労災の休業補償の支払日はいつ?期間はいつまで?

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弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

労災(労働災害)によるケガや病気の療養のために労働者が仕事を休む場合、労災保険(労働者災害補償保険)から賃金の一定割合の金額が支払われます。これが「労災の休業補償給付」です。これによって、被災した労働者は安心して療養に専念することができます。

この「労災の休業補償給付」を受けるには、労働者から労働基準監督署へ請求することが必要ですが、請求してからどれくらいで支給されるのでしょうか。

また、「労災の休業補償給付」を受け取ることができるのは、いつからいつまでの期間なのでしょうか。

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1.労災の休業補償とは?

労災の休業補償とは、労災保険の「休業補償給付」のことです。労災保険法(労働者災害補償保険法)は、労働者が業務上の負傷・疾病による療養で仕事を休んだ場合に、国の労災保険から、休業中の賃金の一定割合を補償するとして、労働者の保護を図っているのです(同法14条)。

他方、業務上ではなく通勤による負傷・疾病に係る療養のため仕事を休んだ場合に対しても、同じ内容の補償を受けることができますが、こちらは「休業給付」という名称で呼ばれます(同法22条の2)。

2.労災の休業補償の対象期間

労災の休業補償給付の対象となる期間は、4日目以降の休業です。休業の初日を含めた3日間は対象外で、これは「待機期間」と呼ばれています(同法14条1項本文)。

3.労災の休業補償の金額

3-1. 60%の休業補償給付と20%の休業特別支給金

労災保険の休業補償給付では、休業4日目以降につき、賃金の60%相当額の支給を受けることができます。さらに賃金の20%相当額の「休業特別支給金」も受け取ることができます。したがって、合計で賃金の80%に相当する金額を受け取ることができるのです。

この「休業特別支給金」は、労災保険法の定める一種の福祉事業として支給されるものです(労働者災害補償保険特別支給金支給規則第3条)。

3-2. 給付基礎日額

前述したように、合計して賃金の80%を受け取ることができますが、金額の基準となるのは、「給付基礎日額」です。

これは、「平均賃金」(労基法12条1項)に相当し、算定事由発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った金額です(労災保険法8条1項)。臨時に支払われた賃金や賞与のように3か月を超える期間毎に支払われるものは賃金総額に含みません(労基法12条4項)。

算定事由発生日とは、負傷原因である労災事故の発生日又は医師が疾病を診断した日を指しますので、それ以前の3か月間の賃金総額が基準になります(労災保険法8条1項)。ただし、賃金の締切日があるときは、事故発生日や医師診断日の直前の賃金締切日が起算日となります(労基法12条2項)。

4.労災の休業補償の支払日はいつ?

4-1. 請求してから支払われるまでの期間

休業補償給付は、労働者からの請求(労災保険法12条の8第2項)を受けた後、労働基準監督署の労災認定を経て支払われます。認定までの期間は、通常、請求手続から1か月程度といわれています。

しかし、事案によっては、この期間を超えて、数か月以上かかる場合もあります。それは、次のような事案です。

  1. 労働基準監督署による事実の調査に時間がかかる場合
    事業者が労災事故の発生を否定していたり、労働者と事業者の主張に大きな相違があったりして、労働基準監督署の事実調査に時間を要する場合は、休業補償給付がなされるまで、通常よりも時間がかかります。
  2. 医学的な判断に時間がかかる場合
    業務に起因する疾病か否かを医学的に判断するのに、通常よりも時間が必要なケースもあります。例えば、精神疾患や脳血管障害などです。
  3. 申請書に不備がある場合
    提出する申請書(休業補償給付の請求書)の記載に不備があると、労働基準監督署から訂正を求められ、手続の進行が遅れてしまいます。

4-2. 労災保険の休業補償給付の請求が月1回行われるよう注意すること

休業補償給付の請求は労働者が行うものであり、使用者が行う場合でも、事実上の代行に過ぎません(労災保険法12条の8第2項)。

しかし、使用者は、労働者から労働基準監督署への休業補償給付の請求が毎月行われているかどうかにつき、注意しておく必要があります。それは次の理由によります。

もともと使用者は無過失であっても、業務上傷病の療養のため働けない労働者に対し、平均賃金の60%を支払う義務があります。これが「労基法上の休業補償」の責任です(労基法76条1項)。

他方、労働者へ労災保険の休業補償給付が行われる場合は、使用者は、この「労基法上の休業補償」の責任を免れます(労基法84条)。

そして、この「労基法上の休業補償」は、労働者保護の観点から、「毎月一回以上、これを行わなければならない」(労基法施行規則39条)と定められています。

この規定があるため、労働者の休業が複数月にわたった場合、毎月1回、労災保険の休業補償給付の請求手続が行われていないと、使用者は、「労基法上の休業補償」の責任を負うことになってしまいます。したがって、毎月の請求手続が行われているかどうかに注意を払っておくべきなのです。

5.労災の休業補償の期間はいつまで?

5-1. 労災の休業補償給付の期間制限はない

労災保険の休業補償給付は、給付される期間が決まっているわけではありません。①業務上の負傷・疾病の療養で②労働することができないため③賃金を受けていないという3つの要件を満たす限りは、休業4日目以降、休業補償給付を受けられます(労災保険法14条1項本文)。

5-2. 傷病補償年金の支給となる場合

労災の休業補償給付に期間制限はありませんが、傷病補償年金の支給に切り替わり、休業補償給付は打ち切りとなる場合があります(労災保険法18条2項)。

それは、①療養開始後1年6ヶ月が経過し②負傷・疾病が治っておらず③厚労省の定める傷病等級に該当する障害があるときです(労災保険法12条の8第3項)。

これは労働者が請求して支給されるのではなく、労働基準監督署長の職権で決定されます(労災保険法施行規則18条の2第1項)。

5-3. 障害補償給付となる場合

治療を継続しても、今後の症状改善は見込めないと判断される場合が「症状固定」または「治癒」です。この場合においては、医学的な見地から、その後の治療継続は効果の期待できない無意味な行為となりますから、「療養」のための休業とはいえなくなります。したがって休業補償給付は打ち切りとなります。

ただし、完治せずに残った症状(後遺障害)は、内容・程度に応じ、「障害補償給付」として障害年金または障害補償一時金の支給を受けることができます(労災保険法12条の8第1項3号、15条)。

6.労災の休業補償が支払われない場合

6-1. 請求が却下されたとき

労災に該当しないと労基署が認定した場合など、労災の休業補償給付が支給されないときは、「不支給決定通知」が労働者に送付されてきます。

この決定に不服があるときは、労働局の労働者災害補償保険審査官への審査請求が可能です(労災保険法38条)。

さらに、同審査官の決定にも不服がある場合には、再審査の請求をすることができます。再審査の結果にも不服があるときは、裁判所へ行政訴訟を提起して争います(同法40条)。

6-2. 手続に時間がかかっている場合

先ほど述べたとおり、労災の休業補償給付は、通常、請求手続から1か月程度で支給されますが、労働基準監督署の事実調査や医学的判定に時間を要する場合や、書類に不備があった場合などには、通常よりも時間がかかってしまいます。支給が決定されれば、支給の決定がなされた旨と振込額が記載された通知が送付されますから、それを待つことになります。

6-3. 会社の怠慢で請求手続が遅れても、休業当初からの休業補償給付を申請できる

労災の休業補償給付の請求手続を会社の代行に任せていたところ、会社の怠慢で、請求手続が遅れてしまったという場合があります。

休業補償給付を請求する権利は、当該休業日の翌日から2年間請求しないとき、消滅時効によって失われるとされていますので(労災保険法42条1項)、その休業日の翌日から2年間のうちに請求すれば、会社の怠慢で手続が遅れていたとしても休業補償給付を受けることは可能です。

7.労災の休業補償の会社負担分の支払いはいつからいつまで?

労災による傷病について、会社側に過失が認められる場合には、会社は労働契約上の安全配慮義務違反(民法415条、労働契約法5条)または不法行為責任(民法709条)による損害賠償責任を負います。この場合、会社には、休業中の賃金の全額につき損害賠償義務が生じます(民法416条)。

もっとも、労災による傷病については、会社側に過失がない場合でも、労働基準法の規定によって、療養で休業中の平均賃金の60%については使用者に補償する義務があります。これが「労基法上の休業補償」です(労基法76条1項)。

7-1. 休業初日から3日目までの賃金

労災保険の休業補償給付は、休業4日目以降を対象としますから、休業初日から3日目までの賃金については、「労基法上の休業補償」として、平均賃金の60%を補償する義務が使用者にあります。さらに、使用者に過失があれば、休業初日から3日目までの賃金につき残り40%の民法上の責任も負うことになります。

7-2. 休業4日目以降の賃金

労災保険の休業補償給付は、労働者の損害を補てんするための給付ですから、休業4日目以降につき、労災保険の休業補償給付が行われれば、その分、使用者は「労基法上の休業補償」の責任や、民法上の責任を免れます(労基法84条)。他方、「休業特別支給金」は福祉事業であり、損害の補てんを目的とするものではないため、これが支給されても、使用者の責任は軽減されませんコック食品事件・最高裁平成8年2月23日判決)。

7-3. 近年の新しい裁判例とその批判

最近、会社に過失がある場合は、休業4日目以降につき労災保険の休業補償給付で60%の給付が行われても、会社側に、自社の賠償責任額からこの60%を差し引くことは許されず、休業4日目以降につき100%の賃金を支払う義務があるとする裁判例が出てきました。

労災について、会社側に過失があり、賃金の支払義務がある場合は、労働者は賃金を受け取ることが可能であり(民法536条2項)、そもそも労災保険の休業補償給付の対象とならないはずだというのです。

この考え方によると、会社側は休業4日目以降につき賃金の100%を支払う義務が続くことになり、他方、労働者は労災保険から受け取った休業補償給付を国に返還するべきことになります(①大阪高裁平成24年12月13日判決・アイフル事件・労働判例1072号55頁 ※参照元:労政ジャーナル②東京高裁平成23年2月23日判決・東芝事件・労働判例1022号5頁)。

ただし、この考え方では、労災保険の失業補償給付の支給にあたり、使用者に民法上の賃金支払義務があるか否かを法的に判断する必要が生じてしまい、被災労働者を迅速に保護するという失業補償給付制度の趣旨に反し、妥当ではないという強い批判があります(菅野和夫・山川隆一「労働法(第13版)」弘文堂・634頁)。

そもそも、会社が労災の保険料を負担するのは、労災保険の保険給付があれば、その限度で会社が民事上の責任を免れることができるからです。ところが、上の考え方では、会社は労災保険の恩恵を受けることができないこととなり、使用者による保険料負担で労働者を保護するという労災保険の制度基盤自体を揺るがすことになりかねないという意見もあります。

もっとも、会社に過失がある場合でも、通常は会社への責任追及よりも、労災保険への申請が先に行われますし、実際、労災保険は休業補償給付を行っていますので、批判意見が指摘する心配は現実化していません。ただし、今後の実務がどのように動くかは不透明です。企業側としては、今後の動向に注意を怠るべきではありません。

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