服務規律違反をした従業員にはどう対処すればいい?弁護士が詳しく解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

服務規律とは、職場の秩序を維持するために、会社が従業員に向けて定めたルールです。例えば「始業時間にやむを得ず遅刻をする場合は、事前に上司に届け出て許可を得ること」というように常識に属するようなことでもあっても、守られないと業務に支障をきたします。このため、きちんと服務規律として明文化することが望まれます。

では、従業員がこうした服務規律に違反した場合、会社はどのように対処すれば良いのでしょうか?

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1.服務規律違反とは?

1-1. 服務規律の具体的内容

前述したとおり、服務規律とは、会社において従業員が守るべきルールです。職場規律と呼ばれることもあります。服務規律の内容は、その会社ごと、事業場ごとに様々ですが、一般に次のような内容の規定が含まれます。

  1. 職務専念義務(勤務時間中は誠実に職務に専念すること)
  2. 始業・終業時のタイムカード打刻や出退勤簿への記入
  3. 遅刻・早退・欠勤の届出義務(事前に会社の承認を得ること等)
  4. 会社物品・施設の無断使用禁止
  5. 職務上の不正行為の禁止(職務に関する金品受領の禁止等)
  6. 非行行為の禁止(会社の名誉・信用を害する行為の禁止等)
  7. 個人情報保護(情報管理上の注意、異動や退職時のデータ返却等)
  8. 秘密保持(業務上知り得た機密を漏洩しないこと等)
  9. パワハラ、セクハラなど各種ハラスメント行為の禁止
  10. 兼職・副業の禁止

1-2. 服務規律と就業規則との違い

服務規律は就業規則において定められる

就業規則とは、その事業場において適用される職場の共通ルールです。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法89条)。

そして、始業・終業・休憩時間、休日・休暇、解雇の事由、制裁(懲戒)の定め等の他、「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」は就業規則に記載するよう義務付けられています(同条10号)。このため、通常、服務規律は、就業規則において定められることとなります。

就業規則には服務規律以外の事項も定められる

もっとも、就業規則の内容は服務規律だけにとどまりません。賃金の決定・計算・支払方法や昇給に関する事項、退職金に関する事項、災害補償等の定め、表彰に関する定め等、労働契約における労使の権利義務や使用者側の義務も就業規則に定めることが求められています。

また、労働者保護の見地から、就業規則には特別な法的効力が与えられています。具体的には、労働契約に就業規則で定めた基準に達しない労働条件がある場合、労働契約のその部分は無効となり、就業規則の定める基準が労働条件となります。このような効力を「強行的直律的効力」と呼びます(労働基準法93条、労働契約法12条)。

服務規律は、就業規則の定めに含まれるともいえます。ただ、前述のとおり、就業規則には服務規律以外の内容も含まれています。例えば、就業規則に退職金の定めがあるにもかかわらず、使用者が退職者に退職金を支払わない場合は、使用者による就業規則違反となります。

「服務規律」が「就業規則」とは別の規程集になっている場合

就業規則とは「就業規則」と題する一冊の規程集を意味するものではなく、当該事業場のルールを定めた規程集全般のことを指します。例えば、ある事業場に、①「就業規則」と題する規程集、②「服務規律」と題する規程集、③「賃金規程」と題する規程集とが別々に定められていたとしても、法的に見ると、この3つの規程集は一体の就業規則として取り扱われます。

2.服務規律違反に対する懲戒処分の方法

従業員が服務規律に違反した場合、まず頭に浮かぶのは懲戒処分という対応でしょう。ここでは、懲戒処分の種類や、服務規律違反に対しどのような懲戒処分が認められうるか等について解説します。

2-1. 就業規則の定めが必要

労働者の服務規律違反に対しては、制裁として懲戒処分をすることが可能です。懲戒処分とは、労働者の企業秩序違反に対する罰のことをいいます。使用者は、あらかじめ就業規則に懲戒事由と処分の内容(種類)を定めることによって、懲戒処分を行うことが可能となります(最高裁平成15年10月10日判決・フジ興産懲戒解雇事件)

2-2. 懲戒処分の種類

懲戒処分には、①戒告・けん責②減給③出勤停止④降格⑤諭旨解雇⑥懲戒解雇があります。これらは①から⑥の順に重い処分となります。

  1. 戒告とは、将来を戒める処分であり、けん責とは、戒告に加えて始末書を提出させる処分です。
  2. 減給とは、支払われるべき賃金から一定額を差し引く処分です。ただし、労働者保護の観点から、1回の減給額は平均賃金の1日分の50%以内とすること等の制限があります(労働基準法91条)。
  3. 出勤停止とは、一定期間、就労を禁止する処分です。「自宅謹慎」と呼ばれることもあります。一般に、出勤停止期間の賃金は発生せず、勤続年数にも含められないこととなります。
  4. 降格とは、役職・職位・職能資格などを引き下げる処分です。通常、これに連動して、給与・賞与・退職金の減額という不利益も招きます。
  5. 諭旨解雇とは、退職を勧告し、退職願を提出させてから解雇する処分です。この場合は、退職金の全部または一部が支給される例が多いようです。
  6. 懲戒解雇とは、最も重い懲戒処分で、一方的に労働契約を解約する処分です。この場合は、通常、退職金の全部または一部が支給されません。

2-3. どのような服務規律違反に対してどのような懲戒処分が認められるか?

では、どの服務規律を守らなかった場合に、どのような懲戒処分が認められるのでしょうか?これは、一義的に決められているわけではありません。どのような要素に沿って判断されるのかを以下に説明します。

懲戒権濫用法理と判断要素

前述のとおり、いかなる服務規律違反行為に対し、いかなる懲戒処分を行うことができるかを定めた法律はありません。どの服務規律違反行為に対し、どのような懲戒処分が認められるのかは、使用者が作成する就業規則の定めによります。

しかし、懲戒処分は労働者に大きな不利益を与えるため、懲戒権濫用法理が適用されます(労働契約法15条)。具体的には、服務規律違反行為の性質、態様およびその他の事情に照らし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用として当該懲戒は無効とされます。

一般に、服務規律違反行為に対する懲戒処分が懲戒権の濫用とならないための要件として、次のものがあげられます。

  1. 就業規則に懲戒事由と処分内容が定められていること
  2. 服務規律違反行為が、就業規則に定める懲戒事由に該当すること
  3. 違反の重さと処分の重さのバランスがとれていること(比例原則)
  4. 労働者に弁明の機会を与えていること
  5. 適正な手続を経ていること(例:就業規則や労働協約で、懲戒委員会の審査や労組との協議が必要とされる場合の手続)
  6. 遡及処罰ではないこと
  7. 二重処罰ではないこと

有効な懲戒処分か否かは、総合的に判断される

このうち、実務的に重要なのは③の「比例原則」です。これは服務規律違反行為の程度と処分の軽重のバランスが要求されるものです。例えば軽い違反行為に対して重すぎる処分を与えることは社会通念上相当とは認められず、懲戒権の濫用となります。

この観点に照らせば、無断欠勤や遅刻のように軽い違反には戒告・けん責が、職務上の不正行為のように重い違反には懲戒解雇のような重い処分が相当ということができそうです。

しかし、社会通念上の相当性の判断基準は、違反行為の内容だけでなく「その他の事情」(労働契約法15条)も考慮されますから、結局は、服務規律違反をめぐる諸事情から総合的に判断されることとなります。

労働者がたびたび服務規律に違反してきた事実がある場合であっても、これまでに会社が注意・指導をして改善の機会を与えた事実がないというケースでは、重い懲戒処分が不相当とされる可能性があります。

したがって、同じ種類の服務規律違反であっても、軽い戒告処分から重い懲戒解雇処分まで、違反内容や諸事情に応じた処分が考えられるのです。

3.懲戒処分が認められたケース/認められなかったケース

ここでは、服務規律違反行為に対する懲戒処分が認められたケース、認められなかったケースにつき、実際の裁判例を紹介します。いずれも、その具体的な事案に応じた諸事情の総合判断であることに注意してください。

3-1. 横領等による服務規律違反の例

横領行為や背任行為など、職務に関連して不正な利益を図る行為は、「職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと」(厚労省「モデル就業規則」より)といった就業規則の服務規律に違反しています。このような場合、被害額、労働者の職務内容、他の労働者や会社の信用に与える影響の大きさなどを考慮して懲戒処分の相当性が判断されます。

ワンマンバス運転手が運賃3800円を着服したことを理由とした懲戒解雇を有効とした裁判例(長野地裁平成7年3月23日判決・川中島バス事件・労働判例678号57頁)

この事案で、運転手は懲戒権の濫用を主張しましたが、裁判所は、①料金の適正な徴収はバス会社経営の基礎であり、②ワンマンバスでは正確な料金収入額は運転手にしかわからず、その誠実な料金徴収業務が強く要求されているところ、③着服した3800円は、バスの料金としては決して少額とは言えないなどと指摘し、懲戒解雇が重きに失することはないとしました。

被害額の3800円は、横領事件の被害額としては一般に少額です。しかし、裁判所は、100円、200円程度のバス料金を得ることで成り立っているバス会社にとって、1人で料金を管理するワンマンバス運転手による横領は重大な企業秩序違反であるとし、懲戒解雇を認めたともいえます。

100回にわたり合計50万円以上の出張費を不正受給したことを理由とした懲戒解雇が無効とされた裁判例(札幌高裁令和3年11月17日判決・日本郵便北海道支社事件・労働判例1267号74頁)

労働者Xは、社用車で出張しながら公共交通機関を使ったと偽り、1年半のうちに100回も旅費を不正受給(総額54万円)したとして懲戒解雇処分となりました。しかし、裁判所は、①同じ事業所で同様の不正受給をおこなった労働者Aが停職3か月の処分にとどまっているのと比べて不均衡であること、②会社側の旅費支給事務が杜撰であったこと、③Xのこれまでの成績は優秀で会社への貢献度が高かったこと、④全額返還して反省しているなど酌むべき事情があることを理由に、当該懲戒解雇は権利濫用にあたるとして無効と判断しました。

この事例では、被害額は多額で不正行為の回数も多いですが、同様の事案の処分例と比較したときの不公平さなどから懲戒権の濫用であると判断しています。上記の各裁判例に照らしても、被害額の多寡だけが決め手ではないということが理解できます。

3-2. 会社備品の私的使用による服務規律違反の例

会社の備品を私的に用いることは、「許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと」(厚労省「モデル就業規則」より)といった就業規則の服務規律に違反しています。

例えば、会社のPCを利用し私用なメール送受信した場合、その頻度・時間、他の従業員の利用実態、使用者側の行ってきた予防措置(PC利用規則の整備、注意や警告)等の諸事情を総合考慮して、懲戒処分の相当性が判断されます。

■会社のPCで勤務時間中に私的メールを送受信したこと等による降任・減給処分を無効とした裁判例(札幌地裁平成17年5月26日判決・全国建設工事業国民健康保険組合北海道東支部事件・労働判例929号66頁)

これは労働者2名が降任処分・減給処分の有効性を争った事案です。会社は複数の懲戒事由を主張しました。その懲戒事由の中に、労働者のうち課長であった1名が、(1)課員が就業時間内に会社のPCで私的なメール交信を行っているのを知りながら上司への報告および当該課員への注意をしなかったこと、(2)自らも会社のPCで課員と私的なメール交信を行っていたことが含まれていました。

裁判所は、会社のPCで私的なメール交信を行うことは、職員は物品を私用のため用いてはならない」との服務規程違反に当たることは明らかだとしました。

しかし、そのうえで、①私的メール交信は7か月間に28回行われたに過ぎず、所要時間も短時間であること、②業務用PCの取扱規則等がないこと、③私的利用に対する注意・警告がなされていないこと、④上司や他の管理職も私的利用をしていた実態があること、⑤労働基準法91条の減給制限の範囲を超えた減給がなされていること、⑥降任処分には労働組合との合意が必要であると定めた労働協約に違反していること等、種々の事情を指摘して降任処分・減給処分は権利濫用であり無効だと判断しました。

4.服務規律違反を防止する方法

服務規律違反を防止するためには、次の3点が重要です。

  1. ルールの明確化
  2. 労働者の認識・理解
  3. 違反への厳格な対応による再発防止

4-1. ルールの明確化

服務のルールが明らかでなければ、これに沿って行動することはできません。また服務規律を就業規則に定め、その違反が懲戒処分の対象となることまで定めなければ、有効な懲戒処分を行うこともできません。したがって、まずは就業規則の内容を確認し、服務規律の定めと懲戒処分の定めを点検し、足りない場合は整備すべきです。

4-2. 労働者の認識・理解

いかに就業規則を整備しても、その内容を労働者が知らなくては無意味です。服務規律の部分を抜粋して配布したり研修会等教育の機会を設けたりするなどして、労働者の認識を高めるべきです。あわせて、服務規律違反に対しどのような処分が科されるのか、懲戒処分の具体的な事例等を紹介し、理解を深めることが有益です。

4-3. 違反への厳格な対応による再発防止

服務規律違反が生じても、職場に軋轢を生じさせないよう、あえて黙認してしまうケースは珍しくありません。しかし、服務規律違反を放置することは、ルールを厳守しようという労働者の意識を低下させてしまうばかりか、誠実な労働者の労働意欲をも阻害してしまいます。服務規律違反にペナルティーを与えることもルールのひとつですから、厳格な対応をとるべきです。

5.お気軽にご相談ください

弁護士法人上原総合法律事務所では、服務規律違反に詳しい弁護士が、事業主様からのご相談をお受けしています。
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