公開日:2024年11月21日
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被害届とは、何らかの犯罪によって被害を受けたことを捜査機関に申告する書面のことを言います。
「犯罪捜査規範」という規則(警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定めたもの)に被害届に関する条文があります。
その条文の内容は以下のとおりです。
<犯罪捜査規範>
第61条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
被害届は、捜査機関に何らかの被害を受けたことを申告する書面であり、被害届を受け取った捜査機関は、原則として、その被害につき捜査を開始することとなります(刑事訴訟法189条2項は「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」と定めています。)。
このとおり、被害届は、捜査機関に事件の捜査を促す効果を持つものであり「捜査の端緒」と呼ばれるものの一つです。
被害届の受理は、捜査機関がその被害を認識したことを示すものに過ぎず、捜査機関がその被害が真にあったものと判断していることを必ずしも意味しません。
同じように、捜査機関に犯罪事実を申告するものとして、告訴・告発というものがあります。
告訴とは、被害者等が、検察官や司法警察員に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示のことです。
「犯人の処罰を求める」という点で、単に被害を受けた事実を報告するだけの被害届と異なります。
告発とは、犯人又は告訴権者以外の第三者が捜査機関に対し、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示のことです。
告訴と異なり告発する者に制限はありません。
実務上、告訴状や告発状は、被害届と比べて捜査機関が受理をするハードルが高く、個人で提出することは困難と言えます。
警察は、被害届の提出により犯罪がある可能性を認知し、原則として捜査を始めることとなります(被害届が提出されて受理されたにもかかわらず、警察が捜査を開始しないことはおよそ考え難いところです。)。
事件の性質によって行われる捜査の内容は様々ですので、どのような捜査が行われるのかを一概に説明することは困難ですが、多くの場合、被害者・関係者からの事情聴取、現場の実況見分等が行われることとなります。
警察は、ある程度捜査が進行した段階で、被疑者を身柄拘束せずに捜査を進めるか、身柄拘束して捜査を進めるかを判断します。
その判断に応じて、手続が大きく2つに分かれることになります。
在宅事件として捜査が進められますので、被疑者は通常の生活を送ることが可能です。
警察から適宜呼び出しを受け、それに応じて出頭し取調べを受けることとなります。
必要に応じて、関係する証拠を提出しなければならないこともあります。
警察からの呼び出しを無視し続けるなど非協力的な姿勢を続けると、身柄拘束されることもありますので注意が必要です。
在宅事件の場合、警察が一通りの捜査を終えた段階で、事件が書類及び証拠物とともに検察官に送致されます(いわゆる書類送検と呼ばれる手続です。)。
法律上、警察が犯罪の捜査をしたときには、一部例外を除いて検察官に送致しなければならないとされていますので、送致されたからと言って犯罪の嫌疑が強いなどと判断できるわけではありません。
検察官は、送致を受けた後、必要に応じて補充捜査を実施し、その結果を見て、起訴・不起訴の判断を下します。被疑者は、検察官が処分を下す前、検察官に呼び出されて取調べを受けることが通例です。
警察が、被疑者を逮捕することが必要と判断した場合、裁判所に逮捕令状の発付を請求し被疑者を逮捕することとなります。
逮捕されてしまった場合は、逮捕から48時間以内に警察から検察官に事件が書類及び証拠物とともに送致されます。
検察官は、送致を受けた後、被疑者の弁解を聞いて被疑者を勾留すべきかを判断し、勾留すべきと判断した場合には、送致から24時間以内に裁判官に勾留を請求します。
そして、裁判官が勾留の必要性があると判断した場合は、10日間の勾留が決定します。
その後、10日間で捜査が終わらなかった場合には、更に10日を限度として勾留が延長されます。
つまり、一つの事件につき、逮捕から起訴・不起訴の判断まで最長で23日間身体拘束されるおそれがあると言えます。
身体拘束された場合、捜査機関が報道発表する可能性は高まりますし、身柄拘束されている間は留置施設で寝泊まりすることになりますので、周囲に事件について知られる可能性は相当高くなると言えます。
※刑事手続の流れについては、刑事事件の流れについて元検事の弁護士が詳しく解説 | 上原総合法律事務所(新宿・横浜)もご参照ください。
被害届を提出されてしまった方の中には、「被害届が提出されたということは、逮捕されるのではないか」と不安に思われる方が多くいらっしゃいます。
被害届が提出されたことが逮捕に直結するわけではありませんが、警察が、被害届を端緒に捜査をした結果「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」を認めた場合には、裁判所に逮捕令状の発付を請求した上、被疑者を逮捕することとなります。
「逮捕の理由」とは、その人が罪を犯したという疑いがあることを言います(刑事訴訟法199条1項では「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」とされています。)。
「逮捕の必要性」とは、被疑者に「逃亡するおそれ」や「犯罪の証拠を隠滅するおそれ」が認められるかで判断されます。
例えば、事件後に現場から逃走した場合や、被害者や関係者に接触可能で口裏合わせなどにより証拠隠滅ができると判断された場合などには逮捕の必要性が認められる可能性は高まるでしょう。
「逮捕の理由」及び「逮捕の必要性」が認められるかは、事件に関する事情を総合考慮することになりますので、画一的な基準はありません。
そのため、刑事事件に精通した弁護士でなければ、当該事案が逮捕されるおそれが高いのか否かを判断することは困難です。
自分が逮捕される可能性があるか不安な方は、刑事事件に精通した弁護士に意見を聞くことが相当と言えます。
※逮捕後の流れについては、逮捕された後の流れについて元検事の弁護士がわかりやすく解説|元検事の弁護士へのご相談ならもご参照ください。
被害者に被害届を取り下げてもらうことは可能です。
被害届の取り下げは、通常、被害者がその事件について被疑者の処罰を望まなくなったという意思表示を含みます。
そのため、被害者が被害届を取り下げた場合、捜査機関は、被害者が被疑者の処罰を望まなくなったものと判断し被疑者に有利な事情としてそれを考慮しますので、検察官が不起訴処分をする可能性が非常に高くなります(ただし、被害届を取り下げたからと言って、必ず不起訴処分になるわけではありません。)。
したがって、被害届を提出されてしまった場合、その事実につき心当たりがある被疑者としては、被害届を取り下げてもらうよう被害者と交渉することが重要と言えます。
被害者が被害届を取り下げてくれた場合、検察官が不起訴処分をする可能性は非常に高くなりますので、被害届の事実に心当たりがある被疑者としては、被害者に被害届を取り下げてもらうべく示談交渉をすることが重要となります。
この点、被害者との示談交渉は、被害者が警戒して被疑者本人と連絡をとるのを拒むことが多いこと、そもそも被疑者本人が被害者の連絡先を知らなければ進めることは不可能なことなどから、被疑者本人で行うことは非常に困難ですし、示談交渉自体がトラブルの種になりかねません。
しかし、弁護士であれば、被害者が警戒を解いて連絡をとってくれる可能性は高いですし、捜査機関は、被害者の承諾を得られれば、その連絡先を開示してくれます。
弁護士は、被害者の心情に寄り添った上で交渉を進めますのでトラブルになることはまずありません。
被害届の取り下げを目指すのであれば、弁護士を介した示談交渉を進めることが妥当と言えます。
そのほか、弁護士に依頼することにより、捜査機関に意見を的確に伝えてもらうことが可能となる、検察官のおおよその処分方針を予想してそれに応じた行動をとることができる、取調べ時の対応方法について相談できるなどの多くのメリットがあります。
ここで、被害届に関してよくある質問にお答えします。
Q1 高額な示談金を支払わなければ被害届を出すと脅されているがどうすれば良いか
犯罪に該当し得る行為をしてしまった方が、相手側から「被害届を出されたくなければ、慰謝料や示談金を払え」などと高額の金銭を請求される事案はよくあります。
このような場合、相手からの請求に安易に応じるべきではありません。
相場から大きく外れた不相当な金銭の支払いをしてしまうおそれがありますし、一度支払っても更なる支払いを求められたり、脅迫が続いたりするおそれがあるためです。
この点、弁護士を介して交渉をすれば、このようなおそれを除去することができます。
弁護士は、そもそも本当に犯罪が成立するのかを検討した上、相当な金額を基準として示談交渉を開始することができますので、相場から大きく外れた不相当な金銭の支払いを防ぐことができます。
また、弁護士であれば、後にトラブルがないよう、更なる請求や接触を禁止する内容を示談書に盛り込むことができます。
さらに、被害届を出すと脅して高額な請求をした相手側に恐喝や脅迫などの犯罪が成立する可能性があるところ、弁護士であれば、その成否について検討し、必要に応じて警察へ相談することができます。
脅されて困っているケースでは、早期に弁護士に相談することが妥当と言えます。
Q2 本当に被害届が提出されたのか警察に確認する方法はあるか
犯罪に該当し得る行為をしてしまった方としては、被害者から被害届が提出されたかどうかを確認したいことが多いかと思われます。
この点、警察に連絡をとったとしても、警察が被害届の受理状況につき答える義務はなく、答えるかは不明と言わざるを得ません。
被害届の受理状況は捜査情報に該当すること、答えることで本人が逃亡してしまったり、証拠隠滅を行うおそれがあることからすると、警察が教えてくれることは少ないのではないかと思われます。
警察が被害届の受理状況につき答える義務がないことは、被疑者の依頼を受けた弁護士から警察に確認したときでも同様です。
そのため、被害届が提出されているかを確認するには、基本的には、被害者に直接尋ねるしかありませんが、先ほど説明したとおり、本人が直接連絡をとることは困難かつトラブルの種になりかねませんので弁護士を介して連絡をとることが相当と言えます。
Q3 相手方から被害届を提出したと聞いたが警察から連絡が来ないのはなぜか
相手方から被害届を提出したと聞いたものの、警察から一向に呼び出しがなく、不安になる方が多くおります。
警察は、被害届を受理した後、すぐに被疑者の取調べをするわけではなく、まず、被害者・関係者からの事情聴取を実施する、現場の状況を確認するなどして外堀を埋める捜査を実施することが通例です。
そして、その捜査の結果を基に、被疑者に「逮捕の理由」及び「逮捕の必要性」が認められるかを検討し、認められれば被疑者を逮捕し、認められないと判断すれば任意での呼び出しを実施するのです。
警察から長期間にわたって連絡が来ない場合、単に周辺捜査に事件がかかっているケースも考えられますが、警察が被疑者の逮捕を検討しているため時間がかかっていることもあり得ます。
警察から連絡が来ないからと言って「実際には被害届が受理されていないのではないか」「捜査はしていないのではないか」と安易に判断することなく、捜査が進行している前提で行動すべきです。
Q4 被害届が提出されたら自ら出頭すべきなのか
被害届が既に提出されていて、捜査機関が犯人を特定している段階で警察に犯罪の申告をした場合には、自首ではなく単なる出頭として扱われます(法律上、自首とは「捜査機関が犯人を特定する前に、自ら罪を申告して処罰を求めること」を意味するためです。)。
自首が成立した場合には、刑を減軽することができるとされていますが、単なる出頭である場合、自首と異なり刑の減軽に関する定めはありません。
ただし、出頭せずに逃げ続けている場合と比較すれば、自主的に出頭した方が検察官の処分、裁判官の判決等が軽くなる可能性が高まります。
自主的な出頭は、反省の態度が顕著であると判断されるためです。
また、自ら出頭すれば、逮捕の必要性を判断する要素である「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」が低いと判断され得ます。
そのため、身柄拘束を回避したい場合には、自ら出頭することを検討すべきと言えます。
Q5 被害届を出されたら、勤務先や家族に分かってしまうものなのか
被害届が提出されただけで、そのことが勤務先や家族に知らされてしまうことはありません。
ただ、 被害届が提出されて捜査機関が捜査を開始した場合、その捜査の中で、自宅や勤務先を捜索したり、直接出頭を求めてきたりすることがあります。
そのため、そこで周囲にその事実が判明してしまうおそれがあります。
自ら警察に出頭して事実関係を話したり、証拠品を提出したりすれば、警察官がそれらの行動を起こす可能性が低くなりますので、周囲に判明するリスクを減らそうと思うならば、それらの行動も検討すべきと言えます。
上原総合法律事務所は、元検事8名(令和6年11月21日現在)を中心とした弁護士集団で、迅速にご相談に乗れる体制を整えています。
所属弁護士全員が刑事事件について熟知し、独自のノウハウを有しており、具体的な事案につき、被害届を提出されそうなとき又は既に被害届を提出されたときの具体的な対応につきアドバイスをすることが可能です。
弊所は、これまで犯罪に該当し得る行為をしてしまった方々の弁護をし、多くの事件を解決に導いてきました。
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※事案の性質等によってはご相談をお受けできない場合もございますので、是非一度お問い合わせください。
弁護士 上原 幹男
第二東京弁護士会所属
この記事の監修者:弁護士 上原 幹男
司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。
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