労働基準法違反で通報されたらどうなる?対処方法について弁護士が詳しく解説

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

労働基準監督署に労働基準法違反が発覚すると、違反状態を改善するよう行政指導を受けたり違法行為として送検され刑事処分を受けることがあります。違反内容と企業名が公表されて対外的な信用を失墜させてしまう例もあり、企業の存亡にかかわる事態となる場合もあります。

多くの場合、労働基準法違反が発覚する契機となるのは、労働者による通報(申告)です。労働者に通報されてしまった場合には、真摯に対応することが必要です。

この記事では、労働基準法違反で通報された際の労働基準監督署による手続の流れや、企業側の対処方法について詳しく説明します。

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1.労働基準法違反の通報とは

労働基準法は、使用者に比べて社会的、経済的に弱い立場にあり、劣悪な労働条件を強いられがちな労働者を保護するために、労働条件の最低基準等を定めている法律です。

労働者は、労働基準法違反の事実を、労働基準監督署や労働基準監督官に通報(申告)することができます(同法104条1項)。

使用者は、この通報(申告)をしたことを理由に、労働者を解雇したり降格したりするなど不利益に取扱うことが禁止されており(同法104条2項)、これに反して不利益な取扱いをすれば、6か月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑が科されます(同法119条1号)。

2.労働基準法違反の通報(申告)による調査とは

労働者からの通報(申告)で労働基準法違反の嫌疑が生じると、労働基準監督署および労働基準監督官による調査がスタートします。

2-1. 労働基準監督署の調査方法

調査の方法としては、①事業場への立ち入り調査である「臨検」②帳簿、タイムカード、その他の労務管理書類の提出要求関係者への尋問などがあります(労働基準法99条3項、101条1項)。

臨検を拒否・妨害・忌避したり、尋問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたり、帳簿書類の提出を拒否したり、虚偽の記載をした帳簿書類を提出したりする行為は、それ自体が、労働基準法に違反する行為として30万円以下の罰金刑が科されます(同法120条4号)。

2-2. 労働基準監督署からの通知を無視してはならない

調査にあたって、労働基準監督署から通知書が送られてくる場合があります(労働基準法104条の2第1項、同施行規則58条)。
その内容は、関係書類を持参して労働基準監督署へ出頭することを要求するものであったり、事業場での臨検を予告するものであったりします(もちろん、臨検は予告なく実施されることもあります)。

いずれにしても、労働基準監督署からの通知を無視してはいけません。無視すれば、同法違反の疑いは強まる一方ですし、無視したからといって、労働基準監督署が調査を諦めてくれるわけではありません。むしろ悪質と認定されてしまうリスクが高くなります。

3.労働基準監督署が行う対処の種類と内容

調査の後、労働基準監督署が行う対処には、次のものがあります。

3-1. 改善指導、是正勧告

改善指導と是正勧告の違い

調査により労働基準法違反の事実などが確認されると、労働基準監督署は、企業に対し、行政指導として改善指導を行ったり、是正勧告をしたりします。すでに発生している同法違反の状態を是正させるのが是正勧告であり、そこまでに至ってはいないが改善が望ましいとして指導するのが改善指導です。

指導票と是正勧告書

改善指導にあたっては指導票、是正勧告にあたっては是正勧告書が交付されます。これらには、改善、是正するべき事項や是正期限などが記載されています。使用者は、指摘事項を改善、是正したうえ、指定された期限までに、改善、是正した内容を記載した改善措置報告書是正報告書)を提出しなくてはなりません(同法104条の2)。これらの報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりすると、30万円以下の罰金刑が科されます(同法120条5号)。

※是正報告書・改善報告書の書式

3-2. 検察庁送致

使用者が是正勧告に従わないときは、悪質な労働基準法違反被疑事件として、検察庁に送検され、起訴されるリスクが高まります。

同法違反の犯罪に関しては、労働基準監督官に対し刑事訴訟法手続上の捜査官(司法警察員)としての権限が与えられています。これにより労働基準監督官が、逮捕や捜索・差押え等の捜査活動を実施することができるのです(労働基準法102条、司法警察職員等指定応急措置法2条、刑事訴訟法39条3項、同法189条2項)。

労働基準監督官の捜査によって労働基準法違反を裏付ける証拠が収集された後、事件として検察庁に送致されます。そこで検察官が起訴した場合には、裁判所で刑事裁判を受け、有罪となれば刑事罰が科されることとなります。

3-3. 企業名の公表

労働基準法違反の事実につき、厚生労働省のサイトで、企業名を公表されてしまう場合があります。対象となるのは、検察庁に送致された「送検事案」のうち、重大な事案や悪質性の高い事案、労働局長の指導を受けた「局長指導事案」です※1)。

※1:厚労省通達:平29年3月30日・基発0330第11号「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」

「局長指導事案」とは、違法な長時間労働を繰り返したり、複数の事業場で過労死の発生があったり、裁量労働制の不適正な運用があったりした等の事案で、都道府県労働局長から早期の全社的是正を指導された事案です(※2※3)。

※2:厚労省通達:平29年1月20日・基発0120第1号「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」

※3:厚労省通達:平31年1月25日・基発0125第1号「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」

実際、次のとおり各労働局のサイトにおいて労働基準法に違反した企業に関する情報が公表されており(※4)、全国の公表事案を年度毎にまとめた資料も公開されています(※5)。

※4:東京労働局「労働基準関係法令違反に係る公表事案」

※5:「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和6年4月1日~令和7年3月31日公表分)」厚生労働省労働基準局監督課(掲載日:令和7年4月30日)

4.労働基準法違反で通報されたら、刑事罰が科されるのか?民事上の責任は?

4-1. 労働基準法違反で刑事罰

先に述べたように、労働基準監督署の調査を拒否したり、虚偽の報告をしたり、是正勧告に従わなかったりすると、悪質な事案として事件が検察庁に送致される可能性があります。その後、検察官に起訴されれば、略式命令(罰金刑)とならない限りは裁判所(公開の法廷)で刑事裁判を受けることとなり有罪となれば刑事罰が科されることとなります。

同法違反と処罰の行為者主義

労働基準法違反の行為に対しては刑事罰が定められています。つまり、同法に違反することは「犯罪」なのです。

例えば、同法は労働時間について、次のとおり法定労働時間の原則を定めています。

同法32条1項「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」

この32条に違反した使用者には、6月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑が科されると定められています(同法119条1号)。

罰金刑が科される「使用者」とは、①事業主②事業の経営担当者③その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者とされています(同法10条)。具体的には、次のとおりです。

  1. 事業主事業経営の主体です。株式会社のように法人のケースや、個人事業主のように個人のケースがあります。
  2. 事業の経営担当者法人の理事会社の役員支配人等です。
  3. その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者…労働条件等の事項について、実質的に指揮・監督・決定の権限を有する者です。たとえば現場監督、工場長、管理職のように、会社との関係では「労働者」であっても、同法違反の場面では、「使用者」として処罰される場合があります。

このように、現場の労働条件等を現実に管理する人間の違反行為を処罰対象とすることを「行為者主義」と呼びます。

両罰規定

会社の工場長が、法定労働時間を超えて労働者を働かせていたような場合、違反行為をした工場長を処罰しただけでは不公平で、労働者保護の実効性を確保できません。なぜならば、違反行為によって利益を得るのは事業主(この場合は会社)だからです。

この不都合を回避するために設けられているのが「両罰規定」です。例えば、上記の例の場合、違反行為者である工場長だけでなく、事業主も罰金刑を受けることとなります(同法121条1項本文)。

両罰規定の免責

事業主(法人の場合は代表者)が、同法違反の防止に必要な措置をしていた場合は、両罰規定の適用を免れることができます(同法121条1項但書)。ただし、免責されるための「違反の防止に必要な措置」とは、単に「時間外労働は禁止する」と貼り紙をしただけでは足りません。「午後5時00分をもって終業すること」などのように具体的な指示を与えて違反を防止することが求められています。

【裁判例】東京高裁昭26年9月21日判決
事業主が注意書を貼っただけの事案で、裁判所は、違反の防止に必要な措置とは、単に一般的に違反行為をしないよう注意を与えるだけでなく、特に当該事項につき具体的に指示を与えて違反の防止に努めたことを要すると判示しました。

違反行為をしていない事業主が懲役刑を受ける場合

両罰規定は罰金刑を事業主に科すものですが、これとは別に、事業主(法人の場合は代表者)に懲役刑が科されるケースもあります。それは、次の3つのケースです。

  1. 事業主が、同法違反行為の計画を知り、その防止に必要な措置を講じなかった場合
  2. 事業主が違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合
  3. 事業主が違反を教唆した場合

これらの場合、事業主は、現実に違反行為を実行した者ではありませんが、違反行為の「行為者」として取り扱われるので、罰金刑だけでなく懲役刑が科される可能性もあります(同法121条2項)。

4-2. 労働基準法違反で民事責任

同法違反によって、使用者が民事責任を負担するのは、例えば、次のようなケースです。

ケース1:同法に違反する長時間労働による過労で労働者が健康を害して休業し、病院の治療費もかかったケース

この場合、業務上傷病として、使用者は、療養費の補償や休業中の賃金の6割の補償などをする義務があります(同法75条、76条)。さらに労働契約上の安全配慮義務違反(労働契約法5条、民法415条)や不法行為(民法709条)が認められる場合には、残りの休業損害や入通院慰謝料などの支払義務も負担します。なお労災保険による給付がなされる場合は、その範囲内で、使用者は民事責任を免れます(労働基準法84条1項)。

ケース2:使用者が、労働基準法が定める①解雇予告手当(同法20条)、②時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金(同法37条)、③休業手当(同法26条)、④年次有給休暇中の賃金(同法39条)を支払わないケース

使用者は、同法によって、これらの金銭を支払う民事上の義務を負っています。このため、上記のような場合には、労働者の請求を受けた裁判所の裁量により、使用者は、同法違反に対する制裁として、上記の各金銭と同額の「付加金」の支払いを命令される場合があります(同法114条)。

5.労働基準法違反で通報された場合の対処方法

以下に同法違反で通報された場合の対処方法を整理します。

5-1. 真摯かつスピーディな対応

  1. 事実を調査し、違反事実の有無を確認する
  2. 労働基準監督署の調査(臨検・聴取・書類提出)には誠実に協力する
  3. 改善指導、是正勧告には速やかに応じ、違反状態を改善する
  4. 期日内に報告書を提出する

このように、真摯かつスピーディに対応し、違反を改めることが何よりも大切です。改善指導、是正勧告に従わなかったり、調査を妨害したり、虚偽の報告をしたりすれば、悪質と認定されて送検され、刑事罰が科されてしまうリスクがあります。

5-2. なすべき主張は控えない

ただし、労働基準監督署といっても、必ずしも常に正しい事実確認をしてくれるとは限りません。実際、労働者側の申告とは異なる使用者側の言い分がある場合も少なくないので、必要な主張を控えるべきではありません。そのためにも、対処するにあたっては、労働問題に強い弁護士に相談し、助言を得ながら進めるべきでしょう。

6.労働基準法違反で通報されないための予防策

労働基準法違反で通報されないための予防策は、何といっても、同法を遵守し、違反の事実を作らないことに尽きます。そのために必要な対策は次のとおりです。

6-1. 就業規則の点検・整備を行うこと

就業規則の定めのうち、労働基準法の基準に達しない労働条件を定めた部分は無効です(同法92条1項、労働契約法13条)。また、上記のような定めが就業規則内に残っていることが職場での誤解を生み、労働基準法違反が常態化する原因となってしまいます。このため、就業規則を全般的に点検し、問題のある条項は訂正しておくべきです。

6-2. 労働時間の管理を適正に行うこと

時間外労働等の割増賃金(労働基準法37条)を正しく計算し、時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間:同法36条4項)を超過させないためには、労働者ごとに労働時間の管理を厳密・適正に行う必要があります。

この点、使用者は、賃金台帳を作成し、労働者の個人別に、労働日数・労働時間数・時間外労働時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数等を記入することが義務付けられています(同法108条、同施行規則54条1項)。使用者が、上記の定めに違反した場合、30万円以下の罰金刑が科されます(同法120条1号)。

また、一定時間を超えた長時間労働に起因する労働者の脳・心臓疾患死を防止するための医師による面接指導(労働安全衛生法66条の8、同規則52条の2)を実施できるよう、事業者はタイムカード記録やPC等電子機器の使用時間記録等、労働者の労働時間の状況を把握し(同法66条の8の3)その記録を3年間保存する必要があります(同規則52条の7の3)。

6-3. 内部通報制度の整備

労働者が労働基準監督署へ申告する前に、企業内部の通報窓口に労働基準法違反の発生を安心して通報できる体制があるのであれば、行政が介入する前に企業自らが違反状態を是正することが可能となります。

公益通報者保護法は、公益通報があった場合に通報者を保護し、企業がとるべき措置を定めた法律です。労働者による労働基準法違反の通報は、まさに保護対象である公益通報に含まれます(公益通報者保護法2条3項、同法別表8号、同法別表第8号の法律を定める法律18号)。

平成28年に消費者庁が公表した「民間事業者向けガイドライン」では()、事業者によるコンプライアンス経営を促進するべく、内部通報制度の実効性向上のために事業者の取組みが推奨される措置を明確化しています。そこでは、①通報の受付窓口設置②調査・是正措置を実施する部署と責任者の明確化③組織の長や幹部等からの独立性の確保④通報者の秘密保持の徹底など、多くの具体的な措置が示されています。

※消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(平成28年12月9日)

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