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精神鑑定・責任能力について元検事の弁護士が詳しく解説

放火殺人事件や通り魔殺人事件などで「被疑者・被告人に対して精神鑑定が実施される」というニュースを耳にしたことがあると思います。

令和元年における精神障害者及び精神障害の疑いのある人(以下「精神障害者等」と言います。)の検挙人数は以下のとおりです(令和2年版犯罪白書より。以下同じ)。

刑法犯の総数では、検挙人数のうち約1%が精神障害者等です
罪名別にみてみると、
  放火罪:検挙人数の15.2%
  殺人罪:検挙人数の9.8%
  脅迫罪:検挙人数の2.8%
  強盗罪:検挙人数の2%
と、放火や殺人などの重大犯罪の検挙人数に占める精神障害者等が多いのが分かります。

このような精神障害者等による事件においては「責任能力」が問題になり、裁判官が責任能力についての判断をするために、医師による精神鑑定が行われます。
精神能力は、刑事責任能力が問えるのか、つまり、犯人は罪を問えるような精神状態で犯行を行ったのか、ということを専門の医師の診断や診察等によって判断するものです。
以下、責任能力や精神鑑定などについて詳しく説明します。

「責任能力」とは何か

刑事事件においては、責任能力がない人については刑罰を受けません。
つまり、犯罪をしたとしても、責任能力がないとされれば、無罪になります。

通常、犯罪行為をした人は有罪判決を受けます。
有罪判決には、前提として、自分のすることが悪いと分かっていて止めることができたのにわざと犯罪を行ったのだから罰を受けるべきだ、という考え方があります。
この「自分のすることが悪いと分かっていて止めることができた」の部分が責任能力です。
責任能力とは、自分のすることが悪いと分かる能力(専門的には、是非を弁識する能力、と言われます。以下、「弁識能力」といいます。)及び悪いことをしない能力(専門的には、弁識に従い行動する能力、と言われます。以下、「行動制御能力」といいます。)」のことです。

具体例で説明すると、弁識能力とは、「やっていい事」か「やってはいけない事」(違法か否か)かを判断する能力を言います。例えば、「他人を包丁で刺す事」がやっていいことか悪いことかを判断できるかどうかということです。
行動制御能力とは、「やってはいけない事(違法)」と分かった上で、その行為を行わないよう制御できる能力を言います。例えば、「他人を包丁で刺す事」自体は悪いことだと分かった上で、具体的な状況下において他人を包丁で刺すことをやめられるか否かということです。

弁識能力と行動制御能力の両方があって初めて「責任能力がある」として有罪判決を言います(完全責任能力と呼ばれます。)。
対して、精神の障害により弁識能力または行動制御能力の一方でもなければ、犯罪行為をしても無罪となります(責任無能力と呼ばれます。このことは刑法第39条第1項で「心神喪失者の行為は罰しない」という形で記載されています。)
つまり、犯罪を行った人でも、精神の障害によって、やっていい事・悪い事の区別が困難な状態であったり、悪い事だとは分かっているけれど自分の行動をコントロールしてやめることが困難な状態であった人などは「責任能力がない」と判断され、刑事処罰を受けなかったり罰を軽減されたりするのです。
このように、責任能力があるか否かで罪に問われるかどうかが変わるため、責任能力が争われる事件では、精神鑑定を実施し、責任能力があるか否かを判断することとなります。

責任能力を判断する上で大事な点は、「犯行当時に」「精神の障害により」弁識能力や制御能力が障害されていたか否かです。
責任能力は、精神障害ゆえに罪を犯した人の刑を減免する制度なので、被疑者・被告人に精神障害があるのか、精神障害が犯行にどの程度影響を与えたのかなどが重要となります。
精神の障害によるものではなく元々の人格に基づく判断によって犯した場合は責任能力がありますし、仮に被疑者・被告人に精神障害があったとしても、その症状が犯行に全く影響を与えていなければ、責任能力があると判断され、罪に問われることとなります。
※裁判においては、「元々の人格に基づく判断による犯行なのか精神の障害による犯行なのか」や「精神障害が犯行に影響を与えたのか与えていないのか」の判断自体が大きな争点になり得ます。

なお、刑法第39条第2項では、「心神耗弱者の行為は、その罪を軽減する」と規定されています。
これは、弁識能力または行動制御能力がないとまでは言えないので無罪にはならない事案のうち、精神の障害により弁識能力または行動制御能力が著しく減った状態で行われた犯行の刑罰を軽くする、というもので、「限定責任能力」と呼ばれます。

精神鑑定とは何か

このように、責任能力の有無は、刑事裁判の結果に大きな影響を与えます。
責任能力の判断は、医師による精神鑑定を参考に、裁判官が判断します。
判断するのは裁判官ですが、専門家である医師の鑑定は裁判官の判断に大きく影響を与えます。
この精神鑑定には、大きく分けて2つあります。

1つ目は、簡易鑑定と呼ばれる精神鑑定です。
簡易鑑定は、数時間面談を踏まえて医師が簡易な鑑定書を作成するものです。起訴前の勾留期間中に1日で行われることが多く、比較的軽微な事件で行われることが多いです。

2つ目は、鑑定留置又は本鑑定と呼ばれる精神鑑定です。
鑑定留置は、2~3か月かけて行われる鑑定で、ニュースなどでよく聞く「精神鑑定」は鑑定留置を指しており、殺人事件等の重大事件の際に行われることがほとんどです。鑑定留置を実施している間に外に出られることはほぼないため、長期間留置されることになります。また、鑑定留置を行っている期間は勾留日数としてカウントされないため、被疑者段階で鑑定留置が行われた場合、鑑定留置が終了した後に起訴されるか否かが決まります。ですので、逮捕された数か月後に起訴される、ということも珍しくありません。

精神鑑定では、犯行当時に精神の障害があったか否か、その精神の障害はどのようなもので、弁識能力・行動制御能力に影響を与えたのかどうか、を判断します。
精神障害の代表的なものは、統合失調症、解離性障害、覚醒剤精神病などです。人格障害や発達障害、知的障害なども「精神の障害」に当たります。
なお、心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは最終的に裁判所が判断するため、仮に精神鑑定書に「心神喪失である」「心神喪失ではない」旨の内容が記載されてしたとしても、鑑定書通りになるとは限りません。

責任能力がないと認定された場合

精神鑑定等の結果を踏まえ、被疑者・被告人に責任能力があったのかを判断します。
具体的には、動機が理解できるか、計画性のある犯行なのか衝動的な犯行なのか、違法だと分かっていたのか、元々の人格と犯行時の人格に違いがあるか、犯行に一貫性や合理性があるか、犯行後に証拠隠滅をしたかなどを総合的に考慮して判断がなされます。

検察官は、責任能力がないと判断した場合には不起訴にしますし、起訴された事件について裁判官が責任能力がないと判断すれば無罪判決が言い渡されることになります。
心神耗弱(限定責任能力)の場合、検察官に不起訴にされたり、完全責任能力の場合よりも軽い刑が言い渡されます。

なお、心神喪失や心神耗弱とまでは言えなくても、精神の障害が犯行に与えた影響が大きいこともあります。
このような場合には、量刑を判断する際に考慮されることがあります。

令和元年の不起訴の理由が「心神喪失」だった人は427人、一審判決の主文が「心神喪失」を理由に無罪になった人は2人います。このように、心神喪失や心神耗弱で不起訴や無罪になった人について、社会復帰を促進するための医療観察制度というものがあります。

医療観察とは

医療観察制度とは、心神喪失又は心神耗弱の状態で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強制性交等罪、強制わいせつ、傷害)を行った人について、症状の改善や再度の他害行為を防止し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という法律により、検察官は、心神喪失又は心神耗弱を理由に不起訴にした場合及び心神喪失又は心神耗弱を理由に無罪判決又は執行猶予判決が言い渡された場合に、原則として、裁判所に対して医療観察の申立てを行うこととなります(例外的に、社会復帰促進のために医療を受けさせる必要が明らかにない場合は申し立てが不要です。)。

令和元年には、274名が医療観察を申し立てられました。医療観察を申し立てられた場合、精神病院において2~3か月の間鑑定のための入院が行われます。この274名のうち、212名が入院決定、23名が通院決定となり、申し立てられた人のほとんどに対して治療が行われています。

入院決定の場合は、指定の医療機関において手厚い専門的な医療が提供されるとともに、退院後の生活環境の調整もなされます。退院後及び通院決定の場合、原則3年間、指定された医療機関において医療を受けることとなります。
これらのような手厚い医療及び生活環境の調整等を行うことにより、再度の他害行為を防止して社会に復帰することを目指します。

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