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飲料等への尿など異物の混入事件について刑事事件に注力する元検事弁護士が解説します

1 同僚のルイボス茶に尿を混入させた事件に関する報道の概要

令和4年3月,大阪府内の30代の男性会社員が,同僚女性のルイボス茶に尿を混入させていたとして,大阪府警に逮捕されたとの報道がなされました。
報道によれば,この男性は,令和4年1月,会社内で,30代の同僚女性の水筒に尿を混入させ,同女性がこれを飲んでしまったということです。男性は暴行と器物損壊の嫌疑で逮捕されています。

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2 報道から分かる発覚の経緯等

報道によれば,被害者の女性は令和3年秋頃から水筒のお茶の味に違和感を覚えていました。この女性が上司に相談して職場には防犯カメラが設置されていたほか,女性は水筒の中身を保管していたとのことです。
この防犯カメラに,男性が女性のデスクから水筒を持ち出す状況が記録されていました。また,保管されていた水筒の中身の鑑定により,尿の混入が判明したようです。
なお,逮捕された男性は尿の混入について自認している旨も報道されています。

3 事件が発覚したらどうなるか

上記報道の男性がなぜこのような行為に及んだのかまでは分かりません。ですが,いずれにせよ,誰かの飲み物に異物を混入させるという行為が許されないものであることは言うまでもありません。

この報道以前にも,性的な動機から飲み物等に尿や精液等を混入させるという事案は散見されます。また,過去の創作物の中では,嫌いな上司の飲み物に異物を混入させるといった行為が面白おかしく描写されている例もあったように思います。

しかし,重ねてになりますが,このような行為は決して許されるものではありません。被害者側の心理的な嫌悪感はもちろんですし,混入した物によっては身体への悪影響も考えられます。
このような行為が発覚すれば,職場等であれば懲戒処分等の対象にもなりうるでしょうし,そうでなくとも,人間関係上,そのコミュニティに居続けることは極めて困難となるでしょう。また,民事的にも損害賠償請求を受け,低くない金額を支払う義務を負う可能性もあります。

さらに,このような行為は,今回の報道からも分かるよう,刑事事件にも発展して逮捕され,報道される可能性があります。

4 刑事事件にも発展しうる異物の混入

(1)器物損壊罪は成立するか

まず,尿などの異物を混入させれば,その対象はもちろん,その容器も心理的に使用困難になることは想像に難くないでしょう。
その結果,物理的には破壊されていなくても,刑法261条の「器物損壊罪」が成立する可能性があります

古い判例ですが,食器に放尿する行為について「損壊」に当たると判断された事例もあります。報道の事案でも,水筒を損壊したと捉えて器物損壊で逮捕されたのではないかと推察されます。

(2)暴行罪は成立するか

報道では「暴行」の疑いも持たれているとのことですが,報道の事案において「暴行」が成立するかは疑問です。

刑法208条にいう「暴行」は,通常,「身体に対する不法な有形力の行使」をいうと解されています。典型的な暴力はもちろんのこと,当たらないまでも物を投げつけたり,体液をかける,耳元で大声を発するなどの行為も「暴行」となりえます

しかし,報道からうかがい知れる男性の行動は誰かしらの身体に対するものとは言い難いものです。他方でお茶を飲んだ行為は女性側の行為であって,「暴行」とは捉えがたいように思われます。

※詳細な事実関係次第では「暴行」にあたることもあります。

(3)傷害罪は成立するか

ただ,仮に異物を混入させる行為が「暴行」には当たらないとしても,刑法204条の「傷害」の罪が成立する可能性もあります。

「傷害」とは「人の生理機能に障害を与えること」です

混入された異物を摂取した結果,何かの疾病に感染するなどすれば,傷害罪が成立しえます。
また,不調は肉体的なものに限られませんから,異物の混入を知った結果,被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなどすれば,この点を捉えて傷害罪が成立する可能性もあります。

(4)刑事事件になる可能性は十分にあります

いずれにせよ,誰かの食べ物や飲み物に異物を混入させるという行為は,職や人間関係を失い,金銭的な負担を負うほか,刑事事件として立件され,逮捕されたり処罰される可能性もあるものです。

さらに,まさに今回の報道からも分かるように,刑事事件として立件されて逮捕されるなどした場合,それが大々的に報道される可能性も十分にあります。
そのような事態となれば,事件の内容が内容だけに世間の注目を浴び,ネット上に実名や事案が残り続けるという事態にもなりかねません。その結果,逮捕されて報道された人はもちろん,その家族等へも大きな影響が生じてしまいます。

5 もしもこのような混入行為に及んでしまっていたら

まず,そもそもこのような行為に及ぶべきでないことは言うまでもありませんし,継続しているとすれば即刻やめるべきです。

道義的,倫理的にはもちろんですし,報道の事案からも分かるように,いずれ発覚する可能性も大きく,そうなった場合の影響は先に述べた通り甚大です。
もし既に発覚している,あるいはその可能性がありそうだという状況に置かれているのであれば,相手方への謝罪や被害弁償等が必要になります。
ですが,事案の内容からして直接相手方と話すことは難しいでしょうし,相手方の弁護士や会社が間に入った状況で,対等に話をすることが困難な場合もあるでしょう。

また,状況によっては,刑事事件になることが避けられないので逮捕される前に弁護士と一緒に自首すべきである,ということもあります。
相手方との話し合いや自首を検討する方は,弁護士に相談すべきです。

刑事事件に発展する可能性が高い事件ですので,自分自身や周囲の方の現在と将来のことも真剣に考えるべきです。
このような事件を起こしてしまったとしたら,相手方に誠実な対応をしなければならないことは大前提です。
ですが,どのようにすることが誠実な対応になるのか,刑事事件における被害者対応においてはどのような点に注意すべきか,といったことは専門家でなければわかりません。
ご自身や周囲の方だけでは判断が難しいと思います。

刑事事件化や逮捕,これに伴う報道等を避けるためには,事案と相手方の方針に応じた適切な対応をする必要があります。

お悩みの方は,ぜひ一度当事務所にご相談いただければと思います。

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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