労働安全衛生法違反で書類送検、などといったニュースを見たときに、「うちの会社は大丈夫かな」、と心配になる経営者の方がいらっしゃるかもしれません。
また、実際に労働安全衛生法違反が問題になっている企業の方もいらっしゃると思います。
労働者を雇用する企業は、労働基準法などと併せて「労働安全衛生法」を遵守する必要があります。
違反事業者は行政処分や刑事罰の対象となるため、労働安全衛生法の規定を正しく理解した上で、その遵守に努める必要があります。
本記事では、労働安全衛生法に違反する行為の内容や、違反事業者に対するペナルティなどを解説します。
外国人労働者を雇用する会社と刑事罰の関係について詳しくはこちらをご参照ください。
凡例:
法……労働安全衛生法
Contents
労働安全衛生法とは、労働者の安全・健康の確保や、快適な職場環境の形成促進を目的とした法律です(法1条)。
労働安全衛生に関する規定は、従来は労働基準法で定められていました。しかし、高度経済成長期に労働災害が急増し、労働安全衛生に関する規定を充実させる必要性が生じたため、1972年に労働基準法から独立した労働安全衛生法が成立しました。
労働安全衛生法の施行に関しては、その細目的事項について、政令である「労働安全衛生法施行令」と省令である「労働安全衛生規則」が定められています。
事業者は、事業や作業内容等により、さまざまな行為を義務付けられています(※)。
※労働安全衛生法によって事業者に義務付けられる行為について、詳しくは、末尾の「5. 参考 労働安全衛生法によって事業者に義務付けられる行為の例」をご覧ください。
労働安全衛生法に違反した事業者は、以下のリスクを負うことになってしまいます。
いずれも事業者にとって大きなダメージとなり得ます。
労働安全衛生法違反が疑われる事業者は、労働基準監督官による立ち入り検査等の対象となります(法91条1項)。
検査等の結果として違反が発見された場合は、都道府県労働局長または労働基準監督署長により、作業停止や建造物の使用停止等が命じられ(法98条1項、99条1項)、操業が困難になってしまうおそれがあるので要注意です。
労働安全衛生法に違反する行為の一部は、刑事罰の対象とされています。
違反行為をした者に加えて、会社も労働安全衛生法に基づく刑事罰の対象です(両罰規定)。
一例として、以下の行為が刑事罰の対象とされています。
主な違反行為 | 法定刑 |
---|---|
・作業主任者選任義務違反 ・機械等による危険の防止措置義務違反 ・作業等による危険の防止措置義務違反 ・無資格運転 ・安全衛生教育実施違反 ・病者の就業禁止違反 ・健康診断等に関する秘密漏洩 |
6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(法119条) ※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
・衛生管理者の未選任 ・産業医の未選任 ・衛生委員会の未設置 ・労働災害防止措置違反 ・安全衛生教育実施違反 ・健康診断の実施違反、健康診断結果の未記録、非通知 ・労災報告義務違反(虚偽報告・労災隠し) |
50万円以下の罰金(法120条) ※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
公共入札に参加している事業者について、労働安全衛生法が判明した場合、その事業者は一定期間、入札への指名停止処分を受けるケースが多くあります。
指名停止処分の期間中、事業者は原則として入札に参加できません。
公共事業等の受注を事業の柱としている企業にとっては、大きな痛手となってしまうため注意が必要です。
労働安全衛生法違反の事実が広く報道されれば、労働者の安全確保等を十分に行わない企業と認知され、企業としてのレピュテーション(=評判)に傷が付く可能性があります。
レピュテーションの低下は、売上の減少や人材確保の難航に繋がるおそれがあり、企業の中長期的な成長の観点から大きなマイナスとなってしまいます。
労働安全衛生法違反が発覚したからといって、行政処分を絶対に避けられないわけではありません。
通常、重い行政処分をする前段階として、指導等が行われます。
指導等を受けたらその内容に従い、社内体制を整備すれば行政処分を受ける可能性は高くありません。
この場合、会社が自分で対応することが可能です。
問題になりやすいのは、指導を受けたときに一時的にその場しのぎの対応をし、しばらくするとまた違法状態になったという場合です。
この場合、会社自身による自浄作用が期待しづらいため、行政処分になるリスクが高まります。
そのため、専門知識を有する弁護士とともに再発予防策を講じる必要があります。
労働安全衛生法違反で刑事罰を受けると、許認可に影響が出たり、外国人労働者を雇えなくなったり、助成金が受けられなくなったりと、さまざまな不利益が生じます。
そのため、刑事罰は可能な限り避ける必要があります。
外国人労働者を雇用する会社と刑事罰の関係について詳しくはこちらをご参照ください。
労働安全衛生法違反については、労働基準監督官が司法警察員という地位を持っており、捜査権限があります(法92条)。
労働安全衛生法違反の容疑で捜査対象となった場合、刑罰を避けるために不起訴処分を目指します。
不起訴処分のためにすべきことは主に3つです。
間違わずに適切な対処をする必要があるので、早期に専門の弁護士に相談し、対応について指導してもらってください。
ア 事実を明らかにして処理する
まず、社内で起きている事実を把握します。
経営陣や責任者が社内で何が起きているのかを正確に把握できているとは限らないため、事実調査自体に時間がかかることもあります。
事実が把握できたら、事実に応じた処理をします。
違法状態を解消したり、被害者がいるのであれば示談をします。
イ 再発予防体制を作り、捜査機関に伝える
事実を明らかにして急ぎの対応ができたら、再発予防体制を作ります。
再発予防は、「もう二度としません」という意思だけの問題にしないよう注意が必要です。
事件から時間が経ったのちにも再発予防が効果的であるために、仕組みとして整える必要があります。
そして、再発予防体制を作っていることを捜査機関に伝えます。
捜査機関は、違法行為がもう生じないことを目指しているため、再発予防体制を構築していることを有利に評価してくれます。
再発予防体制の構築は、捜査機関から見ると、会社に刑罰を受けさせない許容性といえます。
ウ 刑罰が会社に及ぼす影響を捜査機関に伝える
会社が刑罰を受けると、刑罰自体の他にさまざまな不利益を被る可能性があります。それにより、会社だけでなく、従業員や取引先に悪影響が出る可能性があります。
捜査機関の視点からすると、会社が不利益を被ることは自業自得ですが、従業員や取引先にまで悪影響が生じることは望ましくありません。
刑罰による悪影響が大きいことを説得的に伝えることができれば、会社に刑罰を受けさせない必要性として理解してもらえます。
発生した違法行為を適切に処理し、再発予防策を講じている場合、刑罰を受けさせない必要性を考慮して不起訴にしてもらえる可能性は十分にあります。
上原総合法律事務所には元検察官の弁護士と労働事件を専門とする弁護士が所属しており企業からの労働衛生安全法に関するご相談をお受けしています。
すでに労働安全衛生法違反をしてしまったという場合でも、労働安全衛生法に違反しないように体制を作りたいという場合でも、元検察官の弁護士と労働事件を専門とする弁護士が共同して事案にあたり、独自のノウハウで最適解をご提案します。
労働安全衛生法に関して相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
労働安全衛生法により、事業者には以下の行為などが義務付けられています。
①各種管理者・責任者等の設置
事業の種類や事業所の規模、作業の内容などに応じて、一部の事業者には以下の管理者・責任者等の設置が義務付けられています。
・統括安全衛生管理者(法10条)
・安全管理者(法11条)
・衛生管理者(法12条)
・安全衛生推進者(または衛生推進者、法12条の2)
・産業医(法13条)
・作業主任者(法14条)
・統括安全衛生責任者(法15条)
・元方安全衛生管理者(法15条の2)
・店社安全衛生管理者(法15条の3)
・安全衛生責任者(法16条)
なお産業医については、2019年4月1日に施行された改正労働安全衛生法により、独立性および中立性の強化が図られました。
②委員会の設置
事業の種類や事業所の規模に応じて、一部の事業者には以下の委員会の設置が義務付けられています。
・安全委員会(法17条)
・衛生委員会(法18条)
※上記の各委員会に代えて、安全衛生委員会を設置することも可能(法19条)
③危険防止措置
労働者を保護するため、以下の危険に対する防止措置が義務付けられています(法20条)。
・機械、器具その他の設備による危険
・爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
・電気、熱その他のエネルギーによる危険
④健康障害防止措置
労働者を保護するため、以下の健康障害に対する防止措置が義務付けられています(法20条)。
・原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
・放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
・計器監視、精密工作等の作業による健康障害
・排気、排液または残さい物による健康障害
⑤機械等の取り扱い
ボイラーなどの危険性が高い機械等については、製造が許可制とされているほか、製造時に検査を受ける必要があります(法37条~42条)。
⑥危険物・有害物の取り扱い
労働者の重度の健康障害を引き起こすおそれのある一部の製剤は、製造等が禁止され、または許可制とされています(法55条、56条)。
そのほか、労働者に危険を生ずるおそれのある物や、労働者に健康障害を生じ得る一部の製剤については、容器・包装のいずれかに所定の事項を表示することが義務付けられます(法57条)。
⑦安全衛生教育の実施
労働者を雇い入れたときは、当該労働者が従事する業務について、安全・衛生のための教育を行うことが義務付けられています(法59条1項)。
建設業や製造業などでは、作業中の労働者に対する指導者・監督者に対しても、安全衛生教育を実施しなければなりません。
⑧免許・技能講習等
クレーンの運転など危険性の高い一定の業務は、対応する免許・技能講習の修了などの有資格者以外の者が行ってはなりません。
⑨健康診断の実施
通常の労働者に対しては一般健康診断、一定の有害な業務に従事する労働者などについては特殊健康診断の実施が義務付けられています(法66条)。
⑩ストレスチェックの実施
2015年12月から、労働者に対して、心理的な負担の程度を把握するための検査(=ストレスチェック)を行うことが義務付けられています(法66条の10第1項)。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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