得ないとなった場合、(ⅰ)余剰人数を画定し、(ⅱ)合理的な選定基準を設定し、(ⅲ)その基準を公正に適用して対象者を決めます。
基準の内容だけでなく、その基準の利用方法も、後に裁判所を納得させられるだけの合理性が求められます。
信用組合の整理解雇事件において、会社側は、年齢・職位・考課という要素を考慮した合理的な選定と主張しました。しかし、裁判所は、各要素それ自体は不当ではないが、どの要素を重視し、どのような順序で適用したのかが明らかでないため、合理性を認めることはできないとしました。
労働協約や就業規則の同意条項、協議条項がある場合には、その内容を確認し、組合、労働者代表者、労働者個人に、誠実に説明し、協議を行う必要があります。
複数名を解雇する整理解雇では、組合との交渉にばかり目が行きがちですが、解雇される労働者個人を蚊帳の外においてはいけません。個々の労働者への説明と協議も重要です。
整理解雇の対象労働者の所属する組合とは協議を経て労使協定を結んだものの、組合は対象労働者の意見を聞いておらず、会社も対象労働者へ事後説明しかしていないというケースで、裁判所は整理解雇手続の相当性を否定しました。
整理解雇の4要素をよく検討し準備したうえで、実際の解雇にあたっては、通常の解雇と同じ手続きを踏む必要があることは勿論です。
注意すべき点を、次の「整理解雇の注意点」にまとめましたので、留意してください。
整理解雇でも、30日前の解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金である解雇予告手当の支払いが必要です(労基法20条)。
労働基準法は、解雇を制限する一定の期間を設けており、これらは整理解雇にも適用されます。
労働者の業務上の負傷や疾病による療養休業期間とその後30日間、産前産後休業とその後30日間は原則として解雇はできません(労基法19条)。
整理解雇でも、解雇予告期間中に労働者から「解雇理由証明書」を要求されたなら、使用者は遅滞なく交付しなくてはなりません(同法22条1項)。
また、解雇後に、労働者が「退職時等の証明書」を要求すれば、使用者は遅滞なく交付する必要があります(労基法22条1項)。
整理解雇でも、解雇後、労働者が請求すれば、その者の金銭・物品を、7日以内に支払い、引き渡さなくてはなりません(同法23条1項)。ここにいう金銭は、賃金、積立金などの名称を問いません。
しかし、退職金だけは、支払期日が就業規則で定められていれば(労基法89条3の2号)には、その期日までに支払えば足ります。
整理解雇の解雇予告後に、労働者から年次有給休暇の請求があった場合は、使用者が適法に時季変更権を行使できる場合を除いて、有給を認めなくてはなりません(労基法39条5項)。
時季変更権は、「事業の正常な運営を妨げる」場合、つまり代替要員の確保が困難な場合ですから、余剰人員であるはずの整理解雇対象者に代替要員が必要という事態はあまり考えられないように思われます。
なお、請求された有給休暇を与えずに、代わりに金銭を支払うことは違法ですが、結果的に未消化となる有給休暇に相応する賃金を支払うこと、いわゆる「有給の買い上げ」は許されます。
整理解雇を実行しようとする場合、以下のことを念頭に入れ、慎重に検討することが大切です。
以上のような大きなリスクがある上、整理解雇に対する裁判所の姿勢も厳しく、解雇無効が認められる危険性があります。
整理解雇を考えるのであれば、裁判所に有効な解雇と認めて貰えるだけの4要素をよく検討することを強くお勧めします。
上原総合法律事務所には、労働問題を専門とする弁護士が所属しており、企業からの雇用に関するご相談をお受けしています。必要に応じ、元検察官の弁護士とタッグを組み、企業の不祥事を含む問題にも対応します。
整理解雇を含め、労働問題や不祥事についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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