上原総合法律事務所では、「内部通報制度を導入しなければいけないのだけれどもどうすれば良いか」、「内部通報制度を採用しているのだけれどもあまりうまくいっていないため改善したい」、などといったご相談をいただきます。
内部通報制度は、企業内における違法行為を未然に防ぎ、または早期に発見することを目的とした制度です。
特に、一定の要件を満たす通報は「公益通報」と呼ばれ、公益通報者保護法により厚く保護されています。
また、導入義務の対象ではない事業者にとっても、内部通報制度はコンプライアンス強化の観点からメリットがあります。自社に合った形で内部通報制度を導入することをお勧めします。
本記事では公益通報者保護法に基づく内部通報制度(公益通報制度)について、導入義務の対象事業者・メリット・注意点などを解説します。
Contents
「内部通報制度」とは、公益通報者保護法に基づく通報窓口を設け、企業内における違法行為の通報を受け付ける制度です。「公益通報制度」と呼ばれることもあります。
内部通報制度を通じて、公益通報者保護法の要件を満たす「公益通報」を行った者に対しては、解雇等の不利益な取り扱いをすることは禁止されます(公益通報者保護法3条~5条、7条)。
公益通報をした役員を株主総会で解任することはできますが、その場合は、解任によって役員に生じた損害を会社が賠償しなければなりません(同法6条)。
2022年6月1日に施行された公益通報者保護法の改正法により、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者については、公益通報対応業務に従事する者(=公益通報対応業務従事者)を定めることが義務化されました(公益通報者保護法11条1項)。
公益通報対応業務の内容 |
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公益通報対応業務従事者を定める義務を果たさない事業者は、内閣総理大臣による行政指導の対象となる可能性があります(同法15条)。
これに対して、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、公益通報対応業務従事者を定めることは法的義務ではなく、努力義務とされています(同条4項)。ただし後述するように、内部通報制度を導入することには多くのメリットがあるため、できる限り導入することが望ましいです。
なお、公益通報対応業務従事者および過去に公益通報対応業務従事者であった者には、公益通報者を特定させる事項を漏らさない守秘義務が課されています(同法12条)。
守秘義務に違反した者は「30万円以下の罰金」に処されます(同法21条)。
公益通報者保護法では、公益通報の対象となる事実(=通報対象事実)を定めています。
通報対象事実に当たるのは、公益通報者保護法およびその他の約500の法律に規定されている、犯罪行為と過料対象行為などです。
カバーされている法律は非常に幅広く、犯罪または過料対象行為であれば、基本的には通報対象事実に当たると理解しておきましょう。
以下に挙げるのは、通報対象事実の一例です。
通報対象事実の例 |
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など |
内部通報制度を導入することには、主に以下のメリットがあります。
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導入義務の対象事業者だけでなく、そうでない事業者も積極的に内部通報制度の導入をご検討ください。
内部通報制度を導入する際には、以下の各点に留意の上で導入を進めることが大切です。
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内部通報制度は、これまで大企業における重大な不祥事が発覚するきっかけになってきました。
内部通報により発覚した著名な事件としては、以下の例が挙げられます。
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上司のパワハラが原因でうつ病になり、休職を余儀なくされた従業員が、会社・上司・内部通報制度担当者の3者に対して損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、会社と上司に対して慰謝料の支払いを命ずる一方で、内部通報制度担当者に対する損害賠償請求は、適切に調査等を行ったことを理由に棄却しました。
従業員が、機密情報を保有する取引先の従業員を上司が引き抜こうとしていることを発見し、内部通報を行った事案です。上司は、通報した従業員に対して報復人事を行いました。
裁判所は従業員の請求を認め、会社および上司に対して損害賠償を命じました。
特定郵便局長が、不祥事を内部通報したことを疑い、部下の局長らに対してパワハラを繰り返した事案です。
裁判所は、特定郵便局長が人事に相当程度の影響力を持っていることを指摘した上で、内部通報者を特定する行為を違法とし、損害賠償を命ずる判決を言い渡しました。
2018年に自動車会社の会長が、自身の役員報酬を約50億円分過少に記載した有価証券報告書を提出した疑いで逮捕された事案です。当時の代表取締役も、共謀の疑いで逮捕されました。
会長は保釈中に密出国したため、公判手続きを開くことができずに裁判が止まっています。
代表取締役については、2022年3月に一部有罪判決を受けましたが、検察・被告人の双方が控訴し、まだ控訴審の公判手続きが開かれていません(2023年8月現在)。
内部通報制度は、企業不祥事を未然に防ぎ、または早期に発見して拡大を防止するために効果的です。
不祥事を防げるに越したことはありませんし、発生した不祥事は、早期に発見できれば対応コストを小さくすることができます。
内部通報制度導入義務の対象事業者(=常時雇用する労働者の数が300人を超える事業者)はもちろん、そうでない事業者の方も、内部通報制度の導入を積極的にご検討なさることをお勧めします。
上原総合法律事務所では、内部通報制度の導入設計についてご相談をお受けしています。
ご入用の方は、お気軽にご相談ください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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