依頼者:Aさん 30代 男性
罪名:横領
結果:横領の共犯として公判請求→横領の故意・共謀が認められないとして無罪となり、確定
事案の概要
Aさんは、ネット上のコミュニティで知り合った人物Xから依頼を受け、報酬をもらえるという話であったことから、自宅に届いた品物を売って換金しました。
しかし、実際にはその品物はYという人物の名義で被害会社からレンタルされたものだったのです。
Aさんはそうとは知らず被害品を売ってしまったのですが、当初、被害品をだまし取ったという詐欺の共犯として逮捕され、最終的には、Xと共謀して被害品を売ったことが横領の共犯に当たるとして起訴されてしまいました。
弁護活動
本件は、Aさんが起訴され、さらに保釈された後の段階で依頼を受けたものでした。
捜査段階で当初Aさんはレンタル品とは知らなかったと主張していたのですが、繰り返し厳しい取調べを受ける中、認めれば不起訴になるのではなどとの思いから、レンタル品と事前に聞かされていたなどと虚偽の自白をしてしまっていました。
しかし、最終的に起訴され、やはり無実の罪で処罰を受けるわけにはいかないとの思いから、真実を主張して無罪を獲得するために当事務所に依頼されたのでした。
捜査段階で一度自白してその旨の供述調書が作成されていることもあり、裁判ではまずこの自白について証拠とさせない、あるいは信用できない虚偽の自白であると判断してもらうことが必要でした。
また、被害品にはレンタル品であることを示すような目印があったのですが、Aさんの自宅に被害品が届いたときにその目印がまだ残っていたかも争点となっていました。
具体的には、被害品はAさんの家に届く前にYが一度受け取っていたところ、このYが目印を除去するなどしたのかが問題となっており、何もしていないと主張するYの証言の信用性も大きなポイントでした。
本件では、単に無実を主張するのみでなく、自白調書やY証言といった、検察側の有力な証拠への対応策が不可欠でした。
そこで、検察側の請求証拠に加え、録音録画やその他の証拠について任意開示を求め、検察側の証拠を分析しました。
そうすると、検察の取調べにおいて、黙秘権の告知がなされず、他方で自白すれば不起訴になると誤解させるような言動がなされていたなどの問題があったことが明らかになりました。
また、Yについても、その供述調書の内容と明らかに矛盾するような客観証拠が存在することも明らかになりました。
そこで公判では、虚偽の自白を内容とするAさんの供述調書については、違法な取調べの結果なされた内容虚偽のもので、任意性も信用性もなく、証拠能力がないなどと主張する意見書を提出するなどして争いました。
意見書の中では、録音録画で確認できた問題点を詳細に指摘するなどしていたところ、最終的には検察側は問題の供述調書を撤回するに至り、虚偽の自白は裁判で証拠とはなりませんでした。
また、Yの証人尋問では、任意開示で明らかになったYのスマホの記録等を基に反対尋問を行ったところ、Yの証言は証人尋問の中でも変遷(言っている内容が変わること)し、判決ではYの証言は信用できないと判断されました。
加えて、被告人質問等でも、Aさんの主張が認められるよう裁判官に正しく理解してもらうべく、入念な準備を重ねて臨みました。
裁判は訴因変更(検察側が「公訴事実」の内容を変更すること)も経て2年以上続きましたが、最終的に、Aさんには横領の故意も共謀も認められないと判断され、無罪が言い渡されました。
さらに、検察側も控訴せず、Aさんの無罪判決は確定したのでした。
弁護士のコメント
逮捕・勾留されている中で厳しい取調べが続けば、真実とは異なる自白をしてしまったり、強引にそのような内容の供述調書が作成されてしまうということは実際にありえます。
まずはそのような事態に陥らないよう、捜査段階から適切な弁護人のサポートを得ることが必要です。
もし、虚偽の自白をしてしまった、本当は無実なのに起訴されてしまったという場合でもあきらめるべきではありません。
確かに日本の刑事裁判の有罪率は99%超と、無罪判決を獲得することは容易ではないと言わざるを得ません。
だからこそ、刑事事件はもちろん、検察官や裁判官の考え方まで熟知した弁護士に早期に相談し、適切なサポートを得ることが重要です。
無実の罪で起訴されてしまったことは不幸でしたが、その後、弁護の依頼があってからは、最善の結果に導けたと考えています。Aさんのご多幸をお祈りしています。