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ステルシングが日本でどのような罪になり得るのかについて、元検察官の弁護士が解説します

ステルシング(stealthing)とは

ステルシングとは、性行為中にコンドームを密かに取り外したり損傷させたりし、相手に隠してコンドームを外した状態で性行為をすることです。

ステルシングは、言葉自体が新しく、2010年代から議論がなされ始めました。
ステルシングをされると、性行為に基づく感染症にかかる可能性が高まりますし、女性の場合、妊娠する危険性もあります。
また、病気や妊娠がなくても、同意していないにもかかわらずコンドームをつけない状態での性行為をされてしまったということ自体が、被害者の心をひどく傷つけます。
そのため、しばしば、「レイプと同視すべきだ」という議論がなされます。

日本においても、いかにバレずにコンドームを外すかという方法を記載してステルシングを指南するウェブサイトがあるなどしており、ステルシング被害は日々刻々と発生していると考えられます。

なお、ステルシングの被害者は、男女間の性行為であれば女性が被害者になりますが、男性間の性行為においては男性が被害者になります。

ステルシングに対する海外の規制状況

2021年10月7日、カリフォルニア州がアメリカ合衆国で初めて、ステルシングを罰則付で規制しました。

このカリフォルニア州の法律においては、「言葉による同意がないのに、コンドームを取り外した状態で性器同士を接触させること」や「言葉による同意がないのに、コンドームを取り外した状態の性器と性的な部位(性器・肛門、股間、尻、女性の胸)を接触させること」が規制されています。

現在ステルシングが規制されていない国における行為であっても、ステルシングが被害者の心身を傷つけることには変わりませんので、今後、ステルシングが世界中で広く規制されていくと考えられます。

ステルシングに対する日本の規制状況

2021年11月段階で、日本においてステルシングを直接規制した法律はありません。

日本においては、2021年9月16日に法務大臣による「性犯罪に対処するための法整備に関する諮問」(諮問第117号)がなされ、これに対応して2021年10月27日に法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第1回会議が開かれましたが、この諮問にはステルシングについて触れられていません。
そのため、今後、日本においてステルシングに対する規制がどのように展開するかは不透明です。

しかし、ステルシング被害は法規制を待たずに発生しており、現行法の枠組み内で何かできないか、が気になります。
そこで、以下では、日本の現行法を前提に、ステルシングに刑罰を加えようとしたときに、どのような刑罰が考えられるのかを検討・解説します。

※この記事は執筆時点(2021年11月)における法的検討の結果を記載するもので、裁判所や検察庁における同様の法的判断を保証するものではありませんし、具体的な事件がどのような結論になるかは、個別具体的な証拠関係に依存します。
また、ステルシングについては議論が深まっていくことも想定され、議論の深まりを踏まえて本検討が改善されることもあり得ます。

どのような罪になり得るのか1 暴行罪

暴行罪は刑法208条に規定されており、「身体に対する不法な有形力の行使」を規制しています。
ステルシングにおいては、コンドームなしでの性行為について被害者の承諾がなく、「こっそり」コンドームをつけない状態でしている性行為が「身体に対する不法な有形力の行使」であるとして、暴行罪で罰することが考えられます。

暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。
多くの場合、初犯の暴行罪は処罰されるとしても罰金刑となり、また、懲役刑になるとしても執行猶予付きの2年以下の懲役です。

どのような罪になり得るのか2 傷害罪

傷害罪は刑法204条に規定されており、法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
暴行を行った結果として被害者に傷害の結果が生じれば、加害者が被害者に傷害を負わせるつもりがなかったとしても、傷害罪になり得ます。
ここにいう傷害とは、日常用語に行うケガよりも意味が広く、病気の感染、妊娠、PTSDも含まれ得ます。

ステルシングに暴行罪が成立する場合、ステルシングの結果として被害者が感染症になったり妊娠したりPTSDになったりすれば、傷害罪になり得ます。

傷害罪の刑罰は暴行罪よりも重いですが、傷害結果の程度によってどのような刑罰となるかが大きく変わります。軽い怪我であれば罰金刑となることが考えられますが、結果が極めて重大だと裁判官が考えれば、初犯であっても実刑になる事はあり得ます。

どのような罪になり得るのか3 準強制性交等(致傷)罪

「ステルシングに対して暴行や傷害よりも重い罪を成立させられないか?」
こう考えたときに思い当たるのが、準強制性交等罪です。

準強制性交等罪は刑法第178条2項に規定されています。
準強制性交等罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等※をした者」を5年以上の有期懲役に処するとするものです。
準強制性交等罪を犯した結果として人を怪我させた場合、準強制性交等致傷罪となります。準強制性交等致傷罪の法定刑は、無期又は6年以上の懲役です(刑法181条2項)。

準強制性交等罪の法定刑は5年以上の有期懲役、準強制性交等致傷罪の法定刑は無期又は6年以上の懲役と、暴行や傷害よりもはるかに重く、初犯でも実刑(刑務所行き)になる可能性があります。

※ここにいう性交等とは、性交、肛門性交又は口腔性交のことをいいます(刑法177条)。
強制性交等罪と準強制性交等罪の違いは、強制性交等罪が暴行または脅迫を手段とする犯行であるのに対し、準強制性交罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせ」ることを手段とする犯行である点が違います。

(1)抗拒不能とは

ステルシングで準強制性交等罪が成立するかどうかを検討する際には、被害者が「抗拒不能」だったかどうかが問題になります。
「抗拒不能」とは、心理的、物理的に抵抗することが不能又は著しく困難な状態を言います。例えば、隠部に薬を入れると嘘をついて被害者を騙して実際には性交をした、などという場合が抗拒不能になり得ます。

ステルシングの場合、被害者は、加害者がコンドームをつけていると誤解しています。
加害者は被害者に隠れてコンドームを外しているので、被害者が誤解する状況をわざと作っていると言えます。
では、「加害者がコンドームをつけていると被害者が誤解していた状況を作って性行為をすることは準強制性交等罪で罰し得るのでしょうか?

ステルシングについて議論された日本の裁判例は見当たらず、「加害者がコンドームをつけていると被害者が誤解していた」ことが抗拒不能にあたるかどうかを議論した日本の裁判例も見当たりません。

そのため、似た事例に関する日本の議論を参考に検討します。

(2)ステルシングに似た事例に関する日本の議論1 被害者が加害者と性行為をすること自体はわかっていたけれども、それに対して抵抗することが困難な状態にある場合

「被害者が加害者と性行為をすること自体はわかっていたけれども、それに対して抵抗することが困難な状態にある場合」に準強制性交等罪が成立するのかどうか議論があります。
同意を与えたことが自由な意思によらないと評価される場合には同意が無効であり準強制性交等罪が成立すると考えられています。
例えば、加害者が、モデル志望の被害者に対してモデルになるために必要であると信じさせて、全裸で写真撮影させたり隠部等を撫で回したりした事案において、裁判所は、被害者が抗拒不能であったと判断しています(東京高等裁判所昭和56年1月27日判決)。

この観点からは「ステルシングにおいてはコンドームをつけていると誤解させられている。コンドームをつけた状態で性行為をしようとしている被害者は、隠れてコンドームを外されているという事実を知らなければ、性行為を拒否することはできない。そのため、加害者と性行為をしようとする同意自由な意思によらず無効であり、準強制性交等罪が成立する」と考えることができます。

(3)ステルシングに似た事例に関する日本の議論2 相手方などについて誤解があるので実際の相手方による性行為に抵抗することが困難な状態にある場合

相手方などについて誤解していて実際の相手方による性行為に抵抗することが困難な場合にも、準強制性交等罪が成立するとされています。
例えば、眠気その他の事情から加害者を自分の配偶者だと誤解して性交した事例について、被害者が抗拒不能であったと判断されています(広島高等裁判所昭和33年12月24日判決)。

ステルシングについて考えると、性行為においてコンドームをつけるかどうかにより、その性行為において病気が感染したり望まない妊娠をしたりするリスクが大きく異なります。
コンドームをつけない性行為をするかどうかは、このようなリスクも考慮の上で、相手との関係性(将来も共に過ごしていきたいと思っているパートナーなのか、一夜限りの相手なのか、お金をもらって性行為をしている相手なのかなど)、相手に対する信頼度合い、個人の信条などを考慮して決定されます。
これは個人個人の価値判断に基づいて決定されるものであり、人によっては、「コンドームをつけない状態での性行為を誰とするのか」という問題は、「コンドームをつけた状態での性行為を誰とするのか」と同等もしくはそれ以上に大切な問題になり得ます。

そうすると、「性行為をするかどうかを決定するときに、性行為をするときにコンドームが付いているかどうかは、誰と性行為をするかどうかと同じように重要な考慮要素である」と言い得ます。
同じAさんでも、コンドームをつけているAさんとコンドームをつけていないAさんとでは異なる、とも言い得るかもしれません。

そうすると、ステルシングによりコンドームが外されていることを知らなかった場合には、「被害者が相手方などについて誤解していて実際の相手方による性行為に抵抗することが困難な場合」であったとして準強制性交等罪が成立する、と言い得ます。

ステルシング被害に遭ったらどうすべきか

多くの場合、性行為は密室で行われ、目撃者もいません。
そのため、ステルシングの被害にあっても泣き寝入りしている被害者は少なくないと思われます。
ですが、密室で目撃者がいなかったとしても、犯行を立証できる可能性はあります。
また、被害者は精神的にも深く傷つきますが、ステルシング被害については社会に十分に知れ渡っているとは言えず、人に言っても理解してもらえなかったり、精神的なケアの必要性に被害者自身が気がついていないこともあります。
被害者が「自分に隙があった。」などの理由で自分を責めてしまうことも少なくありません。

しかし、悪いのは加害者です。

被害者は自分を責める必要はありませんし、周りに助けてもらうべき立場にあります。
1人で苦しむのではなく、助けを求めてください。
上原総合法律事務所でも、ご相談に乗ることが可能です。
誰に相談して良いか分からないという場合には、遠慮なくご相談ください。

これからステルシングをしようと考えている人間に知識を与えることを避けるため、この記事では立証方法の詳細を記載しません

※※本記事は弁護士上原幹男の私見です。本記事作成にあたっては上原総合法律事務所の弁護士とも議論をしていますが、本記事に記載された見解は上原総合法律事務所の弁護士の総意ではありません

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