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自己株式の買取り(取得)|メリット・注意点・手続きなどを弁護士が解説

株主対応のコストや相続による株式分散のリスクを抑えるためには、自己株式を買い取ることが有力な方法です。

本記事では自己株式の買取り(自己株式の取得)について、メリット・注意点・手続き・税金などを解説します。

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1. 自己株式を買い取るメリット

会社が自己株式を買い取ることには、主に以下のメリットがあります。

  1. ①株主を身内に限定できる
  2. ②相続による株式分散を防ぐ
  3. ③株主への利益還元になる

1-1. 株主を身内に限定できる

株主をオーナー経営者の身内に限定すれば、会社の経営は格段にしやすくなります。

たとえば株主総会の運営は、会社にとって大きな労力を要する作業です。会場の確保や招集通知の発送、想定問答集の準備など、適切に株主総会を運営するためにはたいへんな手間がかかります。

株主総会決議は、株主全員の同意を取得することで省略できます(会社法319条1項)。

会社が外部者から自己株式を買い取り、株主を身内だけに限定すれば、株主全員の同意を取得しやすくなり、株主総会決議を省略しやすくなります。その結果、実際に株主総会を開催する手間とコストを大幅に削減可能です。

また、会社経営に関して株主に不適切な点を指摘されると、株主代表訴訟などに発展するおそれがあります。しかし、自己株式の買取りによって株主を身内だけに限定しておけば、株主代表訴訟などのリスクも抑えることができます。

1-2. 相続による株式分散を防ぐ

会社株式が相続の対象になった場合、複数の相続人に分散して株式が承継されることにより、経営上の意思決定が困難になることが懸念されます。

株主について相続が発生する前に、あらかじめ会社が自己株式を買い取っておけば、その株式が相続によって分散してしまうことを防げます。

2. 自己株式を買い取る際の注意点

自己株式を買い取る際には、以下の各点に注意が必要です。

  1. ①分配可能額の範囲内でしか買い取れない
  2. ②自己株式の買取りには資金が必要
  3. ③特定の株主から買い取る際には売主追加請求権に要注意

2-1. 分配可能額の範囲内でしか買い取れない

自己株式の買取りには、剰余金の配当などと同じく分配可能額の規制が適用されます(会社法461条)。

分配可能額は原則として、自己株式を買い取る時点における剰余金の額から、自己株式の帳簿価格を控除した額です(会社の状況により、さらに増減することがあります)。

自己株式の買取りを実施する際には、分配可能額を必ず確認した上で、株式数や取得価格を決定しましょう。

2-2. 自己株式の買取りには資金が必要

自己株式を買い取る際には、売主に対して支払うための資金が必要です。会社の資金繰りが悪化しては本末転倒なので、経営状況に余裕がある場合に限って自己株式の買取りを行いましょう。

2-3. 特定の株主から買い取る際には売主追加請求権に要注意

特定の株主からの自己株式の買取りについては、原則として他の株主にも売主として加わる権利が認められています(会社法160条3項)。これを「売主追加請求権」といいます。

売主追加請求が行われた結果、取得予定の自己株式数を超過した場合には、売却を希望する株主全員から按分的に買い取ることになります。その結果、当初予定していた株主からの買い取りが予定どおり行えなくなる可能性がある点に注意が必要です。

なお、市場価格以下で自己株式を買い取る場合や、株主の相続人等から自己株式を買い取る場合には、例外的に売主追加請求権が認められません(会社法161条、162条)。

また、売主追加請求権は定款の定めによって排除できます(会社法164条1項)。ただし、売主追加請求権に関する定款の定めを新たに設け、または変更する場合には、株主全員の同意を得なければなりません(同条2項)。

3. 自己株式を買い取る際の手続き

自己株式を買い取る際の手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. ①株主総会特別決議|取得に関する事項の決定
  2. ②取得価格等の決定
  3. ③取得価格等の株主に対する通知
  4. ④株主による譲渡の申込み
  5. ⑤自己株式の取得・株主名簿への記載(記録)

3-1. 株主総会特別決議|取得に関する事項の決定

まずは株主総会の特別決議により、自己株式の買取りに関して以下の事項を定める必要があります(会社法156条)。

  • (a)取得する株式の数(種類株式発行会社の場合は、株式の種類と種類ごとの数)
  • (b)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容およびその総額
  • (c)株式を取得することができる期間(1年以内)

なお、特定の株主から自己株式を買い取る場合は、株主総会特別決議によって、取得価格等の通知を特定の株主に対して行う旨も定めます(会社法160条1項)。

3-2. 取得価格等の決定

会社が自己株式を取得しようとする場合は、その都度以下の事項を定めなければなりません(会社法157条1項)。

  • (a)取得する株式の数(種類株式発行会社の場合は、株式の種類と数)
  • (b)株式1株を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法
  • (c)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の総額
  • (d)株式の譲渡しの申込みの期日

上記の事項は、取締役会非設置会社では取締役の決定により、取締役会設置会社では取締役会決議により定めます。

3-3. 取得価格等の株主に対する通知

会社は株主(種類株式発行会社の場合は、取得する株式の種類の種類株主)に対して、自己株式を取得しようとする都度決定した事項を通知しなければなりません(会社法158条1項)。

ただし、特定の株主から自己株式を取得する場合は、従前の株主総会特別決議に従い、その株主に対してのみ通知を行うことができます(会社法160条1項)。

なお公開会社の場合は、上記の通知に代えて公告を行うことも可能です(会社法158条2項)。

3-4. 株主による譲渡の申込み

会社から通知を受けた株主は、譲渡する株式の数(種類株式発行会社の場合は、株式の種類と数)を明らかにして、会社に対して申込みを行います(会社法159条1項)。

譲渡の申込みがあった株式の総数(=申込総数)が取得予定の株式数(=取得総数)以内であれば、すべての申込みに応じて会社が自己株式を買い取ります。
これに対して、申込総数が取得総数を上回った場合は、按分的に自己株式を買い取ることになります(同条2項)。

3-5. 自己株式の取得・株主名簿への記載(記録)

取締役の決定(または取締役会決議)によって定めた株式の譲渡しの申込みの期日に、会社は売主から自己株式を買い取ります(会社法159条2項)。

その後、会社は自己株式の買取りの内容を、株主名簿へ記載または記録します(会社法132条1項2号)。これで自己株式の買取りは完了です。

4. 自己株式の買取りに課される税金

自己株式の買取りに際しては、売主・買主の双方に対して以下の課税が行われることがあります。

  1. ①売主に対して課される税金
    • (a)譲渡によって得られた譲渡所得に対する所得税・住民税
    • (b)みなし配当課税(非上場株式の場合)
  2. ②会社(買主)に対して課される税金
    • 買取価格が時価を下回る場合は、贈与税

自己株式の買取りに関する課税関係については、あらかじめ税理士に確認することをおすすめします(弁護士が税理士をご紹介することも可能です)。

5. 買い取りを拒否された自己株式を強制的に買い取る方法

自己株式を強制的に買い取りたい場合には、実務上以下のいずれかの方法が用いられています。身内以外の株主を排除したい場合(=スクイーズアウト)には、有力な方法です。

  1. ①特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条)
    総株主の議決権の90%以上を保有している場合に、他の株主全員に対して株式の売渡しを請求できます。
  2. ②株式の併合(会社法180条)
    株主総会特別決議を行えば、株式を併合することができます(会社法180条2項、309条2項4号)。株主総会特別決議には、行使可能議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得ることが必要です。

    株式の併合によって他の株主が有する株式数を1株未満(=端株)とすれば、他の株主は議決権を行使できなくなります。
    結果的に、他の株主は会社に対して端株を金銭で買い取るよう請求するため(会社法192条1項)、会社は自己株式を買い取ることが可能です。

上記の方法を利用できない場合には、自己株式を強制的に買い取ることはできません。

6. お気軽にご相談下さい

自己株式の買取は、中小企業のガバナンス強化や事業承継対策で必要になります。

自己株式を買い取る際には、会社法上の手続きを履践する必要があるほか、法律・税務の両面から慎重な検討を要します。

上原総合法律事務所は、会計事務所を併設しており、ワンストップでのご相談をお受けできます。

お困りの方はお気軽にご相談ください。

弁護士 上原 幹男

弁護士 上原 幹男

第二東京弁護士会所属

この記事の監修者:弁護士 上原 幹男

司法修習後、検事任官(東京地方検察庁、奈良地方検察庁等)。検事退官後、都内法律事務所にて弁護士としての経験を経て、個人事務所を開設。 2021年に弁護士法人化し、現在、新宿事務所の他横浜・立川にも展開している。元検事(ヤメ検)の経験を活かした弁護活動をおこなっている。

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