私文書偽造罪とは?重さや該当行為、罰則について元検事の弁護士が解説

財産事件
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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

第1 私文書偽造等について

私文書偽造等罪は、社会生活の基盤として重要な機能を有している「文書」の公共的信用性を保護するために定められた罪で、刑法159条に規定されています。

条文は以下のとおりです。

(私文書偽造等)

第159条
1. 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しく は図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する。
2. 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3. 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。

この条文のとおり、「偽造」のほか「変造」も同様に処罰されることとなります。

偽造」とは

文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽って文書を作成すること

を言います。

名義人とは「文書から理解される作成者」、作成者とは「文書を表示させた者」を指します。

例えば、Aさんの記名のある書面をBさんが勝手に作成した場合、その書面の名義人は「Aさん」、作成者は「Bさん」となり、名義人と作成者が異なることとなりますので、Bさんには「人格の同一性を偽った」ものとして私文書偽造罪が成立し得ることになります。

一方、

変造」とは

名義人でない者が、真正に成立した文書の内容に改ざんを加えること

を言います。

他人の署名や押印がある私文書を偽造・変造した場合、1項及び2項に基づき、3月以上5年以下の拘禁刑が科され、他人の署名や押印がない私文書を偽造・変造した場合、3項に基づき、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金が科されます。

なお、偽造・変造した文書を実際に行使した場合には、偽造私文書等行使罪が成立することとなります。

条文は以下のとおりです。

(偽造私文書等行使)

第161条
1. 前二条【159条及び160条を指します。】の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2. 前項の罪の未遂は、罰する。

第2 私文書偽造等罪の法的枠組み

1 私文書偽造等罪の構成要件

私文書偽造等罪が成立するためには

①偽造・変造の対象が「権利、義務又は事実証明に関する文書」であること

②偽造・変造行為があること

③行使の目的があること

の要件が必要となります。

2 偽造・変造の対象が「権利、義務又は事実証明に関する文書」であること

私文書偽造等罪の対象となる「私文書」とは、私人が作成する文書のうち「権利、義務又は事実証明に関する文書」を指します。

具体的には、契約書、領収書、履歴書、申請書、答案などが該当します。

これらの文書は私的な取引や社会生活において重要な役割を果たしているため、その信頼性を保つため、偽造や変造は罰せられることとなります。

3 偽造・変造行為があること

偽造・変造の定義は、上で説明したとおりです。

ここで重要なのは「作成権限のない者」が他人名義の文書を作成、改ざんした場合に偽造・変造とされるという点です。

典型的なのは、本人の承諾なく署名を代筆したり、本人の印鑑を勝手に押したりする行為です。

4 行使の目的があること

私文書偽造等罪が成立するには「行使の目的」があることが必要です。

「行使の目的」とは

人をして偽造文書を真正な文書と誤信させ、又は虚偽文書を内容の真実な文書と誤信させようとする目的

とされています。

実際には、偽造・変造が行われたにもかかわらず「行使の目的」が認められない事案とはかなり限られるものと考えられます。

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第3 私文書偽造等罪の注意点

名義人が現実の作成者に対して文書作成についての承諾を与えていれば、基本的に、偽造には当たらないとされるでしょう。

例えば、Aさんの承諾を受け、BさんがAさん名義の領収書を作成した場合、これは偽造には当たらないこととなります。

ただし、文書の性質上、作成者自身の名義を記載することが要求されている場合には、たとえ名義人が承諾していても、作成者との同一性を偽ったとして偽造罪が成立し得ます

判例上、交通事件原票(反則金処理のために警察官が署名を求める書類)、試験の答案につき、名義人の承諾があったとしても偽造罪が成立するとされています。

第4 私文書偽造の具体的な事例

①履歴書に偽名を記載した場合

履歴書は、相手に対して自らの経歴等を示すためのものであり「事実証明に関する文書」に当たりますので、履歴書に偽名を記載した場合、私文書偽造が成立し得ることとなります。

偽名については、実際に存在する人の名前である必要はなく、架空の名前であっても、名義人と作成者が一致していないとして、私文書偽造が成立し得ます。

②私立学校の卒業証明書を作成した場合

卒業証明書は、対象者の卒業の事実を証明するためのものであり「事実証明に関する文書」に当たります。

そのため、就職活動を有利にするため、私立学校の名前の入った卒業証明書を偽造した場合、私文書偽造が成立し得ることとなります。

なお、国立大学の卒業証明書を偽造した場合には、公文書偽造(刑法155条)が成立し、私文書偽造より重く処罰され得ます。

③替え玉受験をした場合

試験の答案は、試験者の学力を証明するためのものであり「事実証明に関する文書」に当たります。

そのため、いわゆる替え玉受験をして、実際に受験をした人とは異なる人の名前を書いて答案を作成した場合には、私文書偽造が成立し得ることとなります。

替え玉受験の場合は名義人の承諾があるわけですが、答案は、上で説明したとおり、作成者自身の名義を記載することが要求されている書面ですので、私文書偽造が成立することになります。

この場合、名義人(答案に名前が書かれている人)は、替え玉受験を依頼していることとなりますので、私文書偽造の共犯として処罰され得ることに注意が必要です。

2025年5月には、英語能力試験「TOEIC」を替え玉受験した男性が私文書偽造・行使で実際に検挙されており、社会問題となっているところです。

第5 私文書偽造と他の犯罪との関係

1 公文書偽造等との違い

私文書ではなく、公文書(公務所・公務員が、職務に関し、所定の形式に従って作成すべき文書)を偽造・変造した場合には、公文書偽造等が成立することとなります。

条文は以下のとおりです。

(公文書偽造等)

第155条
1. 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しく は図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する。
2. 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3. 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。

公文書は、その性質上、証拠力ないし信用力が私文書と比べて厚いことから、法定刑は私文書偽造より重くなっております

公文書の例としては、住民票、戸籍謄本などが挙げられます。

2 詐欺罪との関連性

偽造された私文書を使って金銭や財物を騙し取った場合、「私文書偽造・同行使」のほか、詐欺罪も成立することとなります。

詐欺と私文書偽造・同行使は、セットで起訴されることの多い犯罪です。

第6 まとめ

私文書偽造等罪については、一見些細な行為が刑事事件に発展する可能性があることに注意が必要です

「ちょっと書き換えただけ」の行為が刑事事件になることも珍しくありません。

実際に行使した場合、詐欺と組み合わさる場合には、かなり重い刑罰が科される可能性もあります。

万が一、私文書偽造の疑いをかけられた場合には、早期に弁護士へ相談し、適切な法的対応を取ることが重要です

なお、刑事事件の一般的な流れについては刑事事件の流れについて元検事の弁護士が解説|上原総合法律事務所をご参照ください。

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