残業が違法となるケースとは?弁護士が詳しく解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

会社は業務を進めるために、従業員に対して、時間外労働(残業といいます)を「命令」しなくてはならない場合があります。

しかし、我が国の労働法制では、法定の労働時間を超えて労働させることは原則として禁じられています。残業をさせるには、法令の定める例外の要件を満たす必要があり、これに違反する残業命令は違法です。

では、残業が違法となるのは、どのような場合なのでしょうか。

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1. 残業とは

まず、「残業」とは何かを正確に理解しておきましょう。

1-1. 法定労働時間とは

労働時間は、休憩時間を除き、1週40時間、1日8時間が原則です(労基法32条)。これが「法定労働時間」です(※)。

※例外として、常時10人未満の労働者を使用する飲食店・接客業など、小規模の商業・サービス業では、事業の特殊性から、法定労働時間は1週44時間とされます(労基法40条、労基法施行規則25条の2)。

労働契約・労働協約・就業規則で、法定労働時間を超える勤務時間を定めても、労働基準法違反として無効となります(労基法13条、労働契約法13条)。

使用者が、労働者に法定労働時間を超えて労働させることは、法令の定める例外要件を満たさない限り、原則違法です。違反した使用者は、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑が科される場合があります(労基法119条1号)。

1-2. 法外残業と法内残業の違い

残業には「法外残業」「法内残業」があります。

法外残業は原則違法

法外残業は、法定労働時間を超える労働時間となる残業です。例えば、始業8:00、終業17:00(休憩1時間あり)の場合、勤務時間は8時間ですから、17:00以降の残業は、法定労働時間を超える法外残業となり、原則として違法です。

法内残業は適法

法内残業は、所定労働時間を超えるものの、法定労働時間を超えていない残業です。所定労働時間とは、労働契約・労働協約・就業規則で定めている勤務時間のことです。

例えば、始業8:00、終業16:00(休憩1時間あり)の場合、勤務時間は7時間ですから、16:00から17:00まで1時間の残業をしても、法定労働時間を超えず適法です。
なお、労働基準法違反とはなりませんが、法内残業をさせる場合でも、後に述べるとおり、「所定労働時間を超えて業務を命じることがある」旨、労働契約・就業規則等に定められていることが、残業を命じることのできる前提となります。

2.残業が違法となる場合

以下では、残業が違法となる場合を解説していきます。

2-1. 36協定がない

法定労働時間を超える法外残業は違法となるのが原則です。しかし、大きな例外があります。それが「36協定」(サブロク協定)です。

使用者が、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(これが存在しないときは、事業場の労働者の過半数を代表する者)との間で書面による協定を結び、労働基準監督署に届出をすれば、法定労働時間を超えた労働を命じることが許されます(労基法36条)。

36協定があれば、法定労働時間を超えた法外残業が行われても、使用者は処罰されません。これを36協定の「免罰的効果」と呼びます。

逆に、36協定がないにもかかわらず、法定労働時間を超えて残業を命じることは違法です。実際に残業をさせた場合、使用者は労働基準法違反で処罰される可能性があります(労基法119条1号)。

2-2. 残業命令権がない

36協定があれば、法定労働時間を超える法外残業も許されます。しかし、それは使用者が処罰されないというだけであって、36協定があるからといって、個々の労働者が法外残業をしなければならない義務を当然に負担するわけではありません。

使用者が労働者に法外残業を命じるためには、その都度、個別の労働者から同意を得るか、あらかじめ労働契約・労働協約・就業規則において、その旨の定めがあることが必要です。

例えば、就業規則に「使用者は、業務上の必要がある場合、36協定の範囲内で、時間外に労働させることができる」などの定めがあり、それが合理的な内容であれば、使用者は残業を命ずる権限(残業命令権)を取得し、労働者は残業命令に従う義務を負担することとなります。

【就業規則の定めによる残業命令権を認めた最高裁判例】(最高裁平成3年11月28日判決・日立製作所武蔵工場事件)
最高裁は、36協定が届出されており、就業規則に、その36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働時間を延長して労働させることができる旨が定めてあるときは、就業規則の規定内容が合理的なものである限り、それが労働契約の内容となり、労働者は、残業する義務を負うとしました。

逆に言えば、36協定があっても、労働契約・就業規則・労働協約に、使用者が残業を命じうるとの定めがない場合は、仮に使用者が残業を命じたとしても、そもそも使用者には、その権限がないため、労働者は、労働法・契約法上の観点から応じる義務はありません。この場合の使用者による残業命令は、いわば「お願い」に過ぎないことになります。

2-3. 残業命令権が権利濫用

36協定があり、労働契約・就業規則・労働協約に、使用者が残業を命じうるとの定めもある場合は、使用者には法外残業を命じる権限があり、労働者は命令に従う義務を負担します。

しかし、残業命令権は労働契約上の権利ですから、その行使が権利の濫用にあたることは許されません(労働契約法3条5項)。

次のような特段の事情がある場合、残業命令権の行使が権利濫用として無効となる可能性があります(水町勇一郎「詳解労働法(第3版)」東京大学出版会・731頁)。

  1. そもそも業務上の必要性がない場合
  2. 不当な動機・目的による命令
  3. 労働者に著しい不利益を負わせる場合

2-4. 拒否に正当な理由がある

使用者は、労働契約上の義務として、労働者の健康・身体の安全に配慮する義務があります(労働契約法5条)。そこで、労働者に病気などの体調不良があるときは、やむを得ない理由(正当な理由)があるものとして、残業命令を拒否できると考えられています。

【裁判例】(東京高裁平成9年11月17日判決・トーコロ事件)
Y社は卒業記念アルバムの製造等を行う企業で、その従業員Xは電算写植機のオペレーターでした。Y社は、36協定を締結して届け出ており、就業規則には「業務の都合で必要のある場合は、時間外及び休日勤務をさせることがある」との定めもありました。Y社が繁忙を理由に、Xに対して「来週1週間、午後9時まで残業」との命令を行いました。しかし、Xは以前から眼精疲労等の症状を訴えており、医師からは、残業を避けて通院加療を要すると診断されたことを理由に残業命令に従いませんでした。Y社がXを解雇したため、Xは解雇の無効を主張して提訴しました。

裁判所は、①そもそもY社の36協定は、単なる親睦会代表と締結したものに過ぎず、36協定とは認められないとして、そのことだけでも残業命令は違法であるとする一方、②仮に、本件の36協定が有効なものだったとしても、「労働者に残業命令に従えないやむを得ない理由があるときには、残業命令に従う義務はないと解するのが相当である」としたうえ、Xは眼精疲労等で残業命令に従えない「やむを得ない理由」があったと認め、この点からもXは残業命令に従う義務はなかったとし、義務違反がない以上、解雇事由がなく、解雇は無効と判断しました。

2-5. 上限規制を超えている

有効な36協定があり、就業規則などにも残業させることができるとの定めがあるなら、使用者は残業命令権を取得し、権利濫用とならない限り、残業を命ずることができます。

ただし、残業時間の上限規制を超えて残業させることはできません。

法外残業の原則的な上限(限度時間)

36協定で法外残業が許容される場合でも、その上限は、原則として、1ヶ月45時間以内、1年360時間以内です(労基法36条3項、4項)。これを「限度時間」と呼びます。

特別条項による上限

その事業場における、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に「限度時間」を超える必要性がある場合は、36協定に「特別条項」を設けることで、「限度時間」を超える残業が許されます。

ただし、「特別条項」の場合にも、次の3つの上限があります。①時間外・休日労働をさせることができる時間は、1ヶ月100時間未満で、かつ、2ヶ月ないし6ヶ月の平均で月80時間以内であること、②1年につき720時間以内であること、③月45時間を超えるのは、1年のうち6ヶ月以内に限定し、その月数を定めること(労基法36条5項、6項)。

これらの上限規制を超える残業命令は違法であり、実際に上限を超えて労働させた場合、使用者は処罰されることがあります(労基法119条1号)。

2-6. 妊娠、育児、介護

ここまで説明した規制以外にも、妊娠、育児、介護をする労働者を保護するために、法外残業、法内残業が禁止されたり、特別な上限規制が設けられている場合があります。これらの規制に違反して残業をさせることは違法です。

妊娠、出産

有効な36協定があっても、妊産婦(妊娠中および産後一年を経過しない女性)から請求があれば、使用者が法定労度時間を超える法外残業をさせることは禁じられます(労基法64条の3第1項、66条2項)。

育児

小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者から、子の養育のため、事前に一定期間を定めて請求があるときは、使用者は、その期間中、労働者に所定労働時間を超える残業をさせることが禁じられます。ただし、業務の正常な運営を妨げる場合は、この限りではありません(育児介護休業法16条の8)。

小学校就学前の子を持つ労働者から、子の養育のため、事前に一定期間を定めて請求があるときは、使用者は、その期間中、労働者に1月に24時間・1年に150時間を超えて法定労働時間を超える法外残業をさせることが禁じられます。ただし、業務の正常な運営を妨げる場合は、この限りではありません(育児介護休業法17条)。

介護

介護が必要な家族を持つ労働者から、その家族を介護するため、事前に一定期間を定めて請求があるときも、使用者は、その期間中、労働者に1月に24時間・1年に150時間を超えて法定労働時間を超える法外残業をさせることが禁じられます。ただし、業務の正常な運営を妨げる場合は、この限りではありません(育児介護休業法18条)。

3.残業に関するよくある質問

3-1. 正当な理由がないのに断った場合は懲戒処分できるか?

有効な36協定があり、就業規則の定めもあり、上限規制に抵触しない範囲での、使用者による残業命令を労働者が拒否したとしましょう。

労働者の拒否理由に正当な理由(やむを得ない理由)がなく、残業命令が権利濫用にもあたらないという場合は、労働者の行為は単なる業務命令の拒否に過ぎません。

この場合、通常は、就業規則に定められた「正当な理由なく、業務上の命令に従わないとき」などの懲戒事由に該当することから、懲戒処分を受ける可能性があります。

3-2. 終業時間の直前に突然残業を命じても問題ないか?

社員A「さあ5時になるぞ、週末だから遊びに行こう」
課長B「おーいA君、すまんが残業して、この見積書を今晩中に仕上げてくれ」
このように、終業時刻間際になって、突然、残業を命じられることがあります。

労働者としては「それはないよ」と思うところですし、このような命令は社会常識としては避けるべきですが、法的には、残業命令が終業間際であったという一事をもって、権利濫用となったり、拒否に正当な理由が認められたりすることはありません。

権利濫用にしても、拒否の正当理由にしても、要は、使用者の残業を命ずる必要性と、残業によって受ける労働者の不利益を比較衡量して、どちらを重視するかという判断に帰着します。

実は、この見積書の完成に緊急性ははなかったという場合には、もうすぐ労働時間から解放されるという労働者の期待を重視して、権利の濫用であると判断されることもあり得るかもしれません。急ぐ必要性があっても、労働者が帰宅途中に通院したり、帰宅して介護をする必要がある場合なら、やはり労働者の利益が重視されるべきでしょう。

このように、終業直前の命令であるという点だけを見るのではなく、それも含めた諸事情を総合的に判断することとなります。

3-3. アルバイト・パートタイム等の短時間労働者の場合は?

労働時間の短いアルバイト・パートタイム労働者等に対して残業を命令する場合も、考え方は、正社員の場合と同じです。

アルバイト・パートタイム労働者でも、所定労働時間を超える法内残業の命令が行われる限りにおいては、36協定は不要です。
ただし、上記のとおり、法内残業をさせる場合でも、「所定労働時間を超えて業務を命じることがある」旨、労働契約・就業規則等に定められていることが、残業を命じることのできる前提となる点も同じです。

他方、アルバイト・パートタイム労働者には、短時間の勤務を望む、それぞれの事情があります。短時間労働者の雇用に関して厚生労働省が定めた指針にも、「事業主は、短時間労働者の労働時間(中略)を定め、又は変更するに当たっては、当該短時間労働者の事情を十分考慮するように努める」、「事業主は、短時間労働者について、できるだけ所定労働時間を超えて(中略)労働させないように努める」とされています(※)。

「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」(厚生労働省告示第326号・平成19年10月1日)

したがって、アルバイト・パートタイム労働者への残業命令が権利濫用か否かを判断するにあたっては、たとえ法内残業の命令であっても、当該労働者が残業によって受ける不利益について、通常の場合よりも重い評価を受けることになると考えられます。

3-4. 大切な私用の場合に残業を命じても違法にならない?

「残業を命じられたけれど、今夜、北海道旅行に出発する予定で、飛行機もホテルも予約してある」、「今日は、デートで高級レストランを予約してあるのに残業を命じられた」

これらのような場合、残業命令に従うと、航空機代、ホテル代、高級レストランのキャンセル料金といった損害を生じます。考え方としては、これらも残業によって労働者が受ける不利益として、権利濫用の判断要素となりえます。ただ、そもそもこのような事態の発生を避けるためには、指揮命令を受ける上司や同僚に、あらかじめ「この日は早く帰ります」ということを情報共有しておき、その日に突然残業を命じられることがないよう先手を打っておくことが大切です。また仮に緊急の業務が生じたとしても、周りの同僚が事情を知っていれば、代わりにフォローしてくれることもあるでしょう。このような日々の密な職場内コミュニケーションが、残業を理由とした社内トラブルの発生を防止するためには重要なポイントの一つとなります。

4.お気軽にご相談ください

弁護士法人上原総合法律事務所では、労働法務に詳しい弁護士が、事業主様からのご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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