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当事務所では,窃盗のご相談をよくいただきます。
その中には,窃盗未遂についてのご質問もいただきます。
この記事では
☑ 窃盗未遂とは何か
☑ どのような場合に窃盗未遂にあたるのか
☑ 窃盗未遂の量刑(軽の重さ)
☑ 窃盗未遂で逮捕されたらどうすれば良いか
を説明します。
窃盗未遂は,窃盗罪の未遂犯です。
未遂犯とは,「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」(刑法第43条)のことです。
では,「犯罪の実行に着手」とはなんでしょうか?
犯罪の結果が発生する現実的な危険性が生じたときに「犯罪の実行に着手」したということになります。
窃盗罪の結果はものを盗む(ものを持っている人が変わる)ことです。
ものを盗むという結果が発生する現実的な危険性が生じたときに,窃盗の実行に着手したということになります。
そして,実際にものを盗むと,窃盗罪が完成し,窃盗既遂となります。
窃盗の実行に着手してものを盗もうとしたけれども、盗まなかったとき,窃盗未遂罪となります。
では,どのような場合に実行に着手したとして窃盗未遂になるのでしょうか?
以下ではその詳細と具体例を説明します。
どのような場合に,ものを盗むという結果が発生する現実的な危険性が生じたということになり,窃盗の実行の着手があったということになるのでしょうか?
この点については,裁判では,事案に応じて個別具体的な判断が行われます。
ですが,一般論としていえることがあります。
それは,窃盗をしようと思っただけであったり,窃盗をしようと思ってその道具を準備しただけでは,実行の着手があったとはいえないということです。
例えば,お店の中で「万引きをしよう」と思ったとしても,実際に商品を手に取らなければ窃盗の実行の着手があったとはいえず,窃盗未遂にはなりません。
また,釣り銭泥棒(自動販売機等の釣り銭出口にガムや接着剤などをつけて釣り銭が出にくくし,お客さんが取り忘れた釣り銭を後から盗むもの)をしようと思ってガムを買っただけでは,実行の着手があったとまではいえないと考えられます。
実行の着手があったといえるものについて,裁判例や逮捕事例を踏まえて事例でご説明します。
いわゆる下着泥棒が,被害者のベランダに侵入して干している下着を盗もうと物色していたところ,被害者に発見されたために下着を盗めないまま逃げたが,その後,被害者の通報により逮捕される,という事があります。
このような事例は,被害者に発見されなければ下着を盗むと言う結果が生じていたと考えられるため,実行の着手があったといえ,窃盗未遂罪となります。
他人のキャッシュカードを使用してATMで不正にお金を引き出す行為は窃盗罪にあたります。
このようないわゆるキャッシュカード不正使用事案においても,窃盗未遂罪はよく発生します。
それは,「騙し取ったり盗んだりしたキャッシュカードを用いて銀行や郵便局のキャッシュカードをATMで使って現金を引き出そうとしたが,被害者がすでに被害届を出していたことから機械に無効カードとして取り込まれたため,現金を引き出せなかった」という事例です。
他人のキャッシュカードを挿入した時点でお金を引き出し得る状況が生じていたため実行の着手があったと判断され,窃盗未遂罪となります。
釣り銭泥棒(自動販売機等の釣り銭出口にガムや接着剤などをつけて釣り銭が出にくくし,お客さんが取り忘れた釣り銭を後から盗むもの)をしようと思ってガムを買っただけでは実行の着手にはならないことは上に書きました。
対して,実際にガムを釣り銭出口にくっつけ,窃盗の実行の着手があったとして逮捕されるという事例があります。
これは,ガムをくっつけておけば,釣り銭がガムにくっついてお客さんが釣り銭を取り忘れる可能性が生じるためです。
この例は,実行の着手の有無を判断するわかりやすい例かと思います。
いわゆる特殊詐欺に似た窃盗の事案があります。
これは,電話で警察官のふりをして高齢者などをだまし,「あなたは詐欺にあっているからこの後行く職員にキャッシュカードを見せて欲しい」などと言い,犯行グループのものが高齢者に会いに行き,キャッシュカードを見せてもらった時に偽物のキャッシュカードとすりかえて盗む,という犯行です。
このようないわゆるカード盗事案について,令和4年2月14日に,実行の着手に関係する最高裁決定が出ました。
この事案は,犯行グループのものが職員のふりをして高齢者宅に向かったけれども警察の尾行に気づき,高齢者宅の140メートル手前で犯行を中止したというものです。
裁判において,被告側は「家に向かっただけだから密輸罪にはならない」と主張しました。
ですが,最高裁判所は「被告人犯行を中止した時点で,カードを盗む危険性が発生していた事は明らかなので,窃盗の実行の着手があった」という判断をしました。
このように,事案によっては,犯人が被害品や被害者と距離がある段階でも窃盗の実行の着手があったと判断されることがあります。
犯罪が未遂の段階を超えて既遂になるのは,犯罪が完了した時です。
窃盗において犯罪が完了したというのは,ものを盗み終えた時点のことです。
専門用語で言うと,占有の移転が完了した時,という言い方をします。
占有とは,ものに対する事実上の支配のことをいいます。
例えば,現金を財布に入れて財布を手で持っていれば,財布を手に持っている人が財布や現金を占有している事になります。また,小売店に陳列されている商品は,お店に占有されているといえます。
逆に,万引き犯人がお店から商品を盗んでお店から去った段階では,盗まれた商品の占有は万引き犯人にあるといえます。
物を誰が占有しているのかは,具体的な事情に応じて個別に判断されます。
例えば,小売店のカートの中にお客さんが商品の大きな洗剤のボトルを入れている段階ではお客さんがものを持ち運んでいるとは言え,精算前の商品はお店のものであり,カートの中という誰にでも見れる状態で持ち運ばれていることからすると,商品はまだお店の占有下にあると考られます。
他方,宝石店で商品である小さな宝石を盗もうとして,店員に隠れて下着の中に宝石を隠した場合,下着の中という極めてプライベートの場所に宝石を隠したので外に出るだけで誰にも気づかれずに宝石を自分のものにできる,という状況からすると,犯人が宝石店の外に出る前の段階で被害品である宝石を占有するに至った,と言い得ます。
なお,いわゆる万引きGメンがお店での万引きを検挙する時は,お店を出たところで声をかけることが多いです。
これは,「確実に万引きするつもりだった」と言えるタイミングまで声をかけるのを待っているという側面と,万引きが確実に既遂になったタイミングを待っていると言う側面があると考えられます。
窃盗が未遂なら既遂よりも罪が軽くなるのか,という質問をいただくことがあります。
まず,ものを盗むと言う結果が発生していない以上,未遂は既遂よりも罪が軽いと言えます。
また,なぜ未遂になったのかという経緯によっても,量刑が変わります。
例えば,被害者に見つかったため犯行をやり遂げられずに未遂に終わったという場合,犯人が窃盗を完了できなかったのは被害者に見つかったという障害によるために過ぎません(犯罪の完成を妨げる客観的な事由にある未遂犯を障害未遂,と言います)。
障害未遂の場合,「やろうと思えばできたけれどもやらなかった」のではなく「できなかった」のですから,犯行を完成させなかったことが情状として大きく考慮されるとまでは考え難いです。
これに対し,実行に着手したので窃盗未遂にはなるけれども,自分の判断で犯行を止めた場合,やむを得ず犯行を止めた場合と比べて情状が良くなります。これを中止犯(中止未遂)と言います。
中止未遂は刑法第43条但書きに「自己の意思により犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除する。」と言う規定で定められています。
中止未遂が認められた場合には,有利な情状として大きく考慮されます。
窃盗未遂で家族が逮捕された場合,どのような容疑で逮捕され,その容疑が真実なのか,ということを確認する必要があります。
それによって,今後行うべきことが大きく変わります。
その確認は,弁護士が警察署に面会をしに行ってご本人から確認します。
嫌疑のかかっている犯行を行っていないということであれば,無実を晴らすための活動する必要があります。
対して,嫌疑のかかっている犯行を行ったこと自体は間違いないということであれば,身柄の解放や,より軽い処分を求めて、対応する必要があります。
具体的には,証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを裁判所や検察官に示して身柄解放をしてもらったり,被害弁償や再犯防止のための仕組みを作り,なるべく刑罰を軽くするための活動をする必要があります。
また,どうしてそのような窃盗をするに至ったのかを説明し,有利な事情を警察官や裁判官に理解してもらう必要があります。
さらに,共犯者がいる事件でご家族自身が主犯格ではないという場合には,その旨を記載した書面を証拠等とともに提出して検察官や裁判官に理解してもらい,不必要に重い刑罰を受けないようにすると言うことも重要です。
上原総合法律事務所では,窃盗事件を起こしてしまったのでしっかりと被害弁償をするとともに再犯予防策を構築したい,というようなご相談を多数いただいています。
既遂未遂を問わず
・ 窃盗をしてしまった方
・ 家族が窃盗で逮捕されたという方
・ 窃盗を止めたいけれどもやめられなくて困っているという方など
お困りの方はお問い合わせください。
上原総合法律事務所では,元検察官の弁護士が,相談者のために何がベストかを個別の事情に応じて考え,より良い未来へのサポートを行います。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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