業務中に従業員が交通違反をした場合の対応方法とは?弁護士が詳しく解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

従業員が業務中に車を運転する機会は多くあります。そのなかで交通違反を起こしてしまった場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。対応方法を明確にしておくことで、思わぬリスクを回避することができます。

この記事では、従業員による業務中の交通違反に関して、会社が責任を負うのはどのような場合かという点を中心に、違反に対する罰金・反則金などの取扱いについても解説します。

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1.業務中に起こりうる交通違反の事例

  1. 商品の配送中に、駐車場の空きがなく、駐車禁止区域に駐車してしまった
  2. 営業先に行く途中、ついスマホのショート動画を見ながら運転してしまった
  3. 毎日忙しく残業が続き、十分に休憩する暇もないまま長時間運転していたところ、居眠り運転で事故を起こしてしまった
  4. 運搬トラックに、法定の最大積載量を超えた商品を積んで走行していたら、検問で摘発されてしまった
  5. 車で外回りの途中、昼食の休憩で気が緩み、ビールを飲んで、そのまま午後も運転してしまった

なお、交通違反や事故については、こちらのカテゴリの記事、動画等もご参照ください。

2.会社に罰金や反則金の支払い義務はあるか?

2-1. 会社に罰金や反則金の支払義務はないのが原則

交通違反の罰金や反則金は、あくまで違反行為を行った従業員個人に課されるものであり、特別の定めがない限り、使用者である会社が支払義務を負うことはありません。

■使用者責任?運行供用者責任?
従業員が業務中に交通違反を原因として事故を起こし、他人に損害を与えた場合、会社は使用者責任(民法715条)に基づき、被害者への損害賠償責任を負担します。また、その車両の運行を管理・支配し、運行による利益を得る運行供用者として、運行供用者責任に基づく損害賠償責任も負担します(自動車損害賠償保障法3条)。しかし、これらは、被害者が受けた損害を補てんするための責任であって、罰金や反則金といった刑罰や行政上の責任とは別のものです。

2-2. 会社が従業員の罰金や反則金を支払った場合の会計処理は?

もしも、従業員の交通違反による罰金や反則金を会社が支払った場合、会社の経費として取り扱うことはできるのでしょうか。

■罰金や反則金は法人の損金とならない
法人所得は、各事業年度の所得を課税標準とし、当該事業年度の益金(収益)の額から、損金(収益を得るのに必要な費用)の額を控除した金額とされます(法人税法22条1項)。

しかし、法人が納付した罰金・科料・過料(交通反則金を含む)は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと法定されています(法人税法55条5項1号)。これらの金銭は違法行為に対する制裁ないしは一定の行為を抑止するための経済的負担であり、もしも損金算入を認めれば、税負担の減少によって、制裁・抑止の効果が減殺されるおそれがあるからです(金子宏「租税法(第18版)」弘文堂・346頁)。

■従業員が業務で課せられた罰金や反則金を法人が負担しても損金とならない
従業員が業務を行うにあたって課された罰金・科料・過料・交通反則金を法人が負担した場合、業務にかかった費用とも考えられますが、これも損金算入を認めれば、税負担を減少させ、制裁・抑止の効果を減殺するおそれがあるので、やはり損金算入を認めないとされています(法人税基本通達)。

■業務と無関係に従業員が課せられた罰金や反則金は給与扱い
他方、業務とは無関係に従業員が課された罰金・科料・過料・交通反則金を法人が支払った場合、本来は、法人が負担するべき理由がない支出ですので、従業員に対する給与として扱います(法人税基本通達)。この場合、給与ですから、人件費として法人の損金とできますが、従業員にとっては所得税等の課税対象となりますから、源泉徴収を行う必要があります。

これらの取扱いを明らかにしているのが、次の法人税基本通達です。

【法人税基本通達「第6款 罰科金」9-5-12(役員等に対する罰科金等)】
「法人がその役員又は使用人に対して課された罰金若しくは科料、過料又は交通反則金を負担した場合において、その罰金等が法人の業務の遂行に関連してされた行為等に対して課されたものであるときは法人の損金の額に算入しないものとし、その他のものであるときはその役員又は使用人に対する給与とする。」
国税庁サイト

3.従業員による社用車の駐車違反

従業員の交通違反であっても、会社が金銭を納めなくてはならない場合があります。それは、放置駐車違反の放置違反金です。

3-1. 放置駐車違反とは

駐車違反は、「駐停車違反」「放置駐車違反」に分けられます。

駐停車違反とは、運転者が車内におり、直ちに運転して移動できる状態にある場合です。他方、放置駐車違反とは、運転者がその車から離れており、直ちには運転できない状態にある場合です(道路交通法51条の4第1項)。

3-2. 社用車の放置駐車違反の違反金は会社に納付義務がある

■放置違反金は車の「使用者」に納付義務
この場合、違法駐車行為を行った者が誰かわからないため、警察などが「違法駐車した人が反則金を納付しないと、『車両の使用者』が、同額の『放置違反金』の納付を命ぜられますよ」という標章(紙)を車に貼り付けます。その翌日から30日以内に反則金が納付されないと、「車両の使用者」は、公安委員会から放置違反金の納付を命令されてしまいます(同51条の4第4項)。

■社用車の使用者とは会社
「車両の使用者」とは、自動車を使用する権原を有し、その運行を支配・管理する者で、自動車の運行について最終的な決定権を有する者を指します。平たく言えば、車を管理する責任者であり、車検証の使用者欄に記載された者です。通常、社用車では、会社が使用者となります。

このように、社用車の場合、放置違反金の納付義務は会社が負担します。違法駐車を行った従業員が反則金を納付すれば、会社の放置違反金の納付義務も消滅し、手続は終了します。しかし、そうでない場合は、会社が放置違反金を納付しなくてはなりません。放置違反金の金額は反則金と同額です(同51条の4第8項、道路交通法施行令17条の3、同別表一)。

3-3. 会社が放置違反金を納付しないとどうなる?

■会社が納付しないと延滞金が加算され、強制徴収される
会社が、命じられた納期限までに放置違反金を納付しないときは、公安員会から督促状が届き、放置違反金の延滞金(年14.5%)と督促手数料が加算されて請求されます(同51条の4第13項)。さらに督促にも応じない場合は、地方税と同様の滞納処分によって強制的に違反金が徴収されます(同51条の4第14項)。

■車検を拒否される
しかも、放置違反金を納付しない場合のペナルティーは、これだけではありません。社用車の放置違反金の納付を滞納し、督促を受けた場合には、車検の際、放置違反金を納付した証明書を提示しなくては、車検証を受け取ることができません(同第51条の7)。

■車両の使用制限命令を受ける
また、放置違反金の納付命令を受けた使用者が、標章の貼付け前6ヶ月以内に、その車両を原因とした納付命令を受けたことがあり、車両の使用が著しい交通の危険や妨害となるおそれがあると認められるときは、公安委員会から、3ヶ月を超えない範囲で、その車両の運転を禁止する命令を受けます(同75条の2第2項)。

3-4. 従業員に速やかに反則金を納付させる

社用車の放置駐車違反の場合、使用者である会社が重いペナルティーを受ける危険性がありますから、違法駐車を行った従業員に対し、速やかに反則金の納付を命じるべきですし、万一、従業員が従わないときは、会社が納付するしかありません。

4.業務中に従業員が交通違反をした場合の対応方法

4-1. 業務中の交通違反への対応は、車両の所有者によって異なるか?

業務中の交通違反の刑事責任(罰金や反則金)は、あくまで違反した個人の責任ですから、その車両の所有者が誰であろうと変わりはありません。

ただし、前述の放置違反金については、車両の使用者に納付義務があり会社の車両の場合は会社が使用者として納付義務を負います。また、レンタカーを社用に使用していたときは、レンタカー会社が使用者として納付義務を負担することとなります。

レンタカー会社に放置違反金を負担させることは、会社とレンタカー会社の間のトラブルを招きかねませんから、違法駐車の行為者に早急に反則金を支払わせて、レンタカー会社の納付義務を消滅させるか、会社がレンタカー会社の支出を補てんするべきでしょう。

4-2. 交通違反への対応は就業時間中かどうかで異なるか?

交通違反による事故で、従業員が怪我を負った場合、就業時間中であれば労働災害、通勤途中であれば通勤災害として、労災保険の適用があります。労災保険の申請をするのは被災労働者ですが、使用者も申請に助力する義務があります(労災保険法施行規則23条)。

なお、就業時間外の従業員が会社の車を私用で運転していた際に交通違反による事故を起こして、他人に損害を与えた場合は、実際には会社の業務による事故ではありませんが、会社は使用者責任(民法715条)を負担します。被害者保護の見地から、会社の業務による事故か否かは、外形から客観的に判断されるためです(大審院昭和15年5月10日判決・大審院判決全集第7輯20号15頁)。

また、就業時間外であっても、会社は運行供用者ですから、被害者に対し、自賠責法の損害賠償責任を負担します。

4-3. 業務中の交通違反による事故が会社の過失による場合

職場で違法な長時間労働が常態化しており、従業員が過労から交通事故を起こしたという場合や、会社車両の整備不良から事故がおきたという場合には、従業員から会社に対して、安全配慮義務違反(労働契約法5条、民法415条)による損害賠償請求がなされる場合があります。

5.交通違反をした従業員の懲戒処分について

5-1. 業務上の交通違反に対して、どんな懲戒処分ができるか?

業務中の交通違反は、その内容・程度によって、懲戒処分の可否や可能な処分内容が決まります。例えば駐車違反や免許証不携帯などのごく軽い違反であれば、それが繰り返されている場合などを除き、事実上の注意を行う程度が相当であり、たとえ最も軽い処分である戒告処分であっても、懲戒権濫用法理(労働契約法15条)の見地からは、労働者に対する制裁である懲戒処分を課すことは社会通念上の相当性を満たさないでしょう。

他方、社用車を用いての業務中の酒気帯び運転(道路交通法65条1項、117条の2の2第3号)、酒酔い運転(同65条1項、117条の2第1号)、あおり運転(同117条の2の2第1項8号)といった悪質な行為は、会社の対外的な名誉・信用を害し、企業秩序を侵害する程度も著しいですから、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇といった重い処分も相当と認められるでしょう。特に、運送業のように、交通ルールの遵守を強く要求される業種では、重い懲戒処分も認められやすくなります。

5-2. 免許停止、免許取消となった運転手の解雇

運転手が免許停止または免許取消しとなった場合、運転業務が遂行できないことを理由に解雇できるでしょうか。

運転手として職種を限定して雇用されたのに、自らの違反行為により免許を失い運転することができず、労働契約上の労務提供義務を果たせないのですから、解雇権濫用法(労働契約法16条)からも、普通解雇が許容される可能性はあります。

ただし、この場合でも、事情によっては、当該労働者が担当できる運転手以外の業務が自社にあるか否かを検討し、職種変更の可能性を探るなど、解雇を回避する努力を会社はするべきであって、そのような努力をせずに解雇とした場合、社会通念上の相当性を欠き、権利濫用とされる場合があります。

【裁判例】(東京地裁平成20年9月30日判決・東京エムケイ事件・労働判例975号12頁)
タクシー運転手が追突事故で受傷し、二種免許を失効して運転業務ができないことを理由とする普通解雇の事案で、裁判所は、会社の企業規模であれば、運転手以外に様々な職種があり、現に、会社は同運転手を清掃業務に従事させた事実があるなどの指摘をし、普通解雇は権利濫用だとしました。

5-3. 交通違反による拘禁刑を受けた場合の解雇

業務遂行中の交通違反で、刑事処分としての拘禁刑を受けた従業員を解雇することはできるでしょうか。

拘禁刑の判決が確定し、収監されてしまえば、出勤することができないのですから、普通解雇理由となります。

他方、第一審で拘禁刑の判決を受けただけで、未だ判決が確定せず、控訴して争っている状態の場合は事情が異なります。

控訴して裁判は継続しているものの、飲酒運転などのように悪質な犯罪事実が明白な場合は、この段階で普通解雇としても解雇権濫用とはならないでしょう。

それ以外の場合、例えば犯罪事実を争っているケースなどでは、解雇しないまま出勤を禁ずる起訴休職制度の適用を検討することとなります。

ただし、起訴休職中は賃金が発生せず、従業員にとっては経済的打撃が大きいため、起訴休職制度の適用は、一定の場合に限定して認められます。それは、①当該犯罪の起訴がなされたことで職場秩序、企業の社会的信用、当該労働者の労務遂行などの点で、当該労働者の就労を禁止することもやむを得ないと認められる場合、または②勾留や公判期日の出頭のために現実の労務提供が不可能または困難な場合です(福岡高裁平成14年12月13日判決・明治学園事件・労働判例848号68頁)。

なお、懲戒処分や解雇については、こちらの労働問題カテゴリの記事等もご参照ください。

6.お気軽にご相談ください

弁護士法人上原総合法律事務所では、従業員による交通違反に詳しい弁護士が、事業主様からのご相談をお受けしています。
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