執行猶予とは 刑事裁判においては、多くの場合、執行猶予付判決を得ることが目標になります。 執行猶予とは、拘禁刑(懲役…[続きを読む]

弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
「執行猶予がいつ終わるのか?」「執行猶予が満了したら前科はなくなるのか」など、執行猶予の満了に関してよくある質問について、元検事の弁護士がお答えします。
目次
執行猶予とは
執行猶予とは、拘禁刑(懲役刑・禁固刑)の有罪判決を受けたときに、すぐに刑務所行きにならずに一定期間刑の執行を待ってもらう(猶予してもらう)ことができ、その間に新しく罪を犯すなどしなければ刑務所に行かなくてよくなる、という制度です。
「執行猶予」の意味は、まさに刑の「執行」を「猶予」する、すなわち刑務所に収監することなどを先送りにする、という意味です。
あくまで「先送り」ではありますので、執行猶予判決の時点で「刑務所に行かなくていい」と決まったわけではありません。
執行猶予の満了とは
執行猶予の満了とは、執行猶予が取り消されずに執行猶予期間が終わることです。
執行猶予となっても、その期間中に再犯をしたり、遵守事項を守らなかったりすると執行猶予が取り消され、実際に刑務所に収監されることになってしまいます。
そのような執行猶予の取消しになることなく、執行猶予期間を「無事に」過ごすことで執行猶予の満了に至り、刑務所に行かずに済むことが確定するのです。
執行猶予の満了日はいつ?
執行猶予期間は、判決言い渡しからではなく、「判決が確定した日」からスタートします。判決は言い渡しの翌日から数えて14日後までに控訴しなければ確定します。
そしてさらにそこから執行猶予期間が経過することで執行猶予の満了日を迎えます。
例えば・・・
令和4年7月5日に「被告人を懲役3年に処する。この判決確定の日から5年間その執行を猶予する。」という判決が下った。
とします。
この判決は、言い渡しの翌日(令和7年7月6日)から数えて14日後の令和7年7月19日までに控訴がなされなければ確定し、
令和7年7月20日から執行猶予が開始します。
そうすると、令和12年7月19日までが執行猶予期間になります。
この場合、令和12年7月19日で執行猶予が終わるということになります。
執行猶予が満了すると通知はあるのか?
執行猶予期間が満了しても、通常、特段の通知はありません。
ですので、自身の執行猶予期間の満了については、執行猶予期間はもちろん、判決の言渡し日や確定日を記録等しておき、自ら確認しなくてはなりません。
もし自分の判決の内容や日付が分からなくなってしまったという場合には、判決の謄本を取り寄せて確認するという方法もあります。
執行猶予が満了すると前科は消える?
結論としては、執行猶予期間が満了しても前科が消えたりなくなったりするわけではありません。
執行猶予期間が無事満了すると、刑の言渡しは効力を失い、もうその刑の執行を受けることはなくなります。
しかし、あくまで前科としては残り、「なかったこと」にはなりませんし、満了後でも再犯等あれば、期間の経過によって程度の差はあれど、前科として処分に影響することもあります。
刑法第27条:刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
執行猶予中にしてはいけないこと
執行猶予中の場合、特に犯罪をしないよう留意する必要があります。
というのも、再犯により執行猶予が取り消されることもあり、その場合、執行猶予となっていた刑も執行を受けることとなって、長期間刑務所に収監されるおそれもあるからです。
ただ、執行猶予中でなくとも犯罪をしてはいけないことは当然ですし、一般の方と比べて、執行猶予の方がしてはいけない特別なことがあるというわけではありません。
なお、後記のとおり、保護観察に付されている場合には定められた遵守事項を守る必要があります。
また、交通事故も犯罪になり得るため、交通事故を起こしただけでも執行猶予が取り消される可能性があります。
そのため、執行猶予中は車の運転を控える、という方もいます。
判決の内容によっては、パスポートの発給が受けられず海外旅行に行けないなどの可能性もあります。
執行猶予中にしなければならないこと
執行猶予中だからといって何かしなければいけないことがあるわけではありません。
強いて言えば、執行猶予の取消しに繋がるような行動をしないよう、特に気を付けて過ごす必要はあると言えるかもしれません。
なお、保護観察に付されている方は、保護観察官に面会するなど、定められた義務を果たす必要があります。
執行猶予についてよくあるご質問
Q1 執行猶予中であることは会社/学校に知られてしまいますか?
執行猶予になったことは、会社や学校には当然には知られません。
社会の注目を集める事件ですと、新聞・テレビなどで実名報道がされることがあります。
この場合、会社や学校の方が報道を見ることで事件を知られてしまいます。
すでに一度報道されて社会の注目を集めてしまっている場合、報道を防ぐことは難しく、報道を避けるためには、メディアに情報が伝わる前に対処する必要があります。
Q2 執行猶予中に引っ越していいですか?
執行猶予中であっても引っ越して問題ありません。
なお、保護観察中の方は、事前に保護観察所長の許可を得る必要があります。
Q3 執行猶予中に旅行に行っていいですか?
執行猶予中であっても旅行に行って問題ありません。
なお、保護観察中の方は、事前に保護観察所長の許可を得る必要があります。
Q4 執行猶予中に外国に行っていいのですか?
執行猶予中であっても外国に行けなくなるというわけではありません。
ただ、パスポートの発給が制限されるなどの可能性はあります。
なお、保護観察中の方は、事前に保護観察所長の許可を得る必要があります。
Q5 執行猶予は前科ですか?
前科とは、有罪判決を受けた履歴のことです。
執行猶予付判決は、執行猶予にはなっていますが有罪判決ですので、前科です。
Q6 執行猶予中であることを履歴書に書かなくてはいけないのでしょうか?
前科は、履歴書の「賞罰」欄の「罰」に当たります。
執行猶予付判決は前科ですので、履歴書の賞罰欄に記載する必要があります。
なお、多くの場合、履歴書の賞罰欄には「賞罰がない場合にはなしと記載すること」などと書かれています。
このような場合、前科があるのに賞罰欄を書かないこと自体が虚偽記載になり得ますので、注意が必要です。
Q7 執行猶予付の前科は消えませんか?
刑法第27条には「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。」と規定されています。
そのため、無事に執行猶予期間を過ごすと、その後、執行猶予付判決の刑の言渡しは効力を失います。
ただ前科が「消える」わけではなく、執行猶予期間満了後であっても、再犯をしてしまった場合は前科として処分や判決に影響する可能性があります。
Q8 判決日や執行猶予期間がわからなくなってしまいました・・・
判決日がわからなくなって執行猶予期間をいつから数えるのかわからなくなったり、執行猶予期間が何年間だったかわからなくなってしまう方がいます。
このような場合、裁判をした裁判所に連絡し、判決書謄本を請求します。
判決書謄本には判決日や判決内容が書かれていますので、いつまでが執行猶予期間なのかを確認することができます。
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