ご注意ください
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
労働安全衛生法違反で書類送検、などといったニュースを見たときに、「うちの会社は大丈夫かな」と心配になる経営者の方がいらっしゃるかもしれません。
また、実際に労働安全衛生法違反が問題になっている企業の方もいらっしゃると思います。
労働者を雇用する事業者は、労働基準法などと併せて「労働安全衛生法」を遵守する必要があります(以下、この労働安全衛生法のことを単に「法」ということがあります)。
違反事業者は刑事罰や行政処分の対象となるため、労働安全衛生法の規定を正しく理解した上で、その遵守に努める必要があります。
本記事では、労働安全衛生法に違反する行為の内容や、違反した場合の罰則含めたリスクなどを解説します。
外国人労働者を雇用する会社と刑事罰の関係について詳しくは技能実習や特定技能の外国人労働者を雇用している会社の刑事罰と刑事罰を避ける方法についてをご参照ください。
目次
労働安全衛生法とは何か
労働安全衛生法とは、労働者の安全・健康の確保や、快適な職場環境の形成促進を目的とした法律です(法1条)。
労働安全衛生に関する規定は、従来は労働基準法で定められていました。しかし、高度経済成長期に労働災害が急増し、労働安全衛生に関する規定を充実させる必要性が生じたため、1972年に労働基準法から独立した労働安全衛生法が成立しました。
労働安全衛生法の施行に関しては、その細目的事項について、政令である「労働安全衛生法施行令」(以下「令」といいます)と、省令である「労働安全衛生規則」(以下「規則」といいます)が定められています。
事業者は、事業や作業内容等により、さまざまな行為を義務付けられています(※)。
※労働安全衛生法によって事業者に義務付けられる行為の詳細は、末尾の「 (参考 労働安全衛生法によって事業者に義務付けられる行為の例)」をご覧ください。
労働安全衛生法に違反した場合のリスク
労働安全衛生法に違反した事業者は、以下のリスクを負うことになってしまいます。
いずれも事業者にとって大きなダメージとなり得ます。
- 刑事責任を問われる(刑事罰を科される)
- 都道府県労働局長・労働基準監督署長による行政処分を受ける
- 入札に関する指名停止措置を受ける
- 公表や報道等によってレピュテーションが低下する
以下、順に説明します。
なお、労働安全衛生法違反それ自体を直接的な理由として会社や個人が民事上の責任を負うことは考えにくいためここでは詳述はしませんが、違反行為と関連して従業員等に傷害や死亡といった結果が発生すれば損害賠償責任を負う可能性があるほか、適切な措置をとっていなかったことが取締役等の善管注意義務違反となる場合なども考えられ、労働安全衛生法違反に関連して民事上の責任を負うリスクもありえます。
①労働安全衛生法違反として刑事責任を問われる
主な刑事罰の対象行為
労働安全衛生法に違反する行為のうち、一部は刑事罰の対象とされています(下表は、刑事罰の対象となる違反行為のうち主なものを、その法定刑と共に記載したものです)。
なお、労働安全衛生法は、基本的に事業者に対して所定の行為を義務付けるものであり、違反行為をした者(例えば、会社代表者、現場責任者、職長等が該当し得ます)と共に、会社(法人)にも刑事罰が科せられることがあります(両罰規定―法122条)。
そのように刑事罰の対象となる違反行為のうち、立件される(刑事事件化する)ことが多い事例は、以下の4類型です。
- 特定の作業については、所定の資格を有する労働者に従事させなければならないのに(※)、無資格者にその作業を行わせた場合
※例えば、「ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取扱いの業務」については、「特級ボイラー技士免許、一級ボイラー技士免許又は二級ボイラー技士免許を受けた者(以下「ボイラー技士」という。)でなければ、当該業務につかせてはならない。 」と定められています(法61条1項、令20条3号、ボイラー及び圧力容器安全規則23条1項)。 - 特定の作業については、所定の資格を有する者を作業主任者に選任して他の労働者の指揮等を行わせなければならないのに(※)、その選任を怠った場合
※例えば、「コンクリート造の工作物(その高さが五メートル以上であるものに限る。)の解体又は破壊の作業」については、「コンクリート造の工作物の解体等作業主任者」をその技能講習を修了した者の中から選任しなければならないと定められています(法14条、令6条15号の5、規則16条1項)。 - 労働者の危険等を防止する措置(※)を怠った場合
※例えば、「事業者は、プレス機械(中略)については、安全囲いを設ける等当該プレス等を用いて作業を行う労働者の身体の一部が危険限界に入らないような措置を講じなければならない。」(法20条1号、規則131条1項本文)と定められています。 - 労働者が死傷する労働災害(いわゆる労災事故)が発生したときは、所定の事項を労働基準監督署長に報告しなければならない(労働基準監督署に届け出なければならない)のに、その報告(届出)をしなかったり虚偽の報告(届出)をしたりして、いわゆる労災隠しをした場合(法120条5号、100条1項、規則97条)
| 主な違反行為 | 法定刑 |
|---|---|
| ・作業主任者選任義務違反 ・機械等による危険の防止措置義務違反 ・作業等による危険の防止措置義務違反 ・無資格運転 ・安全衛生教育実施違反 ・病者の就業禁止違反 ・健康診断等に関する秘密漏洩 | 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法119条) ※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
| ・衛生管理者の未選任 ・産業医の未選任 ・衛生委員会の未設置 ・労働災害防止措置違反 ・安全衛生教育実施違反 ・健康診断の実施違反、健康診断結果の未記録、非通知 ・労災報告義務違反(虚偽報告・労災隠し) | 50万円以下の罰金(法120条) ※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
刑法上の業務上過失致死傷罪でも立件される可能性
また、労働者が死傷する労働災害が発生している場合には、労働安全衛生法違反のみならず、刑法上の業務上過失致死傷罪でも刑事事件となる(刑事罰が科される)可能性があります。
ただし、業務上過失致死傷罪は、労働災害の発生を防止すべき注意義務を負っていた者個人(例えば、会社代表者、現場責任者、職長等が該当し得ます)にのみ成立し、会社(法人)には成立しません(会社(法人)が同罪に問われることはありません)。
労働安全衛生法違反については労働基準監督署が一次的に捜査を行いますが、業務上過失致死傷罪については警察が一次的に捜査を行います。
そのため、労働災害が発生した場合には、労働基準監督署と警察の両者から並行して捜査を受けることがあります。
刑事事件化した場合の流れ
労働安全衛生法違反の刑事事件は、多くの場合、基本的に逮捕等(身柄拘束)はされず、在宅のまま捜査されます(業務上過失致死傷罪でも立件されている場合も同様です)。
被疑者(いわゆる容疑者)の身柄を拘束していない事件は、労働基準監督署(及び警察)が一次的に捜査を行った後に、事件の書類と証拠が検察(官)に送致されます。この手続は、一般に「書類送検」と呼ばれています(なお、被疑者を逮捕した事案では、逮捕から48時間以内に、その身柄と共に事件の書類等が検察(官)に送致され(るか、又は釈放され)ます。この手続は、一般に単に「送検」と呼ばれています。)。
書類送検後の手続等については、書類送検されると前科がつく?不起訴になるためにはの記事を御参照ください。
②都道府県労働局長・労働基準監督署長による行政処分を受ける
労働安全衛生法違反が疑われる事業者は、労働基準監督官による立ち入り検査等の対象となります(法91条1項)。
検査等の結果として違反が発見された場合は、都道府県労働局長または労働基準監督署長により、作業停止や建造物の使用停止等が命じられ(法98条1項、99条1項)、操業が困難になってしまうおそれがあります。
③入札に関する指名停止措置を受ける
公共入札に参加している事業者について、労働安全衛生法に違反していたこと等が判明した場合、一定期間、入札への指名停止措置を受けるケースが多くあります。
指名停止処分の期間中、事業者は原則として入札に参加できません。
公共事業等の受注を事業の柱としている企業にとっては、大きな痛手となってしまうため注意が必要です。
④厚生労働省等による公表や報道等によってレピュテーションが低下する
労働安全衛生法違反等で事件が検察に送致された場合、厚生労働省や各都道府県の労働局により、事案の概要や違反した法条、さらには企業名、事業場名や所在地も公表されることがあります( 厚生労働省労働基準局監督課:労働基準関係法令違反に係る公表事案 )。
この公表により取引先等に労働安全法違反の事実が明らかになるおそれがあるほか、労働安全衛生法に違反していたという事実がマスコミ等によって広く報道されることとなれば、労働者の安全確保等を十分に行わない事業者であると広く認知されるなどし、企業のレピュテーション(=評判)に傷が付くおそれもあります。
レピュテーションの低下は、売上の減少や人材確保の難航に繋がるおそれがあり、企業の中長期的な成長の観点から大きなマイナスとなってしまいます。
労働安全衛生法に違反したときの対処方法
(1)行政処分を避けるためにすべきこと
労働安全衛生法違反が発覚したからといって、必ず直ちに行政処分を受けるというわけではありません。
通常、重い行政処分をする前段階として、指導等が行われます。
指導等を受けたらその内容に従い、社内体制を整備すれば行政処分を受ける可能性は高くありません。
この場合、会社が自分で対応することが可能です。
問題になりやすいのは、指導を受けたときに一時的にその場しのぎの対応をし、しばらくたってから再び違法状態になったという場合です。
この場合、会社自身による自浄作用が期待しづらいため、行政処分を受けるリスクが高まります。
そのため、専門知識を有する弁護士とともに再発予防策を講じる必要があります。
(2)刑事罰を避けるためにすべきこと
労働安全衛生法違反で刑事罰を受けると、許認可に影響が出たり、外国人労働者を雇えなくなったり、助成金が受けられなくなったりと、さまざまな不利益が生じます。
そのため、刑事罰は可能な限り避ける必要があります。
外国人労働者を雇用する会社と刑事罰の関係について詳しくは技能実習や特定技能の外国人労働者を雇用している会社の刑事罰と刑事罰を避ける方法についてをご参照ください。
そこで、罰則のある労働安全衛生法違反をしてしまった場合、まずは刑事事件化しないようにしつつ、刑事事件化してしまった場合には、刑罰を避けるために不起訴処分を目指すこととなります。
※不起訴(起訴猶予)処分の獲得については起訴猶予とは?元検事の弁護士が不起訴との違いや起訴猶予獲得のポイントを解説の記事もご参照ください。
刑事事件としての立件回避や不起訴処分のためにすべきことは主に3つです。
間違わずに適切な対処をする必要があるので、早期に専門の弁護士に相談し、対応について指導してもらってください。
ア 事実を明らかにして処理する
まず、社内で起きた事実を正確に把握します。
経営陣や責任者が社内で何が起きたのかを正確に把握できているとは限らないため、事実調査自体に時間がかかることもあります。
事実が正確に把握できたら、その内容に応じた対処を行います。
例えば、違法状態を解消したり、被害者がいるのであれば示談をしたりといったことを行うことになります。
イ 再発予防体制を作り、捜査機関(労基含む)に伝える
事実を把握して応急の対処を行った後は、再発予防体制を構築します。
再発予防は、「もう二度としません」という意思だけで済む話ではありません。
事件から時間がたった後にも効果的なものにするため、仕組みとして整える必要があります。
そして、再発予防体制を作っていることを捜査機関に伝えます。
捜査機関は、違法行為を再びさせないことをも目的として処分を決めているため、再発予防体制を構築していることを有利に評価してくれます。
ウ 刑罰が会社に及ぼす影響を捜査機関(労基含む)に伝える
会社が刑罰を受けると、刑罰自体の他にさまざまな不利益を被る可能性があります。それにより、会社だけでなく、従業員や取引先に悪影響が出る可能性があります。
刑罰による悪影響が大きいことを説得的に伝えることができれば、会社に刑罰を受けさせない必要性として理解してもらうことができ、前記のとおり再発予防策を講じていれば、これらを考慮して不起訴にしてもらえる可能性があります。
弁護士にご相談ください
上原総合法律事務所には元検察官の弁護士と労働事件に精通した弁護士が所属しており、企業からの労働衛生安全法に関するご相談をお受けしています。
すでに労働安全衛生法違反をしてしまったという場合でも、労働安全衛生法に違反しないように体制を作りたいという場合でも、元検察官の弁護士と労働事件に精通した弁護士が共同して事案にあたり、独自のノウハウで最適解をご提案します。
労働安全衛生法に関して相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
参考 労働安全衛生法によって事業者に義務付けられる行為の例
労働安全衛生法により、事業者には以下の行為などが義務付けられています。
- 各種管理者・責任者等の設置
事業の種類や事業所の規模、作業の内容などに応じて、一部の事業者には以下の管理者・責任者等の設置が義務付けられています。
・統括安全衛生管理者(法10条)
・安全管理者(法11条)
・衛生管理者(法12条)
・安全衛生推進者(または衛生推進者、法12条の2)
・産業医(法13条)
・作業主任者(法14条)
・統括安全衛生責任者(法15条)
・元方安全衛生管理者(法15条の2)
・店社安全衛生管理者(法15条の3)
・安全衛生責任者(法16条)
なお産業医については、2019年4月1日に施行された改正労働安全衛生法により、独立性および中立性の強化が図られました。 - 委員会の設置
事業の種類や事業所の規模に応じて、一部の事業者には以下の委員会の設置が義務付けられています。
・安全委員会(法17条)
・衛生委員会(法18条)
※上記の各委員会に代えて、安全衛生委員会を設置することも可能(法19条) - 危険防止措置
労働者を保護するため、以下の危険に対する防止措置が義務付けられています(法20条)。
・機械、器具その他の設備による危険
・爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
・電気、熱その他のエネルギーによる危険 - 健康障害防止措置
労働者を保護するため、以下の健康障害に対する防止措置が義務付けられています(法20条)。
・原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
・放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
・計器監視、精密工作等の作業による健康障害
・排気、排液または残さい物による健康障害 - 機械等の取り扱い
ボイラーなどの危険性が高い機械等については、製造が許可制とされているほか、製造時に検査を受ける必要があります(法37条~42条)。 - 危険物・有害物の取り扱い
労働者の重度の健康障害を引き起こすおそれのある一部の製剤は、製造等が禁止され、または許可制とされています(法55条、56条)。
そのほか、労働者に危険を生ずるおそれのある物や、労働者に健康障害を生じ得る一部の製剤については、容器・包装のいずれかに所定の事項を表示することが義務付けられます(法57条)。 - 安全衛生教育の実施
労働者を雇い入れたときは、当該労働者が従事する業務について、安全・衛生のための教育を行うことが義務付けられています(法59条1項)。
建設業や製造業などでは、作業中の労働者に対する指導者・監督者に対しても、安全衛生教育を実施しなければなりません。 - 免許・技能講習等
クレーンの運転など危険性の高い一定の業務は、対応する免許・技能講習の修了などの有資格者以外の者が行ってはなりません。 - 健康診断の実施
通常の労働者に対しては一般健康診断、一定の有害な業務に従事する労働者などについては特殊健康診断の実施が義務付けられています(法66条)。 - ストレスチェックの実施
2015年12月から、労働者に対して、心理的な負担の程度を把握するための検査(=ストレスチェック)を行うことが義務付けられています(法66条の10第1項)。



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