
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
犯罪が成立する際、実行犯だけでなく、その行為を助けた者も責任を問われる場合があります。
このような場合に関わるのが「幇助犯」という概念です。
本記事では、幇助犯の基本的な概念から具体例、法律上の違いや刑罰、そして弁護活動について詳しく解説します。
目次
第1 幇助犯とは
幇助犯については、刑法第62条1項に規定されています。
刑法第62条1項では「正犯を幇助(ほうじょ)した者は、従犯とする」と規定されており、「正犯」というのは自ら犯罪行為を行うもののことを意味し、「幇助」とは「実行行為以外の行為で正犯の実行行為を容易にさせること」を意味します。
つまり幇助犯とは「自ら犯罪の実行行為は行っていないものの、正犯の実行行為を容易にするよう手助けをした場合」を指すものです。
幇助犯について、刑法62条1項は「従犯とする」としており、刑法63条は「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する」としていますので、幇助犯には、正犯に対して定められた法定刑を減軽(法定刑を軽くすること)した範囲で刑が科されることとなります。
このように、自身が犯罪の実行行為を行っていなかったとしても、幇助犯として処罰の対象となることがあり得ます。
下で述べるとおり、幇助犯というのは、法律上の「共犯」の中の一つです。
第2 共犯の種類は
共犯とは「複数の者が犯罪に関与する場合」のことを言います。
共犯は、以下の3種類に分類されます。
① 共同正犯
共同正犯とは「2人以上共同して犯罪を実行した場合」を言います。
一般的に「共犯」と言った場合、これを指すことが多いかと思われます。
刑法第60条において「2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と規定されており、共同正犯とされた場合、全員が正犯として同じ法定刑の中で処罰を受けることとなります。
例えば、2人で一緒に民家に押し入り、強盗をした場合などはそれぞれが共同正犯として処罰されることとなるでしょう。
共同正犯は、それぞれが犯罪の実行行為に及んでいる類型(「実行共同正犯」と言います。)が基本ですが、直接実行行為に及んでいなかったとしても「共謀共同正犯」として処罰されることがあります。
現に実行行為を分担実行しなかった者についても「2人以上の者が犯罪の実行を共謀し、共謀者のうちのある者がこれを実行したとき」は、実行行為に及んだのと同等の責任がある「共謀共同正犯」として共同正犯が成立し得るのです。
例えば、オレオレ詐欺において、かけ子(被害者に電話をかける役割のもの)に電話のかけ方を指南して利得を得ていた者は、被害者に電話もかけておらず物品も受け取っていなかったとしても、「共謀共同正犯」として処罰され得るでしょう。
② 教唆犯
教唆犯とは、「他人をそそのかして犯罪実行の決意を生じさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させた場合」を言います。
刑法61条1項において「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する」、同条2項において「教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする」と規定されています。
教唆犯が成立するためには、漠然と「犯罪をしろ」とそそのかすだけでは足りず、具体的な犯罪を遂行する意思を生じさせるものでなければならないとされています(日時、場所、方法等の細部まで特定する必要まではありません。)。
例えば、「○○さんは資産家で、金目のものが家にたくさんあるだろうから盗んでこい」などとそそのかして、犯行を決意させた場合、教唆犯として処罰され得ます。
③ 幇助犯
上で説明したとおり、幇助犯とは「正犯の実行行為を容易にするよう手助けをした場合」を指します。
強盗をしようと考えている者に対して、強盗に使用するための凶器を貸し渡した場合などには、幇助犯として処罰され得ることとなるでしょう。
第3 共同正犯、教唆犯と幇助犯の違いとは
以下は、各共犯の主な違いを比較した表です。
種類 | 定義 | 関与の程度 | 刑の重さ |
---|---|---|---|
共同正犯 | 共同して犯罪を実行した場合(ただし、実行行為に及んでいなくとも共謀共同正犯として処罰され得る) | 実行行為又はそれと同視できるような行為を行う | 全員が正犯として処罰される |
教唆犯 | 他人をそそのかして犯罪実行の決意を生じさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させた場合 | 他者に犯罪を遂行させる意思を生じさせる | 正犯と同様の法定刑で処罰される |
幇助犯 | 正犯の実行行為を容易にするよう手助けをした場合 | 正犯の実行行為を容易にする | 正犯の法定刑を減軽して処罰される |

第4 幇助犯の成立要件とは
以下の要件を満たした場合、幇助犯として処罰され得ることとなります。
① 幇助行為があること
幇助犯が成立するには「幇助行為」が存在しなければなりません。
幇助行為の手段、方法、態様に制限はなく、道具や場所を与えるなどの有形的な形態のもののみでなく、精神的に犯意を強めるような無形的なものも含みます。
凶器を貸す、犯行現場を提供するなどといったものだけでなく、正犯者を激励するなどの行為も幇助行為に当たり得るのです。
② 幇助の意思があること
ある行為が正犯者の犯罪実行を手助けしたこととなったとしても、その行為につき「幇助の意思」がなければ、幇助犯は成立しません。
「幇助の意思」とは「正犯の実行行為を認識するとともに、自己の幇助行為が、正犯の実行を容易にするものであることを認識すること」とされています。
例えば、Aさんから「料理に使いたいからナイフを貸してほしい」と言われ、それを信じてナイフを手渡したものの、Aさんがそのナイフを使ってBさんを刺した場合、ナイフを手渡す行為はAさんの犯罪行為を容易にしたとは言えますが、Aさんの犯罪を手助けする意思はありませんので、幇助犯は成立しません。
ただ、「幇助の意思」は、確定的なものである必要はなく未必的なものでも足りるとされており「実行行為を容易にするかもしれない」と認識している程度でも「幇助の意思」が認められ得ますので、注意が必要です。
③ 正犯者が犯罪を実行していること
幇助犯は正犯の犯罪行為を前提として成立します。
正犯に犯罪が成立しない場合、幇助犯も成立しません。
例えば、AさんがBさんを傷つけるのを助ける目的でAさんに凶器を貸したとしても、その後、Aさんが心変わりをしてBさんを傷つけることがなければ、傷害罪の幇助犯が成立することはありません
④ 幇助行為と正犯の実行行為の間に因果関係があること
幇助犯が成立するためには、幇助行為によって正犯者の実行行為が容易になったと言える関係がなければなりません。
それは、物理的な因果性を有する場合のみに限らず、心理的因果性を有する場合にも認められます。
例えば、厳重に施錠された事務所に侵入し物品を奪おうと計画している正犯のために侵入しようとする建物の鍵を開けておく行為は、物理的に侵入し易くしたという面が重要ですが、一方では、開いていたから侵入する意思が強まったという心理的因果性も生じ得ることとなります。
第5 見張りは幇助犯なのか
窃盗や強盗において見張りを担当することは、幇助犯ではなく、共同正犯とされる場合が多いです。
見張り役は、窃盗や強盗の実行行為を行ってはいないのですが、先に説明した「2人以上の者が犯罪の実行を共謀し、共謀者のうちのある者がこれを実行したとき」に成立する「共謀共同正犯」とされることが多いからです(ただ、見張り役が首謀者の単なる手先であるなどの場合には、幇助と評価され得るでしょう。)。
このように、一見して幇助犯と思えるような事例でも、共同正犯とされているものが多くあり、幇助犯か共同正犯化を区別することは刑事事件に精通した弁護士でなければ困難と言えます。
第6 幇助行為の具体例
先ほど説明したとおり、幇助行為の手段、方法、態様に制限はなく、道具や場所を与えるなどの有形的な形態のもののみでなく、精神的に犯意を強めるような無形的なものも含みます。
例えば
① 強盗犯が逃走するための車両を提供した場合
② 窃盗犯のために銀行の警備体制や防犯カメラの位置を情報提供した場合
③ 相手を殴ろうとしている人に対して「いざとなったら加勢するから殴れ」と激励する
場合などは、正犯の実行行為を物理的又は心理的に容易にするものとして幇助行為となり得ます。
ただし、必ずしも幇助犯とされるわけではなく、その他の事情によっては共謀共同正犯として処罰されることもあります。
第7 幇助犯の刑罰は
幇助犯の法定刑は正犯より減軽されることとなりますが、具体的な刑罰は正犯の犯行態様や幇助行為の内容等の種々の事情により異なります。
幇助犯は、共同正犯と比較して立件されるものは少ないので、量刑の傾向を掴むことは難しいと言えるでしょう。
第8 幇助犯の弁護活動
幇助犯として立件された場合、「幇助犯の要件を満たさず、幇助犯は成立しない」と考えられる場合には、その主張をしっかりと捜査機関に伝えなければなりません。
その際には、周囲の事情を詳細に検討し、法律上の見識を前提とした上で「幇助行為はない」「幇助の意思はない」などと主張していかなければなりませんが、そのような判断は刑事事件に精通した弁護士でなければ困難ですので、弁護士を介して主張することが相当と言えます。
一方で、幇助犯が成立してしまう場合には被害者と示談交渉をすることが重要となるでしょう。
この点、被害者との示談交渉は、被害者が警戒して被疑者本人と連絡をとるのを拒むことが多いこと、そもそも被疑者本人が被害者の連絡先を知らなければ進めることは不可能なことなどから、被疑者本人で行うことは非常に困難ですし、示談交渉自体がトラブルの種になりかねませんので、弁護士を介して行うことが相当です。
また、弁護士であれば、正犯の弁護士と連絡をとりつつ、正犯と同時に示談交渉することも可能となりますので、その意味でも弁護士を介した示談交渉を進めることが妥当と言えます。
第9 お気軽にご相談ください
上原総合法律事務所は、元検事 8名を中心とする弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
刑事事件に関するお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
経験豊富な元検事の弁護士が、迅速かつ的確に対応いたします。
■LINEでのお問い合わせはこちら
■メールでのお問い合わせはこちら
※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。